22 罠 【22-1】

22 罠


【22-1】


「仙台さんの言っていた通りでした」

「ん? 俺、何か言ったか」

「玉田さんのことです。変な期待感を持たせないほうがいいって。
あの時は僕、それほど考えていなくて。松本からこっちに来て、
本社のルールに戸惑いそうになったとき、すぐに玉田さんが声をかけてくれて。
本当にありがたかったから、趣味の話なんかも自然に出ていて。
で……彼女が興味を持ってくれたならって、ラジコン飛行機をプレゼントしたんです」

「飛行機か」

「もちろん初心者用で、すごくお買い得だったんですよ。
それも、最初は1機だけ買うつもりでした。
そう、最初は会津さんに興味を持って欲しくて、買うつもりで店に行ったら、
2機買うとさらに安くなると言われて。それなら玉田さんにって……」

「女神のついでってことか」

「ついでというか……でも」


陽人は、言葉が続かずに黙ってしまう。

仙台は、多田の書いたメモを見せてきた恵利のことを思い出した。

恵利の中ではまだ、陽人への思いが消化しきれていないからこそ、

冷たい態度になるのだろうと考える。


「新堂」

「はい」

「お前、午後、何もないのか。他に行く場所とか、契約とか……」


仙台は、多田が陽人のプライベートを知っているのではないかと考えていた。

不手際を謝罪するのなら、担当者と上司である自分だけでいいのに、

わざわざ前任者の陽人を連れて行く意味が、他にあるのではないかと考える。


「ないわけではないですけど、でも多田部長ですよ。へんに断ったら、
また徹夜しないとならない仕事を、押し付けられそうですし。
今日はおとなしく従います」


陽人は、仙台の焦りなど何もわからず、食べ進める。


「……そっか」


仙台も、これ以上、不確定なことを押し付けるわけにはいかないため、

そのまま食べ続けた。





多田の指定した午後1時。

食事を終えた陽人と恵利が地下の駐車場に向かい、車を手配した。

恵利は、年末、多田の手帳を拾った日のことを思い出す。


「新堂さん……」

「はい」


恵利が陽人に話しかけたとき、エレベーターから多田が降りてきた。

後部座席に座ると、すぐに出るよう指示を出す。


「はい」


運転席には陽人が座り、助手席には恵利が座った。

多田は鼻歌を歌いながら、バッグを開き、そこから手帳を取り出す。

その様子を見た恵利は、すぐに視線をそらした。

多田の見ている手帳は、あの拾った手帳だったからだ。


「道路、混んでいないといいけどな……」


陽人はウインカーを出し、車を道路に出した。

平日の昼間、特に混雑もなく、車は目的地に向かって順調に進む。


「おい、新堂」

「はい」

「このまま走っていくと、花屋があるだろう。ほら、お前がお気に入りの……」


多田は『スーパーSAIKOKU 野木平店』の前にある花屋だと、そう付け足した。

恵利は、バックミラーで多田の顔を見る。

多田は恵利と視線があったことに気付き、ニヤリと笑った。


「ありますけれど……」

「そこに寄れ。小さくてもいいから花束買って来い」

「花束ですか」

「そうだ、お前が前に言っていただろう。花をもらって嫌がる人はあまりいないって。
だから、その方法を俺も活用してみる」


恵利は、黙ったまま陽人の顔を見る。

陽人は何もわからないため、小さく頷き、そのまま車を走らせた。





「いらっしゃいませ」


その頃、栞はいつものように花を楽しむ客を迎えていた。

常連客は、新しい物を見せて欲しいと頼み、あまったお花をサービスすると、

とても喜んでくれた。

季節が2月になり、3月に行われる行事などの予約が、入り始めたので、

日付や時間を間違えないように、しっかりとノートで管理する。

華はほうきとちりとりを持ち、店の前を掃きながら、

学校帰りの子供たちに、声をかけている。

何も変わらない日が、今日も過ぎて行くはずだった。


「こんにちは」

「……あ」


店の前に立ち、声をかけたのは陽人だった。

栞はノートを台の上に置き、店の外に出る。


「どうしたんですか、今日は」

「すみません、あまり大きめではない花束をひとつ」

「花束……」


陽人は、仕事先に謝罪で持って行くらしいとそういい、

自分の身体に指を隠すようにしながら、駐車場の方向を指差した。

栞は視線を向ける。


「前に言いましたよね、うるさい上司がいるって」

「はい」

「その人が持っていくって言うものですから」

「そうですか」


栞と陽人が店先で話しているのを、

多田は駐車場に置かれている車の座席からじっと見た。

栞が、何やら話をしながら花を選ぶ仕草を見つめていたが、

自然と口元に指を運び、爪を噛んでしまう。

穏やかな表情を目の前に出されて、多田は感情を押さえきれなくなっていた。


「あ……部長、どこに」


多田は車を下りると、そのまま横断歩道に向かった。

恵利は陽人と多田が一緒になってしまうと思い、どうしようかと考えたが、

結局動くことが出来ず下を向き、そのまま助手席に座り続ける。

横断歩道の信号が青に代わり、多田はまっすぐに歩いた。


「これくらいでどうですか?」

「お任せします。会津さんのセンスに、僕は首をかしげたことないでしょう」

「そうでしたっけ」


栞は陽人に微笑みかけながら、花をまとめ始めた。

リボンは何色にするかと訪ねるつもりで顔を見ると、その横に別の男性が立っている。


「……どうも」


逆光で少しわかりづらかったが、聞き覚えのある声と、その姿は、

栞の記憶を呼び起こすには十分だった。


「あ……多田部長」

「……部長」


陽人は多田と栞のことなど何も知らないため、今、花束を作ってもらっていると説明した。

多田は、陽人の方を向くことなく、じっと栞を見る。


「車の中から、姿が見えたものだから……ここだったんだね……君のお店は」


多田の言葉に驚いたのは、陽人だった。


【22-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント