8 ひらめきの時 【8-1】

8 ひらめきの時


【8-1】


「あ、なんだ、聞きたいのはその話ですか。進んでいるみたいですよ。
『ゆきこ』に毎日通って、おかずをどれくらい作ればいいのかとか、
色々と考えているみたいです。あ、そうだ、メニューが決まったら、
見せに来てくれると言ってました」


『決まったら』って、いつ決まるんだ。

そんなもの、待っていられない。


「社長、どちらに」

「ちょっとフラっと散歩してくる」

「『ゆきこ』にですか?」


にやけた表情の百花、その指摘に足が止まった。


「いや……違う」


『ゆきこ』に行ってみようとしたことが、思い切り言い当てられたので、

逆に何も言えなくなった。どこに行こうが、別にいいだろうが。


「今日はいませんよ、『犬』に似ている若菜さんは……」



犬?



「役所に書類を届けるのだとか、ライン来ましたし」

「ライン?」


百花、お前いつの間に……


「何度かお話ししているうちに、あ、なんだか私たち、気が合うよねって。
で、ライン交換して……。全くもう、社長、
若菜さんのこと犬に似ているって言ったでしょう」



百花は、左のひとさし指を右に左に軽く振る。

違う、違う、犬に似ているとは言っていない。



「普通言いませんよ、女性に対して、犬に似ているだなんて……」



いや、だから……『犬』に似ているとは言っていない。



「犬にだなんて、言っていない」

「エ……だって若菜さん、ラインで話してくれましたよ。
村井さんに『マルプー』に似ているって言われたと……」

「だから、そうだ、犬じゃないだろう」

「いや、犬ですよ『マルプー』って……」




『マルプー』

まぁ、確かにそうだ、犬だ、犬だけれど……




「犬じゃなくて『マルプー』なんだ」


そこが違う、全然違う。

百花の目……。

何を言ってくるつもりだ?


「はい、はい、わかりました。『マルプー』ですね……で……」


軽くあしらわれた。


「若菜さんのラインのマークがかわいらしい白い犬で、飼っているの? って聞いたら、
『東京タウンタウン』のデザイナーさんの犬だって言って」


あの『マルプー』をラインのマークに?


「どうして選んだのかを聞いたら、社長が似ていると言ったって……」


百花の顔……あれだけ言っても言い足りないと、主張しているくらい不満そうだ。

一応、こいつも女だしな、俺よりはわかるかも。


「なら、猫に似ている方がよかったのか?」



あの時も思ったんだ。犬よりは猫なのか……と。

でもな、彼女は……



「は? 犬も猫もダメですよ、普通。女性に犬や猫に似ているなんて言わないです。
モデルや女優に似ているというのならともかく、若菜さんは偶然、いや、珍しく……
奇跡的にその『マルプー』に似ていると言うのが嬉しかったみたいですが、
他の女性なら、張り倒されますよ」



『他の女』? なら大丈夫だ、この先、褒める予定はない。



「そうか、うん……」



尾崎さんは、嫌じゃなかった。その情報だけで十分だ。

それにしても、『何度かお話』なら俺もしたけれど、

『ライン交換』なんて、そんな話しは出てきていないな。



「あ、そうだ、若菜さん、お弁当を600円で売りたいそうです。だから……」

「600!」


なんだその金額、子供の小遣いだろう。


「もう、急に大きな声を出さないでください。耳がおかしくなります。
ほら、社長、散歩してくるのでしょう。ほら、ほら……入り口に立ったら邪魔です。
とっとと行ってください」


邪魔だから、何かを払うというような百花の手。


「なぁ、600円で弁当を売るのか、本気で」

「本気って、本気でしょう。コンビニとかだって、それくらいの設定できてますし。
それ以上高かったら、みなさんの手が伸びないって……」


まずい……大吾の言っていた通りになっている。

そんな金額で作って、いくつ売れば彼女が余裕を持てるんだ。


「数は? 100……とかになるのか?」

「さぁ、数までは聞いていませんけれど、味は美味しいですから、
とにかく名前が売れていけば……」




名前……




名前……




そうだ……




その手があった。




「百花、尾崎さんにメニューが出来たら、写真を撮ってすぐに持ってくるように、
ラインでそう伝えておいてくれ」


そうだ、『名前』、そこには気づかなかった。これこそ、必要なこと。


「わかりました、伝えておきます」


百花の返事を聞き、俺は『ヴォルクスタワー』を出て、まずは『ゆきこ』を目指す。

本人がいないことはわかっているが、どんな場所なのか店構えなのか確かめておきたい。

やることが決まったら、余計にそう思う。



それにしても『600円』か。

見つけたコンビニにフラッと入って、弁当売り場を確認した。

確かに600円の前後くらいで、値段設定がされている。

このあたりには、こういったコンビニもあるし、立ち食いのそば屋や、

コーヒーショップなどもある。

ライバルは多い。

だからこそ……



『知ってもらうこと』



そう、それは何よりも大事。



「ここか……」


目の前に見えた『ゆきこ』の看板。確かに小さな店だが、意外に作りは新しそうだ。

この店で弁当を売ろうと。

だとすると……



俺は『ヴォルクスタワー』の方を見ながら、やるべきことを考えた。


【8-2】



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