37 誠実な愛 【37-4】


【37-4】


「どんなふうに今、生きているのか、興味……出てきたから」


栞は、何度もここで顔を合わせているのだからと、

デザートとして買ったヨーグルトの蓋を取る。


「私は大学入試もしたことがないから、大学って全然知らないでしょう。
将来、どんな仕事に就きたいと思っているのか……とか、それに……」

「いいよ、そんなふうに無理に言わなくたって。あなたにとって俺なんて、
目障りなだけだろう。急に出てきて、弟だって言って、親のこと……話してさ」


潤はそういうと食べ終えたカップの中に、箸を入れる。


「あんただけじゃないよ、あの親に捨てられたのは」


潤はそういうと、何かを思い出すのか、フッと哀しそうな笑みを見せる。


「あの人は俺にも全く興味がないんだ。大学どこを受けるのかなんて一度も聞かないし、
一人暮らしをするのだと言ったって、荷物の準備すら手伝おうとしなかった」


潤の言葉に、栞はやはり考えていた通りだったとそう思う。


「酒飲んで、人と話すのは好きだけれど、それも自分勝手に選べるからいいんだよ。
子供のように、何かを強制的にしなければならないとなったら、すぐに手を離す」


潤は両手を上にあげる。


「それならさ、いっそ、消えてくれた方が気が楽だ。
存在はあるのに、見えないような間柄じゃ、ない方がマシだと思えてくるし」


栞は潤の嘆きや怒りを、ただ聞き続けた。

親がそばにいないことで、自分は色々と大変だったという思いは持っていたが、

目の前にいて興味を示されない辛さも、確かにあると思えてしまう。

良牙に振り向いて欲しくて、地団駄を踏んでいた日々がふっと蘇ってくる。


「それでもそばにいてくれたのでしょう、私からしたらうらやましいよ」


栞はそういうと、『一つだけ』と人差し指を1本立てる。


「私、あなたに勉強は教えられないけれど、
一つだけ、自信を持って教えてあげられることがある」


潤は栞を見る。


「親なんかどんな人間だっていい。どうだっていいの。
3歳の頃に捨てられた私だってちゃんと、今、自分を理解してくれる人に会えたし、
心から楽しい、嬉しいって感じることが出来るもの」


栞は、心を広げて閉ざさなければ、必ずわかり合える人と出会えるものだと、潤に話す。


「自分が心を閉ざさなければ……だからね」


栞はそういうと、そろそろ時間だと立ち上がる。


「あ……桑本君、ラジコン飛行機興味ある?」

「そんなもの、ないよ」

「そう……もし、少しでも興味出そうなら教えて。とっても楽しいから。
大空の下で自分の意思を乗せて、ラジコン飛ばせると、『どうでもいいや』って、
悩みが吹っ飛ぶの」

「……は?」

「『爽快感』でるから」


栞はそういうと、潤が食べ終えたカップを指さす。


「同じ『塩』なら、『ハコダテ一番』が美味しいよ。今度食べてみて」


栞はそう告げると、そのまま『FRESH GARDEN』に戻っていく。

潤は空いたカップを一度見た後、窓から見える空を見た。





「へぇ……ラジコンのことを?」

「そう、そう決めていたわけじゃないのに、なんだろう、ふっと口から出ていったの」


栞は仕事を終えた後、陽人の部屋へ向かい、今日の出来事を語った。

潤は思っていた通り、親とすれ違っていること、

その寂しさから自分の前に現れたのだと言うことも語る。


「私を産んでくれた人は、母親としては素質がない人なんだろうな。
一緒に住んでいる子供とも、うまく向き合えないなんて」


別れた男の顔に似ていると言われた栞。

一緒にいるのに、興味を持たれない潤。


「それでも、産んでもらえなかったら栞も彼も、今がないわけだろ。
大学の時にいたよ、いつまでも子離れが出来ていない親」

「子離れ?」

「あぁ……入学式とかに来るのは当然だと思うけれど、試験の日程のこととか、
学部によっては毎日同じ校舎で授業するわけではなくて、別校舎だったりするんだ。
それが信用できないと思ったのか、学校に問い合わせがあったり、
校門まで迎えに来たり……」

「エ……お迎え?」

「うん。しかも男子学生だったから、影のあだ名はもちろん『マザコン』」


本人は嫌がっていたけれどと、陽人は思い出すのか笑い出す。


「あ……笑ったらダメなところでしょう」

「そうかな。栞はその現場を見ていないからだよ。思い出すと……おかしいって」


陽人はラジコンを丁寧に拭きながら、『そういえば』と言葉を続ける。


「そういえばそいつ、家に戻りたくなくて、大学で研究ばかりしていたら、
その研究が表彰されて、学年で一番いい就職をした」


陽人は大手の化学メーカーの名前を出す。


「国際的な賞をもらって、今も研究員として働いているはず」

「へぇ……」


陽人は、人生のどんな時間がいい結果を生み出すのかはわからないよねと、

機体を拭きながら話していく。


「ねぇ……」

「何?」

「陽人さんのお母さんは? ほら、前に少し話しをしてくれたでしょう。
お仕事を続けていてって」

「あぁ……うん。今もまだ勤めているよ。家のことをするよりも、仕事が好きって、
言う人だから」


陽人はそういうと、栞を見る。


「へぇ……そうなんだ」


栞は、『会ってみたい』という言葉を秘めたまま、お玉でスープの味を確認した。





陽人が本社に戻ってから半年以上が過ぎ、季節は秋を迎えた。

栞と一緒に働いていた華は、来月オープンする新店舗を任されることになり、

あと数日でこの店を去って行く。


「はぁ……」

「どうしたの」

「最初は嬉しかったんですよ、一応店長だし」

「そうだよ、これからは華ちゃんが仕入れも、売り上げも計算して……」

「あぁ……そうなんですよ、そうなんです」


華は、責任が大きくなりますよねと、ため息をつく。


「それはそうだけれど、でも、アイデアも出せるし、楽しいって」

「楽しい……あ!」


華は栞より先に横断歩道に立つ陽人を見つける。


「ほら、王子様ですよ、王子様」

「華ちゃん」

「えへへ……」


華を軽く責めた栞が振り返ると、

王子様と呼ばれた陽人がこちらに向かってくるところだった。

『スーパーSAIKOKU』の担当は、陽人が復帰してからまた元に戻されたため、

月に数日、こうして訪れることになる。


「今日は何?」

「『ふえぞう』が結構評判いいらしくて。で、もう少し戻す時間を短縮できる商品が、
来月売り出されることもあって、先に話しをしに」

「あ、そうなんだ」

「今日は?」

「あ……いたような気がするけど」

「なら、またからかってやるか」


陽人はそういうと、スーパーの中を覗く。


「新堂さん、色々とお世話になりました。私、今月……」

「あ、そうだ、華ちゃん出世したって、栞から……」

「出世ですかね、これ」

「出世でしょう」


華は『スーパーSAIKOKU』の前ではないから会えませんねと、

泣き真似をしてみせる。


「『アリアンテ』のそばでしょう、あの駅。同僚に話しておきますよ。
お花が必要になったときには、華ちゃんがいる店舗に行くようにって……」


陽人は『アリアンテ』の担当は、恵理がしているからと栞に話す。


「華ちゃん、花束作り、ビシッと決めてよ」

「またそうやってプレッシャーをかける」


華の不安そうな顔を見ながら、栞と陽人は揃って笑った。


【37-5】



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