21 不信感 【21-3】


【21-3】


『ごめんなさい、多田さん。お店の外で会うのは、厳禁なの』



多田は自宅のリビングで、メールを読みそれを消去した。

栞と別れ、『アンナ』との時間を持っていたが、

プレゼントを期待するような視線が、だんだんと面倒になり、

数ヶ月で関係は切れてしまった。

元々、自分好みの女性に仕立てると、飽きてしまうのは多田のクセであったため、

『アンナ』が去ったことに、こだわりはなかった。

しかし、道半ばでいなくなった栞に対しては、いまだに記憶が呼び起こされ、

気持ちに熱いものがこみ上げる。



『多田部長』



しかも、栞があの新堂と付き合っているかもしれないと思うと、

『プライド』という大きな壁まで動き出し、心の乱れは最高潮になった。

その苛立ちを抑えようと、新たな店へ行き、ターゲットを見つけるものの、

個人的な付き合いに持ち込むことが出来ず、どこかストレスが溜まっていた。

携帯をいじる自分の前を、高校生の息子が通っていく。


「おい」

「何だよ」

「お前、勉強しているのか」

「……親父に関係ないだろうが」

「何?」


息子は父親の怒りなど気にも留めずに、階段を上がっていく。

これが部下なら、難しい仕事などを押し付けてやるところだが、

家族だとそうもいかない。


「あぁ……くそぉ……」


多田は携帯を閉じ、それをバッグに押し込むとリビングを出た。





「エ……ホステスを辞める?」

「はい。突然で申し訳ありません。
でも、自分で区切らないと、いつまでも決心がつかないので」


雪美が退院してから10日経った日、

朱音は、『シャイニング』に出勤すると、ママにそう宣言した。

ママは、あなたならもっと稼げるのにもったいないと、そう引き止める。


「いえ、気にしていた母の生活も、少し変わりそうですし。
これからは、自分のために時間を使っていこうかと」

「自分のため?」

「はい。今の生活とは完全に逆の仕事です」


朱音は、これからまだ資格も取らないとならないし、すぐには無理だけれどと、

照れ笑いを見せる。ママは、何度も引き止めたものの、朱音の決意が固いことがわかり、

それならば3月末までお願いできないかと、条件を出してきた。

朱音も、世話になったママに迷惑をかけるのは嫌だったので、

それで大丈夫ですと頷き返す。


「さて、頑張ろう」


残りが見えてきた仕事だと、朱音は気持ちを引き締め、その日も開店と同時に店に出る。


「いらっしゃいませ……」


店に入ってきたのは、どこかで見覚えのある人だった。

朱音は、その男性の顔を見るが、店内の薄暗さと、相手のスーツ姿に、

すぐは思い出せない。


「『マオ』ちゃん……ちょっと」

「はい」


ボーイのリーダーに呼ばれ、店の奥に入ると、今入ってきた男性が、

『高松朱音』さんを指名すると言ったと教えてくれた。


「個人的に、知り合い?」

「……あ!」


朱音は、先日、病院に来た雄太の兄だと、思い出した。

あの時はラフな姿だったので、スーツ姿がすぐに結びつかなかった。


「わかりました、私が出ます」

「頼みます」


朱音はカーテンを開け、そのままテーブルに向かう。

雄太の兄翔太は、すぐに朱音を見ると、立ちあがり会釈をした。


「先日は、弟とお話中だったのに、邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「いえ、こちらこそ、なんだか……」


翔太は、水割りを作ってくれと頼み、ソファーに座る。

朱音は、かしこまりましたと返事をし、すぐに作り始めた。


「高松さんもお忙しいでしょうから、今日ここへ来た意味を、
説明させてもらいます」

「……はい」


ここへ来た意味と言われ、朱音は嫌な予感がし身構えた。

翔太の顔つきからしても、いい話だとは思えない。


「実は、先日東京に来たのは、雄太の生活を見るためでした。
あいつが一人でどんな暮らしをしているのか、確認というか……」


翔太は、雄太が東京で暮らしている姿を見た後、すぐに田舎へ戻り、

ある話を進めたのだとそう言いだした。


「ある……話」

「はい。うちの実家の近くにある、まぁ、個人経営している『総合病院』なのですが、
そこの娘さんと、雄太との縁談を考えておりまして」

「……縁談?」

「えぇ。相手は娘さんしか生まれず、跡取りになる男性がいないため、
娘と一緒に病院を仕切ってくれる婿をと、希望しているんです。
うちは元々サラリーマン家庭で、父も母もエリートではありません。
僕も、まぁ、並の大学しかいけませんでした。しかし、雄太は違います。
あいつは医学部にもストレートで入り、医師試験も合格しました。
もちろん、病院で勤務医をすることもいいでしょうが、地元で、
しかも、病院がもれなくついてくる縁談となれば、何も言うことはありません」


朱音は、話を聞きながら、水割りのグラスを押し出した。

翔太は軽く頭を下げてくれる。


「ところが、あいつが急に妙なことを言い出しまして」


その時まで穏やかだった翔太の目が、朱音に向かう。


「好きな人がいると……」


朱音は黙ったまま、翔太を見る。


「誰だと聞いたら、高松さん、あなただとあいつは言いました」


翔太の視線は、朱音を刺すように冷たく見えた。

朱音は、その視線に耐え切れず、下を向く。


「何を言っているんだ。患者の家族だから、ただ、入れ込んでいるだけだと、
そう僕が忠告しましたが、あいつは首を振るだけで、認めません。
それならば高松さんはどこにいるのかと聞いたら、そう、この店を言いました。
それで納得できたんです」

「納得……」

「はい。あなたは水商売のホステスだ。男の人を楽しく盛り上げて、
お酒をたくさん飲ませて、高いブランド品を買ってもらうという技にたけている」

「あの……」

「違いますか? 男を手玉に取れてこそ、一流のキャバクラの女性でしょう」


翔太の言い方は、完全に朱音を軽く見たものだった。


【21-4】



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