27 決意 【27-4】


【27-4】


「いいの? もらっても」

「うん。良ちゃんが作ってくれたの。昼のときにはあまり食べたいと思わなかったのに、
新堂さんがここに来てくれたら、ほっとしたのか、急にお腹が空いた」

「だったら会津さんが食べたらいいよ。君に作ってくれたのに」

「半分にしたいの、いいでしょ」


栞は、陽人が戻ってきたことに安心し、華に頼んで、30分だけ特別に休憩をもらった。

1時間でもいいですよと、華は笑ったが、それは責任者としてお断りする。


「責められた?」

「いや。事実確認のようなものだった。おそらく処分は決まっているんだと思う」

「……うん」


陽人は、サンドイッチを口に運ぼうとして、そうだと止める。


「そうそう驚いたんだ。面談をした人のひとりが、なんと、僕が入社試験を受けた時の、
面接担当者で。向こうは覚えていないだろうけれど、僕は思い出した」


陽人はこういう偶然もあるんだねと、笑顔になる。


「言いたいことも言えたし、何も悔いはない。明日、処分を聞いたら、
そこからスタートだよ」

「新堂さん」

「大丈夫。僕はしっかりと前に進むつもりだ。
今までも色々な挫折を味わってきた。こんなところで負けたりしない」


栞はその通りだと、何度も頷き返す。

多田とのことを乗り越えようとしてくれた陽人を信じ、ついて行こうとそう考える。


「美味しい……これ」

「美味しいでしょ。良ちゃん、パンの焼き加減とかうまいの」

「うん。『ライムライト』って言ったよね、喫茶店」

「うん……」

「今度、寄らせてもらおうかな」


陽人は、栞が褒めるコーヒーも、飲んでみたいと言いながら食べ進める。


「本当に? 良ちゃん、喜ぶと思う」

「そうかな」

「うん……」


栞は、それなら今度一緒に行こうと、同じようにサンドイッチを食べ進めた。





『新堂陽人 戸柱物流センターに異動』



陽人の謹慎処分最終日。

陽人の処分は、『しなくら』の製造ラインのひとつ、

埼玉県にある『戸柱物流センター』に異動というものに決定した。

ここでは、関東地方、東北地方で販売される乾物の製造、箱詰め、

配送手配などが行われている。


「まずは、首の皮つながり、おめでとう」

「おめでたいですかね」

「めでたいに決まっているだろう。お前、上司殴って給料も下がらないし、
解雇でもないんだぞ」

「そうですね」


陽人は処分が決まったと連絡を受け、仙台と一緒に昼食を取ることにした。

この後、人事部に向かい、正式に異動の連絡を受ける。


「戸柱かぁ……ちょっと通うにはきついな」

「まぁ、朝は1時間半以上早くでないと難しいでしょうね。
それに、配送の流れがあるので、1週間に1日くらいは、
深夜もいないとならないそうですし」


工場自体は昼間に動くのだが、製品を配送するシステムは、24時間稼動のため、

トラブルにすぐ対応できるよう、本社の人間が、事務所脇にある部屋を使い、

泊まりの仕事もしなければならない。


「行ったことあるのか、戸柱」

「一度だけ、新入社員の研修で東京に来たとき、一番都心に近い工場だと、
見学に行きました。あのときは、作業服を着た人がとにかくたくさんいて、
管理をする人たちは、どうも年配の人たちばかりだった気がしますけど」

「いや、今もそうだと思う。俺たちのような年齢の社員は、普通行かないからな」

「ですよね」


陽人は、ナイフとフォークでチキンステーキを切っていく。


「そうか、そうなるとやっぱりめでたくはないな。お前、営業成績だってよかったし、
頑張っていたら、もっと色々出来ていたはずなのに」


仙台は、多田が上司でなければなと、ため息をつく。


「仙台さん。気持ちは前向きに持っていきましょう。わかります?
僕が『戸柱』と聞いて、何を思ったか」

「……わかる気がする」

「あれ? わかります?」

「ラジコン……だろ?」

「そうです」


陽人は、工場の近くに大きな公園があること、

車を少し走らせたら、ハイキングが出来るような場所もたくさんあることなど、

明るく話し続ける。


「ただひとつ」

「ひとつ?」

「はい……仙台さんにはお世話になりっぱなしで、何もお返し出来なかったなと。
それが気がかりです」


陽人は、せめてここはおごりますよと、伝票をつかもうとするが、

すぐに察した仙台に、入れものをスッと移動されてしまう。


「あ……」

「くだらないことを言うな。お前、戻ってくるんだろうが。
戻ってきたらバリバリ手伝ってもらうからな。いいか、倉庫の仕事だから、
やりがいが持ちにくいかもしれないけれど、どんな態度を取られても、
絶対に、腐ったりするな、辞めるなよ」

「はい」

「約束だぞ」

「……はい」


陽人は、あらためて仙台という先輩の大きさを感じながら、

また、こうして食事をしましょうねと、そう言った。





お店を抜けるのは、3月末となっていた朱音だったが、

新しく入った女の子がしっかりしていて、すぐに店に出られるようになり、

急な休みが出たときの要員としてだけ、働くことになった。

そのため、『ベビーランド』での研修を少し早めてもらい、

6時の仕事開始に遅れないよう、自転車を必死にこぎ続ける。

駅から商店街を抜け、すぐの信号を渡ると、コンビニが1階にあり、

朱音の職場は、その2階になった。

自転車を止め、階段を上がると、強化ガラスの扉の前に立つ。


「ふぅ……」


『愛風園』でも、小学生の高学年くらいから、小さな子供たちの面倒をよく見ていた。

いたずらも、ちょっとしたわがままも、かわいいと思えるくらい子供が好きだったので、

これからはお酒やおべんちゃらなどない世界に入り、

自分の時間を作っていこうと考える。

朱音がインターフォンを押すと、一人の保育士が気付き、扉を開けてくれた。


「あの、今日から見習いをさせていただく、高松です」

「あ……はい、どうぞ」


先輩の保育士は、奥に園長がいるのでと説明し、案内してくれた。

子供たちはすぐに朱音に気付き、『誰なのか』と連呼する。


「はいはい、ほら、みんな。静かにしましょう」


朱音は、そばに来た女の子の頭を軽くなでると、言われた通り奥の事務所に入った。


【27-5】



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