20 秘めた意思 【20-4】


【20-4】


栞は部屋へ戻ると、すぐにお風呂のスイッチを入れた。

陽人がお店で言っていた通り、確かにあのお店の料理は美味しかったが、

ひじきを使った煮物や、かんぴょう巻きなど、自分でも作れる自信はあった。

お醤油や砂糖の買い置き場所を開けると、『しなくら』マークの『高野豆腐』がある。

『高野豆腐』の料理も、確かメニューに乗っていた。


「『しなくら』か……」


栞は、『高野豆腐』を元の場所に戻し、着替えをするために部屋へ入った。





『それなら一度、食事をしてもらえませんか』



栞が眠りに入る頃、朱音はお店を出て、タクシーで部屋へ向かうところだった。

雄太はお酒が飲めないからと、おつまみを注文したが、レストランなどで頼むより、

当たり前だが値段が高いため、朱音は、ここには来なくていいと忠告した。

すると雄太はそれならばと、突然、朱音を食事に誘う。



『お母さんが退院される前に、一度』



お世話になったということと、朱音自身、雄太と食事をすることに対しての抵抗感がなく、

気付くとわかりましたと返事をしていた。

雄太はいつならば空いているのかと尋ね、朱音はメールで知らせることを約束した。

タクシーの中で、朱音は携帯を開く。

今、連絡を取るのはあまりにも遅い時間で迷惑だと思い、文面だけを打ち込み始める。

短文にするつもりが、話したいことがどんどん膨らみ、しばらく画面だけを見続けた。





冬の朝は息を白く変え、寒さに抵抗しようとする鼻先や指先を赤くする。

恵利は電車を降りマフラーを巻きなおすと、改札を出た。

そのまままっすぐ『スーパーSAIKOKU 野木平店』を目指す。

正直、栞の顔が想像できる場所に、出入りしたくないという気分だったが、

陽人がせっかくいい関係を気付いた店だったので、挨拶もしないわけにはいかず、

気持ちを固めて歩き続ける。



『会津栞』



多田部長が書き記した名前と、日付。

そのことを考えると、鳥肌が立つくらい気持ちが乱れた。

恵利は大きく深呼吸をし、スーパーの扉を開く。


「こんにちは……入りましたよ」

「あら、そう?」


入り口から入ると、栞のいる『FRESH GARDEN』の店が目の前にあった。

スーパーの中に設置されているため、外からでも中からでも店で買い物が出来る。

店員の華は、年配の女性に声をかけ、何やら小さな鉢植えを見せている。


「これなの?」

「そうなんです。花は小さめですけれど、冬の寒さにも以外に強いです」

「あら……」


華と客のやり取りがある後ろで、栞がちょうど花束を作っていた。

目の前には男性が立ち、その様子を見守っている。

恵利は、陽人が営業に初めて来た日、栞の花束作りを褒めたことを思い出した。

見事な手の動かし方だと言っていたように、栞は確かに上手に両手を使い、

素早く花束を作り上げる。


「どうですか」

「はい……イメージ以上です」

「ありがとうございます」


花がバラバラにならないようにゴムでまとめ、すぐにラッピング作業に入る。

男性は自分が注文した花束の出来に満足しているのだろう。

嬉しそうに会計を済ませ、店を出る。

陽人ではないこともわかっているのに、

以前、陽人があの人のように笑顔を見せたのだろうと、恵利は両手を握り締めた。


「あ……」


店の外にいる恵利に気付き、栞は頭を下げた。

恵利は視線を合わせたものの、挨拶を返すことなく、進み始める。


「会津さん、お知り合いなの?」

「あ……いえ、視線がこっちに向いていたので」

「そう」


パートの女性に話しかけられたが、

栞はすぐに花束で切り落とした葉や茎を集めようと、その場を離れる。

恵利は背中を向けたままスーパーに入り、振り返ることはなかった。





「無視されたの……」

「うん。目があったし、おそらく気付いていたと思うけれど、まぁ……」

「まぁ?」

「きっと玉田さん、新堂さんのこと好きだったのだと思う」

「好きだったってねぇ……子供じゃないのだから、堂々と無視は大人気ないよ」


その日、栞は朱音と部屋で食事をしながら、営業マンが陽人ではなくなり、

以前、飛行機の会で一緒になった女性だという話をした。

朱音は、ほっとけばいいとまた箸を進める。


「うん……」

「新堂さんが誰を選ぶのか、それは新堂さんの自由。
そんなことで無視したりするような気持ちの小さい女は、ほっとくだけ」

「うん……」


栞も箸を進める。


「あ……そうだ。明日、食事いらない」

「何? またヘルプ?」

「ううん、明日は、桐山先生と会う」

「桐山先生って、お母さんの主治医だっけ」

「うん」


朱音は、雪美がそろそろ退院すること、

役所に出す書類の間違いがないかを確認するのだと、それらしき理由をくっつける。


「先生が親身になって動いてくれたから、なんとかなりそうなの。
だから、一度、お食事でもって」

「……ふーん」


栞はお茶碗を持ち、朱音の顔をじっと見る。


「親身にねぇ……」

「そうだよ、そう」

「朱音……」

「何?」

「ちょっと楽しそう」

「エ……」


朱音は別に楽しくはないと言いながら、冷蔵庫を開け、ソースを取り出した。

栞の顔を見ずに、コロッケの上にかける。


「あ……」

「それお味噌のチューブだよって言おうとしたのに、
もう、あっという間に出すから」


栞は、朱音が慌てていると思い、表情がゆるんでしまう。


「いいの、これで」


栞はそのままコロッケを半分に切り、味噌をつけた状態で口に入れる。


「うわ……」

「もう、無理するのはやめなよ。逆におかしいよ。いいじゃない、楽しくたって。
だって、素敵な先生なのでしょ」

「栞」

「はいはい、わかりました。明日は食事が別、これでいいでしょ」


栞は笑いながらそういうと、ごちそうさまと手を合わせた。


【20-5】



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