22 罠 【22-4】


【22-4】


営業部に戻った恵利は、仕事が終了する時間だったため、荷物をまとめ始めた。


「玉田、新堂はどうした」


仙台の問いにも、恵利は答えを返さない。


「なぁ、玉田」

「仙台さん、私、新堂さんに言いましたから」

「言った? 何……」


仙台は、途中まで言いかけて、まさかという顔をする。


「おい、お前……」

「多田部長が自分から仕掛けたんです。だから、言いました」

「多田が? それって」

「新堂さんに聞いてください。私は、ただ本当のことを言っただけです」


恵利はそういうと、荷物を持ち、営業部を出て行ってしまう。

仙台は、戻らない陽人を心配し、ポケットから携帯を取り出した。





仙台の声を聞き、陽人が営業部に戻ってきたのは、それから5分後のことだった。

特に急ぎの仕事がないため、営業部のメンバーはほとんどが帰宅していて、

中には数名しか残っていない。


「新堂……」

「すみません、戻りが遅くて」

「おい、飲みに行こう」

「そんな気分じゃないですから」

「そうかもしれないけれど、このままお前を返すわけにはいかないだろう」


仙台は、陽人を見る。


「仙台さんも……知っていたってことですか」


陽人の言葉に、仙台はとにかくここを出ようと陽人の肩を叩く。


「仙台さんも、思っているということでしょう」

「新堂……」

「何がどうなっているんだ……どうして彼女が、あいつと……」

「新堂、営業部を出るぞ。ここで感情的になったら、お前の負けだ」


仙台は陽人の腕を引こうとする。


「でも……」

「でもじゃない。こういうときは、先輩の言うことを聞け!」


仙台の声に、数名の営業部員が一斉に二人を見る。


「……って、ほら、妙な空気になるだろう、行くぞ」


陽人は黙ったまま頷き、バッグを持つと立ち上がった。





『しなくら』から5分ほど歩いた店に、仙台は陽人と一緒に入った。

店内には、仕事を終えたサラリーマンのグループが、いくつかテーブルを囲んでいる。

陽人は、とりあえずグラスを前に置いたが、食べ物も飲み物も何も進まない。


「多田が、何か言ったのか」


仙台は、グラスに入れたビールに口をつけた。

陽人は仙台の顔を見た後、今日の出来事を細かく説明する。

急に花束を持っていくと言い出したのは多田で、陽人は言われた通り、

栞の店に買いに行ったこと。そこへ多田が現れ、栞に親しげに声をかけたこと。

栞が驚き、陽人の質問に答えられなかったこと。

仙台は、黙ったまま聞き続ける。


「多田部長は、わざと彼女の前に出たのだと思います。
結局、買った花束は相手先に渡すこともなかったし」


陽人は、行き場のなくなった花束を、車両管理の男性にあげたと、説明する。


「その後、玉田さんに言われました。
実は、年末に、営業車の中で、彼女が手帳を見つけたんです。そこに……」


陽人は話を止める。


「仙台さん、知っているんですよね……」


陽人の視線に、仙台は黙って頷き返す。


「やっぱり……」

「その手帳の話しは、玉田から確かに聞いた。でも、その名前が彼女を指すのか、
どういう知り合いなのかまで、俺たちが推測であれこれ言うのはよくないと思ったから、
だから俺は黙っていろとあいつに……」

「あの紙の内容を見れば、玉田さんではなくても、疑いますよ」

「……お前もそう思ったのか」

「頭の中が、混乱しています。どこで多田部長と彼女が知り合ったのかもわからないし、
どうしてって」

「聞いたのか、彼女に」


陽人は、驚いたまま立ち尽くした栞の顔を思い返した。

ただの知り合いなら、すぐに挨拶をしてしまえば済むことで、

それが出来なかったというのは、言えない何かがあるのではないかと、勘ぐりたくなる。


「たとえば……」


仙台は、陽人の顔を見る。


「たとえばだ、彼女がお前と出会う前に多田と……
まぁ、そういう付き合いがあったとしたら、お前はどうする」

「どうするって」

「過去の恋だとしたら、お前はどうするのか……ようはそこだろ」


陽人は、明るく笑い、花と真剣に向かい合っている栞の顔を思い出したが、

多田の嫌みな顔がそこに並び、首を横に振る。


「それは……」

「お前の言うとおり、多田がわざと自分と彼女が知り合いだとアピールしたのなら、
ここでお前が動揺したり、一人で勝手に騒ぎ立てるのが一番思う壺じゃないのか」


仙台は、とりあえず飲めと、グラスを押す。

陽人は、ビールのグラスを持ち、しばらく見ていたが、一気に飲み干してしまった。


「この話しでお前が向かい合うのは、俺でも玉田でも、ましてやあの多田でもなく、
彼女だろ。まずは彼女の話を聞けよ。色々と考えるのはそれからでいいはずだ」

「仙台さん」

「ったく、まだ2月だっていうのに、どうしてお前は多田ともめるかなぁ……」


仙台はそういうと、運ばれてきた料理を取り、食べ始める。


「この厚焼き玉子、うまいぞ」


仙台の勧めに、陽人もやっと箸を握った。





「よし、出来た」


朱音は、コンロの火を止め、少し深めの器に、ポトフを入れる。

さらにフランスパンをナイフで切り、それぞれの皿に置いた。


「さて、どうかな、これで」


朱音は、栞の部屋の襖を軽く叩く。


「栞、夕食できたよ」

「……うん」


栞の様子は、戻ってきたときからおかしかった。

何があったのか問いかけようとしたが、話す間もなく、部屋に入ってしまい、

そこから姿を見せていない。


「ねぇ、冷めちゃうからさぁ、早く出てきてよ」


朱音は、そう声をかけると、先に座り、食事をし始める。

パンにバターを塗り、また栞の部屋の方を見た。


「……もう」


出てこないのなら仕方がないと思っていると、襖がゆっくりと開いた。

栞は黙ったまま椅子に座る。


「ねぇ、今日の出来、いいと思うんだ」

「朱音」

「何?」

「今日、多田さんに会ったの」

「多田さん……って、あの?」

「そう」


栞は、そこから今日の出来事を全て語った。


【22-5】



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