24 あなたを慕う 【24-5】


【24-5】


陽人は、凄んで見せた多田に対して、正々堂々と正面を向く。


「それならば部長、ご存知ですか。うちの商品がどういう特性を持ち、
どういう料理の時に、どう活用できるのか。同じ乾物でも、他社製品とどこが違っていて、
どのような……」


陽人が訴えているにも関わらず、多田はその行為を無視するように携帯を開き、

何やら打ち込み始めた。


「はいはい。面倒な話しはもうやめてくれ。いいか、あのなぁ、
商品の特性? 違い? そんなことは正直、どうでもいいんだ。
そう、取るに足らないことだ。新堂、お前は俺にものを言う立場ではないだろう。
何がどうではなくて、言われたとおりに、寄こせばいいんだよ。
これは、本部長にもしっかり話をして、決まったことだ」


多田は、何を言っているんだとつぶやき、にやけ顔でメールを打ち続ける。

陽人が多田にものを言うつもりで口を開いた瞬間、仙台に腕を強く引かれた。

陽人の不満そうな表情に、仙台は首を振る。


「おい、仙台。この世間知らずの後輩、新堂君に教えてやってくれよ。
世の中にはな、立場ってものがあるんだってことをさ……」


陽人はそのままもう一度前に出ようとするが、仙台はさらに強く引っ張った。

つかんだ腕を強く抑えられ、さすがに陽人も前に出られなくなる。


「すみません、部長。新堂も、難しい取引先と、
自分が頑張ってきたという思いがあるのだと……」

「頑張った? まぁ、そうかもしれないけどね」


陽人をどこかバカにしたような言い方をした後、多田は含み笑いをする。


「そんなに組織が嫌だというのなら……思い切って辞めたらいいのに……」


多田は、陽人に向かってそういうと、

明日の朝までに書類をここにおいて置けと指示をし、

そのまま営業部を出て行ってしまう。

陽人は仙台の手を振り払い、自分の席に座ると、両手で思い切りデスクをたたき付けた。





「お前の気持ちは、わかるよ」

「それならどうして止めたんですか」

「止めるに決まっているだろう。わからないのか。
あそこでお前が言いあってみろ、あいつの思うツボだ」


多田が姿を消した後、少し落ち着きを取り戻した陽人と仙台は、

休憩所でそれぞれコーヒーを飲んだ。陽人は、納得がいかないのか、

少し仙台から体を横に向けようとする。


「多田は、お前を怒らせたいんだ。それにたいして向かってくれば、立場をふりかざして、
また嫌みを言う。あいつにとって、一番嫌なのは、サラッとこなされることなんだぞ、
それはもう、何度もくぐり抜けてきただろう」


仙台は、何を言われても、そうですかと右から左に流せと、そうアドバイスをした。

陽人の納得がいかない顔を確認し、そうかもしれないなと何度か小さく頷いていく。


「新堂、言い方を変えて、ハッキリ言うよ」

「はい」

「『花屋の女神』。彼女はきっと、過去を割り切っているのだと思う。
でも、多田は違う。彼女がお前に気持ちを向けたことが、悔しくて仕方がないんだ。
玉田が言っていた通り、それが理由で、
お前が多田に嫌みを言われ続けているのだとしたら、
こういうときに怒れば怒るほど、あいつは影で笑うだけだぞ」


陽人は、多田の含み笑いを思い出す。


「何も知らなかったときのお前は、多田に嫌みを言われても、
それなりにこなしていただろう。あいつはそれが嫌なんだよ。
まるで無視されているみたいでさ」

「無視……」

「そう……難しいことでも、ほら、徹夜明けになっても、
お前は平然と仕事をこなしていた。あいつにとってはそれこそが、嫌なことなんだ」


仙台にそう言われた陽人は、腹を立てていたけれど、その後、いいことがあると思い、

ただ前向きに仕事をしていた自分の姿を思い出す。


「思うツボ……」

「あぁ……」


陽人は、自分に対して、わざとらしい態度を取り続ける多田の行動を、

ひとつずつ思い返していく。確かに、言い方、態度、ひとつずつを取ると、

腹の奥底から怒りが沸いてくるけれど、冷静に考えてみると、

多田自身が動かせるものは、何ひとつなかった。嫌みな部分を全て削り取ってしまうと、

一つ一つの出来事は、それほど大きなものではない気がしてしまう。


「そっか……思うツボですよね、今の僕は」

「ん?」

「そうでした、今、気付きました」


陽人はそういうと、笑みを浮かべ、仙台に頭を下げる。

仙台は、急に態度を変えた陽人を、不思議そうに見た。


「仙台さんはすごいですよ。本当に尊敬します」

「は? 何を言っているんだ、お前」

「いえ、もやもやしていたものが、今、パッと晴れましたから」

「新堂……」

「僕の行くべき道が、見えました」


陽人はそういうと手に持っていたコーヒーを飲み干して、

缶を少し離れたゴミ箱に向かって放り投げる。

缶はゴミ箱の端に当たり、そのまま中に入った。


「よし! OK」


仙台は、あまりにも変わった陽人の態度に、半分笑顔を見せながらも、

どこか不安な思いがよぎった。





陽人は仕事を終えて部屋に戻ると、

栞から戻されたラジコン飛行機を箱から取り出し、あらためて丁寧に拭いた。

以前、初フライトでつけた傷は、出来る限り修復したが、

当然、新品同様にはならなかった。

申し訳ないと頭を下げた栞に対し、

陽人は自分が、傷は頑張った証拠だと栞を励ましたことを思い出す。

信じていた人が、自分を単なる道具のように見ていたという、

栞の嫌な思いは、傷になって残っているだろう。

しかし、その傷も含めて愛していくことは、無理なことではないはずだった。

『多田のツボ』という仙台の言葉を借りれば、今の陽人と栞の状況こそ、

多田の思うツボだった。

わざとこじらせようと姿を見せ、存在をアピールした男は、

きっと、栞と自分を揺さぶっているつもりだろう。

陽人は磨き終えた機体を、また箱に戻す。

そして、時計を確認すると、あと数時間で来る明日という日を心待ちにした。





『今日の昼休み、話があります』



昨日の遅くに、陽人から入ったメールを、栞は朝、身支度の最中に確認した。

どういう話なのか、何を言われるのかわからず戸惑ってしまうのに、

心のどこかではもう一度会えるという期待が、膨らんでしまう。


「どうしたの? 栞」

「うん……」


朱音はテレビをつけると、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。

柑橘系の味がする水は、朱音の定番になる。


「新堂さんから、メールが来た」

「新堂さんから?」

「うん……お昼休みに話があるって」


栞は、どうしたらいいだろうかという顔で、朱音を見る。


「正々堂々と、待っていればいいよ、栞」

「朱音」

「新堂さんが、何を言うのか、両方の耳でしっかり聞いておいで」


栞の期待感以上のものを、朱音は持っていた。

何度か顔をあわせただけだけれど、陽人の性格のよさというものは感じ取れていた。

多田とのことを隠さずに語った栞を、

ただ突き放すことなどないとそう思っていたところもある。


「大丈夫、何があっても、私はここで待っているから」


朱音の言葉に、栞は小さく頷き、仕事に向かった。


【25-1】



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