37 誠実な愛 【37-5】


【37-5】


「いらっしゃいませ」


『ライムライト』では、作業服を着た男性3人が店内に入ってきた。

パートの女性は、お冷やをお盆に乗せ注文を取りに行く。


「ブレンド3つ」

「了解」


良牙はカップを3つ出す。


「店長、栞ちゃん、近頃姿見ませんね」

「栞はもう、昼間にはなかなか来ないと思いますよ」

「あら……またケンカでも?」

「いえ……」


良牙はブレンドを3つ入れ、パート女性はそれを客のところに運ぶ。

別の男性が立ち上がったので、良牙がカウンターを出て、レジの前に立った。


「360円です」


男性から札を受け取ると、おつりを返していく。


「ありがとうございました」


頭を下げ中に戻ると、『ランチの友が出来たので』とパート女性に告げた。





「へぇ……新堂さんと」

「そうなの。陽人さんがまた営業部に復帰して、
お昼に合わせて来てくれるようになったの。最初は話もしなかったのに、
学部が経済だったこともあるし、ちょっと話しかけたら、そこから?」

「ほぉ……」

「陽人さんも、桑本君が入っていないと知ると、なんだ……なんて言って、
私が本を受け取って、渡すこともあるんだから」

「そうなんだ」


栞は、私と話すよりも陽人と話している方が、潤がリラックスしている気がすると、

分析した。朱音は『そういうものかな』とお皿を拭きながら笑う。


「絶対に無理だと思っていたことも、変化するんだなって……」

「ん?」

「うん……」


朱音は、昨日、手紙が届いたと嬉しそうに話した。

栞は郵便受けに何か入っていたかと思い出そうとするが、思い出せない。


「うちじゃないよ、雄太さんのところ」

「桐山先生?」

「そう……私、ご両親やお兄さんの反対を押し切って、
お付き合いを始めたと思っていたから、
いつかはまたぶつかるだろうなと覚悟はしていたの。雄太さんは、何を言われても、
自分はきちんと言い返すって言ってはいたけれど……」

「うん」


栞は頷き、『それで?』と聞く。


「お母さんから手紙が来たって、雄太さんが教えてくれて。
で、さっき、もらってきた」

「さっき?」

「うん……今日は忙しいから私が病院まで行ってね」


朱音はそういうと、テーブルの上を見る。


「雄太に一度も医者になれと言ったことはないのに、自分で道を選んだって。
だから、これからも自分で決めて歩けばいいと、
お父さんもお母さんも思っているってことを、私から伝えて欲しいって……」

「エ……」

「お休みが取れるのなら、遊びにおいでって……」

「朱音……」

「うん……」


朱音は、『変わるんだよね』と栞を見る。

栞は『うん』と頷くと、よかったねと言いながら、朱音を抱きしめた。





「いい感じ」

「あぁ……風もちょうどいいよ」


栞と陽人は休みを合わせ、『戸柱』の方へラジコンを飛ばしに出かけた。

あらかじめ矢野に状況を伝えておくと、物流センターに立ち寄れと言われていたので、

お昼休みくらいの時間に合わせていくと、一緒にマラソンを戦った仲間や、

バスで語りかけてくれたパートたちが出てきてくれて、地元のお土産だと、

陽人にあれこれ寄こしてきた。


「いや、これ……」

「車だろうが、遠慮しない、遠慮しない」

「いえ、遠慮と言うより……」


陽人がタネを埋めたあの花壇は、また綺麗な花を咲かせ、

工場に出入りする人間達が、みんな癒やされていると報告を受けた。


「みなさん陽人さんと会えて、嬉しそうだった」

「うん……なんだかんだ忙しくて、なかなかこっちに来られなかったからね」


陽人は栞の機体を見ながら、『もう少し右』と指示を出す。


「あ、そうだ」

「何?」

「今度、松本の家に遊びにおいでって……」

「エ……」


栞は思いがけない言葉に、陽人の方を見てしまう。


「あ、栞、ほら……飛行機」

「あ……あ……」


コントロールを忘れた栞は慌ててしまい、陽人はすぐにフォローする。


「また墜落するところだった」

「だって……ごめん」

「そんなに驚くこと? 僕は自然と栞のことを話したし、
向こうも自然においでって言っているだけだよ」


陽人は栞のことを聞いた両親や姉が、会いたがっているとそう話す。


「いいのかな……」

「いいに決まっているだろう」


陽人がフォローした栞の機体は、また安定した飛行を見せる。


「うん……」


栞は隣に立つ陽人を見た後、視線を上に向ける。

エメラルドグリーンの機体が、広い大空を泳ぐように飛ぶ、その姿があった。



『空がどこまでも続くのなら……』 終





最後までお付き合いありがとうございました。
コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント