13 反撃のスイッチ

13 反撃のスイッチ


事故から2週間が経ち、亮介は岩手の病院を退院し、仙台の自宅へ戻った。

まだ、足は松葉杖をつかないとならないが、病院におとなしくしていたおかげで、

芽衣を助けた時の肩の痛みは、ほとんど取ることが出来た。


「ねぇ、おせんべい食べない?」

「ん?」


亮介は自分が部屋に戻ってから、かいがいしく動き回る咲を見た。

すっかり妊婦姿になり、お腹も邪魔になりそうなのに、動きは軽やかだ。


「咲、少し座れって」

「エ……邪魔?」

「そうじゃないけど……」


亮介は座ったソファーの隣を指さし、そこへ座るように指示をする。

咲は、近所のお店で見つけたものだが、おいしくて何度か買いに言ったのだと、

解説をつけながら、せんべいの袋を開けた。


「俺が怪我したって言うのに、なんだか咲は明るいね」

「そう? だって、起きたことは仕方ないじゃない。ちょっと休んで一緒にいなさいって、
神様が言ってるのよ。亮介さんへの休息」

「休息か……」


亮介は笑いながら新聞を広げたが、そこに隠れた表情は、どこか寂しげなものだった。





太田は自分の机に座り、引き出しに手をかけた。亮介があんなことになり、

しかもそのフォローをしないとならなくなった塚田は、いぜんにもまして、

自分に辛く当たってくる。中には『退職届』がすでにあり、いつでも出せる状態になっていた。

それでもなんとか、亮介の顔を見るまではと、見ては引っ込める日々が続く。


「太田さん、お客様」


女子社員の声に顔をあげ、下を向いたまま降りていくと、そこにはパンフレットを手に持ち、

椅子に座る里塚がいた。


「里塚……」

「よぉ!」


里塚の顔をまともに見ていられない太田は、苦笑いを浮かべ、軽く手をあげた。





「突然、すみません」

「いや……」


太田のところから、里塚は亮介に連絡を取り、初めて深見家を訪れた。

咲とは西支店で別れてから、久しぶりの再会になる。


「いやぁ……早瀬さん。何年ぶりですか?」

「えっと、2年半くらいになる? 里塚くん、変わらないのね」

「早瀬さんは変わりましたね。ちょっと太った気がします」

「何よそれ。全く、相変わらずおもしろいんだから」


里塚は出されたコーヒーに口をつけると、亮介の方を向く。

電話などでは何度も話したことはあったが、こうして目の前で語り合うのは、初めてのことだ。


「深見さん、早瀬さん太りましたね、どうしてですか?」

「幸せがいっぱい詰まっているからだろ」

「……ん? 幸せ? 苦労と不満じゃないんですか?」

「お前なぁ、松葉杖でつつくぞ。それに、早瀬って誰だよ」

「冗談ですよ、冗談」


自分の言葉に動じることなく、すぐ返してくる絶妙なリズムに、

将来、この人の下で仕事をしてみたいと、里塚は素直にそう思った。


里塚はここへ来る前に、太田の様子を見てきたことを語り、支店内に流れる、

重い空気のことを話題にする。


「そうか……」

「あいつ、辞めるんだってそう言ってましたよ。
それでも、深見さんが戻ってくるまで、我慢しろとは言っておきましたけど」

「そんな考えを起こすだろうとは思ってたけどな。悪かったな、わざわざ立ち寄ってもらって」

「いえ……でも……」


里塚は一度言葉を止めると、亮介の方を向いた。

少し話しづらそうな顔をしたが、吹っ切ったように言葉をつなげだす。


「僕は辞めさせたらいいと思いますよ、太田」

「ん?」

「あいつ、気持ちが前に出てないです。あれじゃ、これからもずっと深見さんのお荷物だ。
今はいいですよ、仙台支店にいるから。でも、あいつがこれからどこへ飛ぶかわからないし、
深見さんだって、どこへ行くかわからないじゃないですか」


合理的で、冷静な里塚らしい意見だと、亮介は笑みを浮かべ頷いた。

会社に入って何年かは、自分も同じようなことを思い仕事をしていたことを思い出す。

視線は前だけを向き、ミスしそうなところは、その前に自分で片付ける。

千葉や名古屋にいた頃は、そんなことを繰り返していた。


「お前を見ていると、昔を思い出すよ。俺がそうだったからさ」

「……そうですか?」

「あぁ……。いつも視線は前を向いて、自分の行く先を考えた。出来ない人間を見たら、
どうしてこんなことが出来ないんだろうと不思議に思って、
失敗されるくらいならこっちに寄こせって、仕事を奪っていた気がする」


咲は二人の話に背を向けたまま、その言葉を聞いている。


「でもな、それが変わって来るんだよ。
人と会って、いろいろな人の事情を知ったり、それに……」


亮介は言葉を止め、目の前のコーヒーに口をつける。


「大事なものが出来ると……」

「大事なものですか?」

「あぁ……。咲の姿を見るたびにそう思うんだ。人は一人だけど、実は一人じゃなくて、
さらに次へつながっている。営業部員は20人でも、その後ろには育てないとならない
子供がいたり、世話をしなければならない親がいたり……。
縁あって一緒の環境で、ひとつのものを目指すんだ。俺の簡単な判断で、
彼らの人生を左右してはいけないんじゃないかと……」


亮介の言葉を、里塚は黙って聞いたまま、その続きを語ることはしなかった。

その日は3人で食事をした後、泊まっていけばいいという亮介の誘いを、

里塚は丁寧にお断りする。


「いやぁ……朝、目覚めたら奥さんが隣に寝ていると、ちょっと困るじゃないですか」

「は?」

「何言ってるのよ、里塚君。千夏さんに言っちゃうからね!」

「そうだ、そうだ……」

「ん?」

「仲良く仙台に来たときは、ちゃんと教えてくれないとなぁ……」

「そうよね……」


咲と亮介は顔を見合わせて笑った。

里塚は内緒で来た旅行のことがばれていることに驚き、二人を見る。


「華の家の女将ですか?」

「いや、あの人は口が堅いから言わないよ。
でも、あの旅館には、深見亮介のスパイが張り巡らされているからな。
今後、お使いになられる時は、お気をつけください」

「なんですか……それ」


里塚は亮介の言葉に呆れた顔をしたが、また会いましょうと頭を下げ、タクシーに乗った。





「里塚君って、昔からシビアなところあったけど、変わってないなぁ」


咲は、お茶を飲みながら、太田に対し冷たいことを言った、里塚のことを語った。

そんな咲の横顔を見ながら、亮介は軽く笑う。


「咲は甘いな」

「エ……」

「あいつは言うことと、やることはぜんぜん違う。本当に太田を辞めさせていいと思うなら、
仙台にわざわざ立ち寄ったりしないし、ここにも来ないよ。俺が太田を見捨てるのかどうか、
あいつは確かめに来たんだ。姿を見せて、聞き出すことで、こっちにプレッシャーをかけている。
だから、大丈夫だと念を押してやった。今頃きっと、太田に連絡を取ってるよ」

「……まぁ」


亮介を探りに来たという里塚も里塚だし、それを見抜き笑っている亮介も亮介だと、

咲は思いながら、湯飲みに入っているお茶をゆっくりと飲み干した。





それから1週間後、亮介は業務に復帰した。その時、塚田は『クライン』会長用の

案内コースを作り上げ、本社に提出するところで、営業部員たちを動かし、

大慌てになる。そんな塚田を横に見ながら、亮介は石原からの連絡を思い出し、

目の前に座る軽部を呼んだ。


「軽部……ちょっといいか」





「エ……『クライン』の別メニューですか?」

「あぁ、軽部は仙台生まれだろ。だから組んでみて欲しいんだ。
『クライン』の会長は、大の戦国武将好きで、毎年いろいろな場所を訪れている。
京都や奈良といった古典的な場所から、有名な城があるところをめぐったり、
変なガイドよりも、その土地に詳しい資料まで揃えてくる。
ただ、これは採用されるかどうかもわからない話だから、誰でも頼めることじゃなくて……」

「どういう意味ですか?」


亮介の言っている意味が、理解しきれず、不思議そうに視線を向ける、軽部だった。




                                 深見家、新メンバー加入まで……あと53日






14 彼らの誤算 へ……




いつもおつきあいありがとうございます……

ランキング参加中です。よかったら1ポチ……ご協力ください。

コメント

非公開コメント

こんにちは!e-320

亮介さんの怪我も快方に向かってきて咲ちゃんも一安心だね。

これからの決戦(?)に向けて準備も開始。

塚田達を(塚田が付いてる奴、誰だっけ?)
ぐうの音も出ない位に潰しちゃって、出世街道から外してやれーっ!!

里塚君は相変わらずのようで・・・。
太田君も辞表見て覚悟決めてないで、仕事で挽回して
亮介さんを助けようくらいのガッツを見せてみろ!

続き楽しみ~e-343

     
      では、また・・・。e-463

スイッチON

フフフ亮介は塚田プランが『クライン』の会長のお気に召さない、と読んだのかな?

軽部さん頑張って良いメニュー考えてね!
いまや戦国武将ブーム。

里塚君とのやり取りで気持ちが決まったのか。

今に見てろつかだ~~~~!

反撃プラン始動~^^

ウフフ^^里塚君 相変わらずいい味だしてるね~^m^

亮介もちゃんと、彼の真意がわかってるし~☆

さぁ、軽部さん、レアーな戦国ツアー考えてね~♪
この際、塚田を追い落とせ~!!

おおっ、反撃だぁ~~!

突然深見家を訪れた里塚君の思いを
ちゃんと見抜いている亮介さん

本当に初対面とは思えない
二人の絶妙なやり取りがとっても小気味良いです^^

さあ、いよいよ亮介さんが動き出しましたね!
石原さんからの電話はクラインの会長についての
情報だったのかな・・・

相変わらずの塚田、調子に乗っていられるのも今のうちだー

鮮やかな反撃!期待しています^^v

亮介と仲間達

mk1129さん、こんばんは!


>次の展開が待ち遠しかったです。
 これから深見さん達の反撃が始まるのですね。

はい、亮介だけでなく、
亮介を取り囲む仲間達の反撃が、ここから始まります。

やっと日付が大きく動きましたので、もう少し、
お付き合いお願いしますね。

太田のこれから

mamanさん、こんばんは!


>里塚君は相変わらずのようで・・・。
 太田君も辞表見て覚悟決めてないで、仕事で挽回して
 亮介さんを助けようくらいのガッツを見せてみろ!

里塚は、変わりませんよ(笑)
あのキャラは、私にとっても特別なんです。

さて、太田ですが、このままいじけて消えていくのか、
それとも奮起していくのか……は、まだまだ秘密。
塚田と亮介のバトル……と言えるのか? も、
ぜひ、楽しんで下さい。

オーッ!

yonyonさん、こんばんは!


>フフフ亮介は塚田プランが『クライン』の会長の
 お気に召さない、と読んだのかな?

さて、亮介が軽部に、なぜ、別メニューを振ったのか、は、
次回、明らかになりますよ。


>今に見てろつかだ~~~~!

オーッ!!

亮介と軽部さん

eikoちゃん、こんばんは!


>さぁ、軽部さん、レアーな戦国ツアー考えてね~♪
 この際、塚田を追い落とせ~!!

仙台に生まれ、育った軽部さん。塚田の攻撃に対する亮介の考えは……次回へ続くのです。

鮮やかに……行くか?

バウワウさん、こんばんは!


>突然深見家を訪れた里塚君の思いを
 ちゃんと見抜いている亮介さん

里塚はクールで、合理的に見えますが、
実はとっても熱い男なのです。

鮮やかな反撃! になるかどうか……創作者として、ちょっと不安ではありますが、頑張ります!!

わくわく……

yokanさん、こんばんは!


>反撃のスイッチ、タイトルからしてワクワクする~。
 いよいよ反撃だね、どんな方法でギャフンと言わすのか、
 これは見ものです^m^

……ギクッ!!
自分で書いているのに、すごくプレッシャーを感じてます(笑)
ちゃんと結末を迎えられなかったら、どうしましょうか。

亮介だけでなく、周りのみんなを取り込んだ反撃……

……だいじょうぶかなぁ(笑)