8 ひらめきの時 【8-5】


【8-5】


大吾は仕事の管理を全てしているので、

俺が残らないとならないものを、今現在抱えていないことも十分わかっていて。


「家に戻ってもやることがないから、色々と……」


そう、色々と……


「まさかとは思いますが、これから始まるお弁当屋さんのホームページでも
立ち上げるつもりですか」



どうしてそこまで、ハッキリわかるんだ?



「何も言わないところが、その通りだと言うことですよね」

「別にいいだろう。仕事はしっかりしているし……」

「本人は」

「何も話していない。話したら『大丈夫だ』と突っぱねてくるだろう」

「でしょうね。うちに仕事を頼めば、どれくらいの金額になるのか、
自分が払えるものではないことくらい、わかるでしょうし」

「そういう言い方をするな。仕事じゃないと言っただろう。こうして……」


大吾は『はぁ……』と、明らかにわかるようなため息をつく。


「何だ……」

「頼みますよ、湊さん。個人的な感情のことまで、
俺がどうのこうの言う立場ではないですけど、身体は気をつけてくださいよ」

「わかっている」

「必死になって睡眠時間削って、で、妙なことになったら、
尾崎さんのイメージが悪くなるのですから」

「ん?」

「俺にですよ」


大吾はそういうと、お先に失礼しますと言い、『アチーブ』を出て行く。

口うるさいなと思いつつ、俺を心配するあいつのそんな指摘も、どこか嬉しいものだった。





開店を決めた日の3日前になり、尾崎さんが自分で印刷したチラシが、

『ヴォルクスタワー』の企業ポストにも届けられた。

郵便物を持ってきた百花が、『始まりますよ』と騒ぎ出す。

いつなのか、どういうメニューなのかと、社員達も声をあげる。


「3日後だそうです。みなさん、買ってあげてね」


企業からの打ち合わせなどが書かれたホワイトボードに、

彼女の作ったチラシが貼り付けられた。

字も綺麗に書かれてあるし、写真も貼り付けてはある。

今は、印刷物を軽く作ると、印刷機でまとめて印刷する企業もあるので、

それを利用したのだろう。まぁ、これが限界だろうな。


「写真と値段、場所、まぁ、こんなものですよね」

「何枚配ったのかな……」


大吾に、どうするつもりですかと聞かれる。


「チラシだとこれが限界だろう。配るのは自分だろうし」


配達まで人に頼んだとしたら、予算が成り立たない。


「だとすると、尾崎さんが」

「だろうな」


彼女のことだ。準備をしながら、毎日歩いて、自分でポストに入れているのだろう。


「『地域活性観光部門』の掲示場見直しが2週間に1度ある。
9月の中頃にと思ったが、そこはまだ少し無理だ」


本来ならそこに間に合わせたかったが、一人の作業時間が、取り切れなかった。


「10月の頭には、トップに出す」

「どれくらいのものを……」

「今と昔の写真を入れて、懐かしいと思える人たちにも思い出してもらえるようにした。
始まってみてからの方が、やりたくなることも増えるだろうから、
容量は余裕を持たせてある。メニューの改良も、すぐに対応できるように、
入れ替えも楽にさせた」

「動きもあるわけですか」

「仕掛けがないと飽きられやすい」


見てもらって、再び訪れてもらうことが必要だ。

平面で終わらせたら、変化がないと思われる。


「自動ですか」

「当然だ」


10月の飛び込みだとして、そこから3週間。

そんな思いの中、尾崎さんの『なちゅあ』がスタートした。





「はい、社長」

「うん」


別に、社員に対してプレッシャーをかけたわけではないが、

初日には、いるメンバー7名が全て、『なちゅあ』にお昼を買いに出かけた。

百花は尾崎さんが声を出して頑張っていたと、そんな情報も入れてくれる。


「いくつくらい作っていたんだ」

「3種類で……60くらいかな……と」

「60か……」


600×60……4万にも満たない。


「それ以外にも、細かいおかずとかもありますからね」


そう百花がフォローしたように、新しく出来た店だと言うことで、

見つけた人が買ってくれたり、口コミで開店が広がった。

食べてみればとにかく美味しいことは間違いないので、

リピーターが増えるところまで、引っ張れればいいのだろうが。



しかし……



『なちゅあ』オープン数日後には、大型台風が東京にやってくることになり、

人が外へ出て行かなくなる。

売ることさえ難しい日が2、3日続いた。


「15もか」

「はい。少なめにはしたみたいですけれど、またお昼前から急に雨ですしね」


思わず窓から外を見る。色々計算しても、天気だけはどうしようもない。

必死に配った『チラシ』の効果も、まぁ、多めにみて1週間だろう。

その後は、味を気に入ってくれた人が口コミで広げてくれることもあるだろうが、

正直、めずらしさもなくなってくる。


「先週よりも、客足、落ちていると思います……やっぱり」


毎日のように入る、百花の報告。

味は間違いない。値段も安い。

でも、通りが一番いい場所とは、正直言えない。

『ヴォルクスタワー』からすると、駅方向とは反対だし、『ゆきこ』自体が、

夜にいい場所を持っているため、昼間は両隣もシャッターがしまっている。


「『東京タウンタウン』のみなさんも、買ってくれているみたいです」


買い物客として、知り合いだけが目立つようでは、本調子とは言えないな。



スタートから2週間。

尾崎さんはどう考えているだろう。



携帯で天気予報を見てみると、明日からまた数日、スッキリとしない天気が続く。

ただでさえ小さな商売なのに、こんなことが続いたら、

気持ちも資金も下向きになるばかりだ。



その日の夜、『なちゅあ』のホームページの大枠が完成した。

あと、細かい修正を入れて、見てもらっておかしくないところまで仕上げるまで……



1週間。



『明日からまた、秋雨前線の影響で……』



ニュースの天気予報。

また雨……

雨の量もあるが、風も強いと天気予報の女性が話し続ける。


完全な『店』という形になっていたら、注文弁当として仕事をすることも可能だが、

間借りして売っているだけでは、まだ、企業からそこまでの信用は取れない。




毎日10個以上残る日が、長く続いたら……




『なちゅあ』開店から20日。

その日は、久しぶりに青い空が広がった。


【9-1】




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