37 誠実な愛 【37-3】


【37-3】


『しなくら営業部』



レースから2日休みをもらった陽人が、久しぶりに営業部に出社する日が来た。

以前のように、早い時間ではなく、サラリーマンたちと一緒に、ラッシュに揺れていく。

栞は届いた花を綺麗に並べ、そのそばで華がホースを伸ばし、

開店前にもかかわらず、数名の客達が、楽しそうに花を見始めた。


「何かあったら、声かけてね」


栞はそういうと、一度伝票を書くために、中に入った。





「おはよう!」

「朱音先生、おはよう」


子供達が今日も『ベビーランド』の扉を開け、かわいらしい声をあげる。

仕事に行く母親が心配しないように、笑顔でその姿を見送った。

子供の荷物をロッカーに入れて、次の子供を迎えていく。


「朱音先生……これ見て」

「あ……どうしたの? 転んじゃった?」


子供達の声に応えながら、朱音は絆創膏に指で触れる。


「痛いのは、飛んでいけ……」


子供は嬉しそうに笑うと、その場で大丈夫だよとジャンプした。





「おはようございます、どうですか、体は」


休みから戻った雄太も、朝から精力的に診察を続けた。

患者達の胸に聴診器を当てて、その鼓動を聞き取っていく。

雑音はないかどうか、乱れはないか。

時々、話し出してしまう患者もいるため、その言葉に頷いてあげる。


「はい、大丈夫ですよ、正常です」


雄太の言葉に、心配顔だった女性は嬉しそうに笑うと、

来月、子供が結婚するのだと、そんな世間話を聞くことになる。


「そうですか……」

「先生はまだですか?」

「あ……はい」


患者の女性は、誰か紹介しましょうかとさらに声をかける。


「ありがとうございます、でも、大丈夫です。お付き合いをしている方はいますから」

「あらあら……」


患者の驚く顔を見ながら、雄太は次の予約を決めましょうと、カレンダーを出した。





陽人は『しなくら』の看板を確認すると、ビルの中に1歩ずつ進んだ。

受付の前を通り、そのままエレベーターを待つ。

数ヶ月前までいた場所なのだから、別に初めてでもないのに、

多田を殴りつけてそのまま出て行ったこともあり、

営業部員達の表情がやはり気になってしまう。

結局、なぜ多田を殴ったのかという、正式は理由は何も言わなかった。

開いたエレベーターに乗り、陽人は営業部を目指す。

懐かしい場所に着くと、そのまままっすぐに進んだ。

営業部の扉に手をかけ、そのまま押すようにして入っていく。


「お、来たぞ!」


聞こえたのは仙台の声で、その合図に立ち上がった部屋にいる数名の営業部員が、

『おかえり』という言葉を口にしながら、拍手で出迎えてくれた。

陽人はそのハプニングに足が止まる。


「新堂、復帰おめでとう!」


仙台はそういうと、以前と同じ場所に戻した机を両手で叩く。

その隣には恵理が立ち、笑顔を見せた。


「あの……すみません」

「何驚いているんだよ、さっさとこっちに座れ」


仙台はそういうと、陽人の腕を引っ張っていく。


「いえ、あの仙台さん」

「みんな、お前がどういう理由で戸柱へ行ったのかくらい、ちゃんとわかっているんだよ。
自分たちの不平、不満を全てお前がかぶったと、思っているから、
そんなに恐縮する必要もないし、遠慮もいらない」


仙台の声に、『俺も、多田部長の嫌なところは、全て言ってやった』とか、

『お前に申し訳ないと思っている』など、他からも言葉が飛んでくる。


「風通しのよくなった営業部で、心機一転、頑張ろう」

「……みなさん、ありがとうございます」


陽人はそういうと、営業部のメンバーの顔が見える方を向き、

しっかりと頭を下げた。





栞は、昼休みに陽人からのラインを読み、営業部で温かく迎えてもらえたことを知った。

仙台たちもいるため、問題はないだろうと考えていたものの、

『よかった』という思いでほっとする。

携帯を見ている栞の前を、潤がお湯の入ったカップラーメンを持ち通り過ぎ、

斜めになるベンチに座った。

栞は、一度軽く咳をする。


「少しは自炊もしているんですか?」


バイトに来ている時の潤しか知らないため、栞はそう声をかけた。

潤は答える気持ちがないのか、ラーメンの蓋だけを取ると、箸を割り、すすり始める。


「野菜を取るのはめんどうかもしれないけれど、
スーパーにはそのまま食べられるものもあるし、今は冷凍の野菜も結構いいよ」


潤は一度、栞を見たがまた黙ったままになる。

その後も、『パンケーキモーニング』が食べられるお店のこと、

駅裏にある小さなパン屋が、コッペパンが美味しくてすぐに売り切れることなど、

栞は、『知っているのか』と問いかけた。


「うるさいな……」


順はそう言い返すだけで、問いの答えは戻さない。


「うるさいと思うのなら、そっちが後から来たのだから、
別のところで食べたらいいでしょう。ここに座って食べるのなら、こっちの質問くらい、
答えなさいよ」

「どうして答えないとならないんだ」

「興味……あるもの」


『興味』という言葉に、潤は顔をあげた。


【37-4】



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