21 不信感 【21-5】


【21-5】


陽人はじっと自分の顔を見る多田の視線が怖かったが、

目をそらす理由もないため、そのままになる。


「新堂、お前、大事なときにはやる男だな」


多田は書類をデスクに置くと、すぐに自分の印を取り出し、

さらに上へ入れる書類を書き始めた。

『アリアンテ』は上層部からもぜひともと言われていた企業だったため、

顔つきは少し穏やかになる。


「よし、これは俺が上に通そう。それにしてもよく動いたな、向こうが」

「それは、玉田さんが何度も足を運んで、チャレンジをお願いしたからです」


陽人は自分の前に担当をしていた恵利が、断られても足繁く通い、

気持ちを動かしてくれたからだと、フォローした。

多田は、席に戻った恵利の方を向き、苦笑する。


「ほぉ……玉田が頑張ったか。お前らしい言い方だな。
まぁ、結果がオーライなら、どうでもいいことだけれど」


多田は書類を横に置く。


「玉田……」

「はい」

「午後、すぐに動くぞ」


恵利は、何を言っているのかと、返事が出来なくなる。


「『スーパーSAIKOKU 厚田店』に謝罪だよ。こういうものは素早いほうがいい。
それと、新堂」

「……はい」

「お前、一緒に来い」


多田は、そういうと昼食が終わる1時に、車を出せと陽人に指示を出す。


「僕も……ですか」

「お前、玉田の前の担当だろう。今、言ったじゃないか、
『アリアンテ』を取れたのは、玉田の頑張りが大きいって」

「あ……はい」

「それなら、お前も玉田の失敗をフォローしてやれよ。それが助け合いってものだろう」


多田は、そういうと陽人の顔を見る。


「人間というのはなぁ……余裕があると、色々うまく回転するらしいぞ。
どんなことがあっても、ゆるぎない気持ちを持って、頼むよ、新堂」


多田は陽人に向かってそういうと、そのまま営業部を出て行った。

陽人は、最後の言葉の意味がわからなかったが、

とりあえず、恵利への怒りを回避できたのではないかとほっとする。


「どんなことがあってもって……なんだ? 
多田部長の言い方って、わからないところがあるんだけどな」


陽人は席につきながら、そうつぶやく。


「新堂さん」

「はい」

「『アリアンテ』は私の頑張りなんかじゃないです。多田部長に怒られていたからって、
変にカバーするのはやめてください」

「玉田さん……」

「そういうの、迷惑です」

「おい、玉田」


恵利は隣に座った陽人に、キツイ口調でそう言った。

陽人は、変な意味ではなく、本当に向こうのシェフがそう言ったと付け足していく。


「玉田、お前、そういう態度を取っていたら、また別の場所でも失敗するぞ」


仙台はそういうと、恵利を見た。

恵利は、何も言わず席を立つと、ひとりで営業部を出て行ってしまう。


「玉田さん……」

「ほっとけって。あいつにもプライドがあるんだろ。悔しいんだ」

「……はい」


陽人は恵利を追いかけることなく、PCの電源を入れた。





『会津栞』



一人廊下に出た恵利の頭の中には、多田が手帳に書き記した栞の名前が浮かび続けた。

栞と陽人が仲良くラジコンを飛ばす姿を、消し去ろうとするが、

何度試みてもうまく行かず、また頭の中を占領する。

仙台に手帳を拾った話をした時、そのコピーを見せた。

たとえこれを明らかにしても、陽人の思いが栞から恵利に変わることはないと言われ、

確かにその通りだと納得したはずだった。

しかし、一番罪を持っているはずの栞が、一番幸せに包まれているのだと思うと、

恵利はどうしても穏やかにいられなかった。

恵利は窓から見える冬の空をしばらく眺め、気持ちを整える。

そして、大きく深呼吸をすると昼食を取るために、ビルを出た。





「それにしても、よく取れたな、『アリアンテ』」

「はい。特に僕が特別動いたわけではないんですよ」

「動かなければ、変わらないだろうが」


その日の昼、陽人は仙台と一緒に、会社近くのファミレスに向かった。

日替わりランチを注文し、スープのカップを前に置く。


「でも、前よりももっと『しなくら』の製品に自信を持てた気がします」

「うちの製品に?」

「はい」


陽人は、仙台が取引をしている店に、栞を連れて行った話をする。


「あぁ、あそこに行ったのか」

「はい。うちの製品を上手に使ってくれている店だって、一緒に行きました。
本当に美味しかったです。今まで、自分で料理なんてあまりしないので、正直、
うちの製品を食べたことがなくて……」

「うん……まぁ、乾物だしな」

「ですよね。でも、そこで味わって、それに……」


陽人はそこで話しを止めた。お冷のコップを取り、一口飲む。


「それにってなんだよ。どうしてそこで止まる」

「あ……はい。会津さんが、それからうちの製品を使って、
よく料理を作ってきてくれるんです。『SAIKOKU 野木平店』の担当は、
玉田さんになりましたけど、時間をうまく調節して、
彼女と時々、昼を一緒に食べるので……で……」


陽人は、『高野豆腐』や『ひじき』、『干ししいたけ』など、

栞が色々と工夫してくれると、話し続ける。


「あぁ……厚田店か。部長が一緒じゃなければ、ちょっと立ち寄るのに」


陽人のつぶやきに、仙台は顔をあげる。


「厚田店って、野木平店の近くだっけ……」

「はい。駅2つくらい離れていますけど、幹線道路沿いなのは、一緒です」


仙台は、多田の怪しい笑みを思い出す。



『どんなことがあっても……』



「なぁ、新堂。お前、『花屋の女神』とは、うまくいってるのか」

「……はい」

「……そっか」


仙台は、恵利と一緒に陽人を連れて行こうとする多田のことを考えた。

先日、恵利から見せられたコピーのことを思い出し、鼓動が速まっていく。


「仙台さん、どうしました? 食べないんですか?」

「……あ、いや、うん」


仙台は、『うまくいっているのならよかった』と言い、小さく頷いた。


【22-1】



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