37 誠実な愛 【37-1】

37 誠実な愛


【37-1】


噴水がきれいな公園に作られたコースを、一人1周して戻ってきて、

次の走者にたすきを渡すため、スタートは全てここからだった。

途中、子供達がそりを使って遊ぶような芝生の山もあり、

平坦なコースとは違う、走り方も必要とされる。

栞と朱音は、掲示板に張り出されたコースを見ながら、

雄太に『登った後の下り』が、結構体に響くと教えてもらう。

栞は、おにぎりをあげるきっかけを作った、芝生の坂での雨、

また、横断歩道を歩きながら渡ってくる陽人のことを思い出す。

過去の自分を蘇らせたくなくて、あえて避けてきた『走ること』に、

もう一度向き合おうとしたのは、飛行機を飛ばした栞を、

追いかけてくれたことからだった。



『逃げずに、出来ることをして向き合い、戦う』



いつも優しく、穏やかな陽人の中にある、誰にも負けない強さを、

栞は感じながらも、どうか無事にレースを終えて欲しいと思いながら、

両手を握りしめる。


「位置について……」


少し離れたスターと地点で、スタートの合図が鳴り響き、

歓声と拍手の中、陽人のレースがスタートした。





「今日?」

「うん。新堂さんが交流マラソン大会に出るそうだ」


その頃、良牙はいつものように『ライムライト』を開け、時計を見た。

スタート時間はすでに30分前のため、レースは動き出しているだろうなと考える。


「栞ちゃんも朱音ちゃんも、応援に行ったわけね」

「うん……」


すみれは『そうなんだ』と言いながら、同じように時計を見る。

するとお店の入り口が開き、毎週同じ時間に現れる、白髪の男性が、

手をあげて入ってきた。


「いらっしゃいませ」


男性は『いつもの』と軽く手を挙げ、奥の席へ向かう。

良牙は『かしこまりました』と答えると、温めてあるカップを一つ前に出した。





陽人の入った『戸柱物流センター』チームは、12チーム中7位の位置にいた。

入賞チームとして賞状がもらえる8位は、ギリギリの線になる。


「去年は8位だったのか、これを見ると」

「そうみたいね」


メンバーはいつも変わらないチームのため、年を取っていくことが、

マイナスになっていると、手作りの旗を振る女性達は言い始める。


「でも、ほら、今年はさ」

「そうそう、新堂さん出てくれたものね」


陽人の事情を細かく知らないパートたちは、そう言って応援をするが、

そばに立つ栞にしてみると、『その期待』が怖くもあった。

隣に立つ朱音は、栞の気持ちがわかるだけに、さらに隣に立つ雄太の脇腹を肘でつつく。


「ん?」

「ねぇ、次でしょう、新堂さん。あの表情を見て、どう思うの?」

「どう思うって」

「だから、走れそうかって聞いているの」


朱音の言葉に、雄太は呆れた顔で前を見る。


「ねぇ……」

「いいから黙って。僕たちはここで彼を見守ればいい。強い人なんだろ、
自分のことはしっかりわかっているはずだ」


雄太のしっかりした台詞に、言い返そうとした朱音の声は出なくなる。

人の騒がしさが近くなり、陽人はたすきを受け取るゾーンに入った。


「あ、新堂さん! 頑張れ、頑張れ、抜いちゃえ!」


パートたちの声が響く中に、一人の女性が現れる。


「新堂さん! マイペースだからね!」


朱音は栞の手を握ると、陽人にアピールした。

陽人は栞と朱音に気付き、左手を振って声に応える。


「あら……」


パートの冨美子は、陽人の優しい表情を向けた女性が隣にいることに気付き栞を見た。


「あら、もしかしたらあなた……ラブラブ弁当の?」

「エ……」


あのかわいらしいお弁当を作った人ではないのかと、他の数名と栞に声をかける。


「ねぇ、そうでしょう」

「そうよ、そうよね……」


そのざわめきの後ろに立った麻紀は、栞の顔を見る。

パート主婦達の迫力に、少し押され気味の栞を見ながら、優しく微笑んだ。



歓声が上がり、陽人がたすきを受け取りスタートした。

軽快な足取りで、栞たちの前からどんどん離れていく。


「新堂さん、スタートしたね」

「うん」


栞と朱音は、できる限り陽人の走りを見ようと、応援していた場所から離れ、

コース全体が見やすい場所に移動する。

たすきの色は黄色で、陽人はチームで揃えた水色のTシャツを着ているため、

その色を必死に追いかけた。

栞の手は自然と前で組み合わされ、とにかく祈り続ける。

朱音はその栞を支えるような場所に立ち、黙ったままで陽人の姿を追った。

雄太は二人の絆を知り、腕時計を見る。

周りとのペースがどれくらい違うのかと思いながら、同じように陽人を目で追った。


【37-2】



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