9 関わらない日々 【9-5】


【9-5】


「よく意味はわからないけれど、湊がそう言うのだから仕方が無いわ。
私と会いたくなくなったってことでしょ」


知夏は違うと、今まで思っていた。

付き合いだした時に、自分にとって男と肌を合わせることは運動のようなものだと、

あっけらかんと笑ったから。

そんな割り切った関係が気楽だと思い、今まで続けてきた。



『村井君、私のこと好きだと思ってくれたことあるの?』

『何も連絡をくれないなんて、普通ありえない』

『あなた、自分に酔っているでしょう』



今までお別れしてきた女性は、みんなこんな感じだった。

自分が積極的になったから、俺もそうなってくれないことにイライラされ、

最後は切れ気味な言葉をぶつけられる。


この後、知夏も声を荒げて立つのだろうか。


「残念だけど、仕方が無いわよね。最初から対等にしようと決めていたし、
すがりつくような惨めなこともしたくない。でも、その助けたい人?
どんな人なのか教えてくれてもいいでしょう」


知夏は、『アスレ』のジムで仕事をしている。

知夏以外にもインストラクターは数名いた。

『なちゅあ』の弁当を知ってくれたら、顧客になる可能性もある。


「『なちゅあ』というお弁当の店を、『ゆきこ』という小料理屋を借りて、
開いている人だ。彼女の夢を応援してやりたい」

「夢……」

「あぁ……」

「『なちゅあ』が『ゆきこ』って、どういう意味?」

「いきなり店を持つことなど出来ないから、知り合いの厨房を借りている。
彼女のお店の名前が『なちゅあ』。借りる店の名前が『ゆきこ』」

「あぁ、そういうことなんだ」


知っている情報を、知夏に伝える。

確かに店の名前が2つ出てくるのだから、説明としてはややこしいだろう。


「ふーん……『ゆきこ』って店なのね、わかった。
それなら一度、買ってみることにする」


知夏は、そういうと、お気に入りのカクテルを飲み干していく。


「その人が、つまり、湊に店の資金でも出してって言っているの?」

「いや……」

「でも、湊を好きだと言うのでしょう」

「向こうには、そんな感情はないはずだ」


そんな甘い関係ではない。

むしろ、関わるなと言われている。


「感情がない? 何それ……」

「何それと言われても、言えるのはそれだけだ」


そう、それだけ。

彼女の気持ちなど、何もわからない。


「それでも……惹かれているのね」


惹かれている……

ただの興味ではなく、彼女をそれなりに知り、

さらに深く、関わってあげたいという気持ちが、大きくなっている。


「うわ……黙っちゃった。つまりそれが答えよね」


知夏との別れを意識してここにいるけれど、

尾崎さんと、つながっていく時間の保証はどこにもない。

でも間違いなく心は、今、ここにはなくて。


「そう……この湊が、一方的に好きになってしまったということなのね。
相手は振り向くかどうかもわからないのに。そんな状態なのに、私、振られちゃうのか」


知夏はそういうと、笑い出した。

振るとか振られるとか、最初からそういう感情はないのだけれど、

どう話したらわかってもらえるのか、こういうとき、本当に言葉足らずだと思う。

知夏は立ち上がり、空のグラスを横に寄せた。


「はい、湊」


知夏が出したのは自分の右手。


「ん?」

「お別れなのでしょう。でも、感謝の気持ち」


知夏はこの2年間が楽しかったので、笑ってここを出て行きたいと言う。

俺はその手を握り、『そうだな』という意味を込めて、頷いた。


「じゃ……」


知夏は先に立ちあがり、店を出て行く。

俺は、自分の分の酒を少しずつ減らしながら、知夏の飲んだグラスと一緒に、

1時間くらいその場にいた。





お弁当事件があり、『関わるな』と言われてから、約束通り関わってはいないが、

彼女のことは気になっている。

毎日、同じような時間から店を開き、売り続け、

そして、売れ残りを見ながら、ため息をつく……そんなところだろう。



9月の最終金曜日、ここが勝負の日。

日付が変わった瞬間から受付が開始され、その受け入れ順に来月最初の掲載が決まる。

数ページに渡り、色々なホームページなどが宣伝されるが、

トップにこなければ、ここまで作って待った意味が無い。

なんとしても、『1番』の場所を、キープしなければ。



『関わらないで』



申し訳ないが、この件だけはそう出来ない。

正直、今日一日、これが気になっていて、タヌキの仕事も進みが悪かった。



『地元散歩』



このあたりに縁がある人が、ちょっとした情報を掲示板に載せる。

受付さえ無事に済めば、3週間は掲示が決まるが、

アクセス数が多くなれば、次の掲載日にも消されずに残るのだ。

だからこそ、一番目にとまりやすいトップに出すと決めている。



23時59分……

あと1分





「おはようございます」

「おはよう」


カレンダーは10月に入った。

今日は快晴、すでに動き出したものが浸透していくまで、数日はかかるだろう。

それでも、反響は大きいはず。

その予想通り、『なちゅあ』のホームページが1日に立ち上がって3日後、

百花がお店の変化を教えてくれた。


【10-1】




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