9 関わらない日々 【9-1】

9 関わらない日々


【9-1】


『なちゅあ』が開店して20日。

久しぶりの青い空だが、ここまで、天候の悪さなどもあり、

思ったような売り上げは出ていないだろう。

商売だから色々あると思いながらも、

そろそろ、気持ちが下向きになっているかもしれない。




俺に出来ること……




今、出来ること……




今、すぐに……




「は? 30ですか」

「そうだ。30個、適当に色々と買ってきてくれ」


売れ残りもあると、百花からの情報は何度か聞いた。

もう、ただ見ているわけにはいかない。

とりあえず『掲載日』を迎えるまで、傾いてもらっては困る。


「どうするつもりですか、そんなに買って」

「そんなものは後で決めたらしい」


とにかく、売り上げはきちんと取らせないと。

売れているところが見えるのも、宣伝効果がある。


「社長、私が行くと、若菜さんが身構えますよ」


百花は、30も買ったら、うちで何があるのかと聞かれてしまうと話す。

確かにそうだ。

彼女はうちの社員数も知っているし、

ここで大人数の打ち合わせなどがないことも、わかっているはず。


誰か……それくらい買っても、おかしくないような人はいなかったか。

彼女に顔を知られていない、怪しまれないような……


「大吾、33階の『安西法律事務所』の社員に頼め」

「エ……」

「社員だけで15人いる。この間、急な依頼に応えたことがあっただろう。
そのお返しということで、手伝ってもらえ」

「いえ、あの……」

「とにかく、早く動け。売れるかもしれないだろう」



もう開店しているはず……



「売れたらそれでいいと思いますけど……」



確かに、そうだけれど。



「とにかく、頼んでくれ!」


あぁ、面倒だ。

正直、彼女が今日作る60個の弁当を、俺が全て買ってもどうってことはない。

いや、ホームページが掲載されるまでの残り10日間、全てを買ってもいい。

本来なら、そこまで少し待て、研究時間にでもしてくれと、

生活費を渡すことだって出来る。



そう、それくらい簡単に出来るんだ。



でも……



どんな理由をつけても、お金を見せたらまたきっと。



あの目がうるんで、辛そうな顔をされて、下手したら泣かれるかもしれないし。

『10万円事件』の再現になってしまったら、

心臓がぐいっと捕まれるくらいの鈍痛に悩まされ、

その後、仕事をする気持ちが起きないくらい、

自分が落ち込んでしまうことが目に見えているので……



それは、避けておきたい。





結局、大吾が動き、

付き合いのある『安西法律事務所』の社員5人が『なちゅあ』に向かった。

今日売られていた50個のうち、30個の弁当を購入し戻ってくる。


「今日は『裁判』の打ち合わせがあるからと、そう話したらしいですよ」


裁判の打ち合わせ。

ほぉ……それは確かに『30』も買うとなると、『なにかあるのですか』と、

聞かれるだろう。

よかった、やはり彼らに頼んで。



が、しかし……

『裁判』という緊張感のある打ち合わせで、みんなが弁当を食べるっていうのは、

どうなんだ?


「社長、『安西法律事務所』、打ち合わせで出ていた人もいて、
結局、今日は12人しかいないそうです。なので、お弁当18もありますけど……」


まぁ、いい。今、色々考えても仕方がない。


「全員が食べたらいいだろう」

「今日は半分九州出張で、現在いるのは7人ですよ」

「だったら置いておけ」


百花はブツブツ文句を言いながらも、自分はこれがいいと選んでいた。


「法律事務所の社員が、領収書をもらうべきか悩んだそうですが、
うちの名前は言えないし、かといって、
自分たちの会社が実際に買うわけではないから、もらえなかったと……」


おいおい、領収書くらいもらっておけばよかったんだ、法律事務所で。

さすがに『法律』を商売にするからなのか、頭が固い。


「まぁ、いいよ。あと5つくらいしか残っていないと言うのだから、
今日は売れるだろう」


完売してもらうことに意味がある。

売り上げがきちんと上がらないと、資金が減るばかりだ。

小さな店だと、材料費だって後払いなどは通用しない。

彼女は商売人としては素人に近いのだから……



今日のお昼は、『クリームコロッケ』をメインにしたお弁当。

それにしても、毎日のように食べているが、おかずが少しずつ変わるし、

メニューも数日間で色々変えてくるため、全く同じだと思った日がない。

予算もあるだろうし、考えていくのは大変だろうに。

でも、こういうことがやりたいと頑張ってきたのだから、毎日楽しいのだろうか。



『楽しい』か。

だとしたら余計に、失敗されては困る。



明日は、どんなふうに数を稼ごう。

そうだ、瑛士が食べてみたいと言っていたはず。

今から連絡を取って、社員達に持って行かせようか。



2つ食べてもいいですかという声がかかったので、そうしてくれと返事をする。

結局、8個が残ったまま、デスクの隅に置かれた。


【9-2】



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