23 真実の恋 【23-1】

23 真実の恋


【23-1】


栞が陽人との電話を終えて、襖を開けると、

食事を終えた朱音が、ポトフを温めなおしているところだった。


「栞、温め直すから、ほら、食べて」

「……うん」


栞は、テーブルには向かわず、陽人がくれたラジコン飛行機を手に取った。

多田のことを忘れてしまいたいと思い、

今まで興味を持ったこともなかった会に参加した。

この飛行機が傷ついたのも、栞が多田のことを考えてしまったからだったが、

陽人は文句のひとつも言わず、足をくじいた自分を自転車に乗せここまで送ってくれた。

そして、傷ついた機体にも、出来る限りの修繕をしてくれた。


「電話、新堂さんでしょ」

「うん」

「言った? 多田さんとはお店のヘルプで出会ったって」

「……うん」

「栞?」


朱音は、栞の声が涙声なことに気付き、すぐに振り向いた。

栞は、飛行機を抱きしめたまま背中を揺らしている。


「栞……」

「新堂さん、わかったって言ってくれた。でも、きっとわかっていないと思う。
ううん……納得できていない部分を、必死に沈めようとしてくれている」


朱音は、コンロの火を止める。


「私がどうしてラジコン飛行機を飛ばしたのか、
新堂さん、しつこく聞いたりはしなかったの。
ただ、気持ちは晴れたのかって、聞いてくれただけで」

「ねぇ、栞」

「このままじゃ、私……新堂さんに申し訳ない」


栞はラジコン飛行機を持ったまま、また部屋に戻ろうとする。


「ちょっと待って。ねぇ、どうするの」

「本当のことを言う」

「本当のこと? 多田さんと個人的に付き合っていたって、そう言うつもりなの?」

「そう……」

「落ち着きなさいよ、何言っているの。そんなこと話したら、新堂さん……」

「わかっている。軽蔑されることもわかっているけれど、でも、このまま、
お店のお客様だったと黙っているのは……」

「栞……」

「黙っているのは、申し訳ない」


朱音は、とりあえず1日考えた方がいいと、栞を止めた。

栞が部屋を閉めてしまわないよう、襖の端に肩を入れる。


「今、感情的になって突っ走っても、いいようにはならないって。
一日、ちゃんと考えて……ね、栞。伝え方にも色々とあるしさ。
とにかく落ちつかないと」


朱音の意見に、栞は黙ったまま小さく頷く。

朱音は、栞の肩をポンと軽く叩き、食事を取るようにとそう言った。





次の日、陽人は気持ちのもやもやを抱えたまま、仕事に向かった。

いつもの電車に乗り、営業部に向かうエレベーターに乗り、扉が開いたので、

他の社員たちと一緒に降りていくが、そこから足が進まなくなる。

このまま歩いていけば、出会うはずの人に、いつも以上に会いたくないという思いが、

歩みを止めてしまう。



『おい、新堂……』



自分に対して、いつも嫌みな言葉をぶつけ、無理な仕事を押し付けてきた多田が、

栞を知っていたということだけでも、気持ちが重かった。

さらに、栞自身が多田を知っていると認めたことで、

恵利が見せた紙の内容を否定することも出来ず、

引き寄せられそうな暗い事実に、抵抗しようと思っても、

心がついていかなくなる。

それでも、その場に立ち止まっているわけにはいかず、

ため息を落としながら営業部の扉を開けると、視線はすぐに多田のデスクに向かった。

新聞を読んでいた多田の視線が、陽人にまっすぐ向かってくる。

そして、怪しく口元が少し動いた。

陽人は、多田から視線を外し、そのまま席についた。





「いらっしゃいませ」

「ねぇ、この花、かわいいわね」

「はい」


栞の前を華が通り過ぎ、客に小さな花を薦めた。

栞は花束の飾りにつけるリボンを作りながら、何度も横断歩道を見る。

昨日の電話では明るく笑っていた陽人が、今、この場に来て、

やはり多田との関係を説明してくれと、言い出すのではないかと考えてしまう。

栞は、黄色いリボンをまとめ、糸をハサミで切る。



『栞ちゃん……』



多田は、笑顔だった。

しかし、それは再会を喜んでいたというよりも、

栞を驚かせたいという思いの方が強く見えた。


「会津さん、そろそろ休憩取りましょうか」

「うん……華ちゃん、先にどうぞ」

「はい」


華は、客から受け取ったお金をレジに入れる。


「それじゃ、先に行きますね」

「うん……」


エプロンを外そうとする華の後ろに立ち、こっちを見ていたのは、恵利だった。

栞は恵利の視線を感じ、頭を下げる。

前回、そのまま通り過ぎたときとは違い、恵利はまっすぐこちらに向かってきた。


「会津さん、話があるの」


恵利の声に、休憩を取ろうとした華の足が止まる。


「会津さん、先にどうぞ」

「うん……ごめんね、華ちゃん」

「いえいえ」


華は恵利と栞の後ろを通り、外したエプロンをまたつけ始める。

栞はエプロンを外し、恵利を陽人ともよく使うベンチに連れて行くことにした。


「同姓同名でも、勘違いでもないことがわかったわ」


恵利の言葉に、栞は振り返った。


「どういうことですか」

「あなたがどういう人間なのか、私も……そう、新堂さんもよくわかったってこと」

「新堂さんも?」


恵利は、昨日、ここへ来ると言ったのは多田自身で、

花束を買うと言ったのも多田だったこと、それなのにその花束は仕事に活用されず、

車に放り出されたままだったことを、順番に語った。

栞は、昨日陽人が言っていたことと違うと思い、口を開こうとしたが、

言葉にはならずに、消えてしまう。


「新堂さんは、どうして多田部長が出てくるのか、
最後までよくわからなかったみたいだから、私、教えてあげたの。
年末、営業車の中に忘れられていた手帳の、あるページに書かれた女性のこと」


恵利は、そういうと栞のことを指差した。


【23-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント