7 恋するお弁当 ② 【7-5】


【7-5】


今まで生きてきて、お金のことを気にしたことは一度もなかった。

大学時代も、面倒だと思えば当たり前のようにタクシーを使ったし、

カードを持つことなど、当然だという思いしかなかった。

学費を払っていたのは親だから、いくら使ったのかまで知らないし、

遊びから仕事につながったような生き方をしていたために、

何かを犠牲にしたという思いもないまま、今も生きている。

一生懸命とか、必死とか、そういう単語には全く縁がなく過ごしてきた。


尾崎さんは進学校に行きながらも、経済的な余裕がなく大学進学はしなかった。

それでも自分の夢を持ち、10年、必死に歩き続けて……



『七王子バンク』



この企画に賛同した『七王子』に縁がある起業家たちが、

紗弓さんの呼びかけに、集まることになった。


「村井です……」


互いに名刺を交換する。

園田は、今日も『自分が……』と先頭に立っていた。

駅前に、昔からある歯医者の息子、

さらにベーカリーショップを数店舗持つ、40を過ぎましたという人から、

一番下は25歳だという女性まで、7名が集まった。

紗弓さんからは、『七王子バンク』をこういうものにしたいという、

理想の話しが出され、園田はすぐに手をあげて、『さらに』と言葉を足す。


「みなさん、ただお金を出してくれと言うわけではありません。
お金を出す以上、こちらも楽しみを見つけましょう」


園田は、成功した自分たちが、助けを求めてくる人たちに対して、

しっかりとしたアドバイスをしていくことが必要だと、展開し始めた。


「元々、彼らはお金がないからビクビク商売をしようとする。
でも、そんな余裕のなさは、すぐに消費者に見抜かれるんですよ。
妙に小さくしようとしてしまったりね」


園田の意見も、世の中の常識として成り立つのかもしれない。

でも、俺は聞きながら、どんどん疑問符が湧き上がる。

尾崎さんがお弁当の店をやりたいという『夢』を、応援する気はあっても、

自分が成功したからといって、他の人の事業にあれこれ口を出そうとは思わない。


『楽しみを見つけましょう』


園田は、『楽しむ』という表現を、あえて使ったのだろうか。

経営するのは、あくまでも本人達であるはずだ。

しかもこちら側が『楽しむ』とはどういうことだろう。

しばらく聞き続けていたけれど、俺の中で『プツン』と何かが切れた。


「あの……」


紗弓さんは、どうしましたかとこちらを見た。


「仁坂さんからこの話を聞いて、自分なりに応援したいものがあったので、
『七王子バンク』が出来るのなら、それに賛同しようと考えここに来ました。
でも……楽しむとか、アドバイスとか、そういう気持ちは俺にはありません」


あと少し資金があれば、そのために、出来ることを我慢してしまうのなら……


そう、学力があるのに、経済的に大学に進むことが出来なかったという、

尾崎さんの過去の話のように。


少し援助してあげることで、彼女が1歩前に進めるのなら、

俺はそう思っただけで……


「申し訳ないけれど、失礼します」


『七王子バンク』などと言いながら、

こちら側の自己満足のために発足する会など、俺には必要ない。


「村井さん」


園田の声、呼び止められたので、一応振り返る。


「そう、スパッと決めなくてもいいのではないですか」


園田は、『言葉の解釈』には、色々あると、抽象的なことを言い始める。


「すみません、自分が何をしたらいいのか、もう一度じっくり考えたいと思うので」

「彼女のことですか……」


彼女……


「『キッチンオザキ』の娘さん……」


一度、その場で息を吐いた。

少し落ち着かないと、園田に余計な言葉までぶつけそうな気がする。


「はい。彼女の夢を応援したいと、
そのきっかけで『七王子バンク』にも興味を持ちました」

「それなら、ぜひ、村井さんの方から、彼女を『七王子バンク』に……」

「資金を出すから、意見を聞けというやり方は、私が求める方法ではないので」


そう、今、『七王子バンク』なんて必要がない。

尾崎さんと、もっと話しをすればいい。

そうすればきっと、何をしてあげれば受け入れてくれるのか、それがわかるはず。


「失礼します」


実家に戻る予定を変更し、俺はそのままバイクに乗り『ヴォルクスタワー』へ戻った。





……と



『俺は俺』を貫いて戻ってきたものの、あれから1週間。

話しを聞こうだなんて考えたくせに、尾崎さん自身がどう動いているのか、

何も伝わってこない。

まぁ、それはそうだよな。彼女にとって俺は株主じゃないし。

経営報告をする義務は、全くないのだから。



『これからのことを話しましょう、ここへ来てください』



それはストレートだが、あまりにも上からすぎるだろう。

尾崎さんにしてみたら、『何を聞き出したいのか』と身構えるに決まっている。

『クローバー』がある通りの、『ゆきこ』という店だと言っていたけれど、

情報は、それしかなくて。



『どうなの? 進んでいる?』



いやいやまて……この軽さ、一体、誰の台詞だ。


「社長」

「どうした」

「『東京タウンタウン』です。社長のインタビューが載った号が、出来たと。
午後にでもこっちに持ってきてくれるみたいですよ」

「ふーん……」


出来たのか……持ってきてくれるねぇ……


「いや待て。持ってきてもらわなくていい。百花が取りに行け!」

「は?」

「取りに行って、聞いてこい」

「聞く? 何をですか」

「何って……」




何って、それは……




それは、だから……




「尾崎さんがどうなっているのか、どこまで進んでいるのか、
谷本さんに聞いてくれと言うことですよね、湊さん」


大吾の、見透かしたような冷静な返しに、

『だったらお前が、今すぐ聞いてきてくれ』と、思わず言葉に出していた。


【8-1】




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