25 信じ合う心 【25-5】


【25-5】


「はぁ……」

「はぁ……ってなんだろう」

「なんだろうじゃないです。どうしてお店に」

「お店が一番ゆっくり話せるかなと」


その頃、朱音のいる『シャイニング』には、仕事を終えた雄太が客として来ていた。

お酒が飲めないため、いつものつまみを数点テーブルに乗せる。


「メールくれたでしょう、だから話を聞きたくてすぐに来たのに」

「電話でよかった」

「仕事が遅く終わるのに、それから電話をしていたら、睡眠時間が互いに削られるよ」


雄太はフォークで、ナゲットを口に入れる。


「保育士の見習いとして働けるところがあったって、そう書いてあったけれど」

「うん……」

「どこにあるの?」

「駅の近く」

「駅? どこの」


雄太の話しに、朱音は近付く顔を軽く叩く。


「イタッ……」

「もう……ここ、私の部屋じゃないですけど」


朱音はそう言いながらも、雄太と話せる時間が貴重だと、笑顔になった。





朱音は、仕事を終えて着替えを済ませると、挨拶を済ませ外に出た。

震えそうな気温の中、階段を下りていくと、反対側のコンビニにいた雄太が出てくる。


「ごめんなさい」

「うん」


二人は揃ってタクシーを捕まえると、朱音を送り届けるために走り出した。


「なんだか、先生にお金ばかり使わせてしまって、悪い気がするけれど……」

「いいよ、毎日来ているわけじゃないし。
朱音さんが保育士見習いの仕事を始めるまでの辛抱だからさ」


雄太はそういうと、座席の背もたれに寄りかかる。


「今ね、一緒に住んでいる親友が、ちょっと苦しい時なの。だから、まだ、
先生とこうしてお付き合いを始めたことも、話せていなくて……」

「……うん」

「小さい頃からいつも一緒に泣いたり笑ったりしてきた親友だから、
彼女が塞ぎこんでいるときに、ねぇ……」


陽人と会うと言っていた栞だったが、結果はまだわからない。

思っていた方向に話が向かわなかったらと思うと、

朱音は胸をギュッとつかまれたような、感覚に押しつぶされそうになる。


「もしダメだったらって……」

「いいよ、そんなことは気にしなくても。
こんなふうに会って、ちょっとした時間に話すのも、結構新鮮だから」


雄太はそういうと、雪美の様子はどうだと聞き始め、

朱音は、それなりに頑張っているみたいだと、近況報告をした。





朱音はタクシーを降り、いつものように玄関までくるとカギを取り出し、

ゆっくりと扉を開けた。リビングの電気がついているのは、

朱音が真っ暗な中に戻るのはかわいそうだという、栞の思いから続いていることになる。

朱音は靴をしまい、そのリビングに入る。


「うわ……やだ、栞」

「お帰り、朱音」

「栞……。あのさ、えっと今日」

「うん……」


栞は今朝までの沈んだ顔とは違っていた。

朱音は、上着を脱ぎながら、新堂さんと話せたのかと問いかける。


「そう、だから朱音に報告したくて待っていたの」

「うん」


栞が右手で何かを示したので、朱音もその方向に視線を動かした。


「あ……」


消えていたはずのラジコン飛行機が、またいつもの場所に戻っている。


「これ……」

「新堂さんからあらためてもらってきました。
話を聞いた日は、頭の中が整理整頓できなくて、持って帰ったけれどって」

「うん」

「多田さんのことも、わかって……それでも、もう一度お付き合いをしてほしいと、
そう言われた」


栞の言葉に、朱音はすぐ顔を向ける。


「本当に?」

「本当だよ。最初は、過去を知ってしまった自分の存在が、私を傷つけるかもしれないと、
そう思ったって。でも、ここで諦めるのは、違うと思うってそう……」

「うん」

「新堂さん、多田さんのやりたいようにさせるつもりはないって。
私たちが互いに遠慮して諦めてしまったら、向こうの思うツボだって」


朱音は、その通りだというように、何度も頷き返す。


「そうだよ、そうだよ。過去なんだもの。栞だって、もう振り切っているし。
これからの人生の方がよっぽど長いんだもの」

「うん」

「うん……うん……」


朱音は、ラジコン飛行機を見ながら、目に涙を溜めていく。

正直、ここ数日感の栞に対し、何をしてあげればいいのかわからず、

一緒に空気を吸うことすら辛かったと、正直に白状する。

白状しているうちに、止めていた涙が、安心という感情とともに流れ出す。


「朱音……」

「ごめん。私がヘルプに誘ったからとか、取り返しのつかないことをしたとか、
そこまでグルグル頭の中を回ってさ。どうしたらいいのかって、ずっと……」


朱音は、よかったねと栞にしがみつく。


「朱音……」

「よかった……よかったよ、栞」


朱音の思いに触れ、栞もごめんねと繰り返す。


「栞……あのね」

「うん」


朱音は、さらに栞をしっかりと抱きしめる。


「私、桐山先生とお付き合いを始めたの。それに、今の仕事を辞めたら、
保育士見習いとして働ける場所も見つけたの……で……」


朱音の突然の告白に、栞は思わず声をあげ、抱き合っていた体を離す。


「桐山先生って、あの……お母さんの?」

「そう」

「いつから?」

「えっと……ちょっと前」

「どうして言わないのよ」

「……だって」


朱音は、栞が辛いのに、自分だけが浮かれていることなど出来なかったと、

また口を結ぶ。


「やだ……朱音」

「あはは……本当、やだやだ、もう」


二人はまた抱きしめあい、そして笑い出す。

時計は日付を変えていたが、栞と朱音の話しは、そこからしばらく続いた。


【26-1】



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