10 見えない敵 【10-3】


【10-3】


ホームページは作った。

『関わるな』と言われていた関係も解消され、また、元のように戻った。

やれることはやったし、これからも管理をしてあげることが出来る。

しかし、満足していけるはずの気持ちは、物足りなさをどんどん増していく。

知ってしまった心地よさを、さらにもっと求めようとする。


『ホテルヴォルビ』の部屋を取って、本能のままに過ごしたいというより、

場所などどこでも構わないから、時計を気にすることなく、

彼女と向かい合って、話をしたり、聞いたり……


会話の内容なんてどうでもよくて、ただ、そこにいて欲しくて。



こんなこと、今までの人生で、一度も考えたことはなかったのに。



仕事を終え、部屋に戻り、

掃除ロボットが動く音を聞きながら、ずっと天井を眺め続けた。





ホームページが出来た『なちゅあ』は、一気に認知度が高まった。

観光協会の掲示板も、さすがに見る人が多く、

時には、百花が買いに行くと、すでに種類がないような日も出来る。


「『ヴォルクスタワー』の中にある会社から、数個ずつ、予約をされることもあるって、
若菜さん嬉しそうに話してくれました」

「予約か」

「はい。安いですし、美味しいですからね」


百花の言うとおり、600円は確かに安い。

女性らしい細やかな工夫もされているので、

確かに注文して食べようとする人がいるのも、理解できる。

客からの質問に、彼女が丁寧に答えていることもあり、

ホームページはアクセス数を増やし、自力で延長が決まった。



そして、週に一度、木曜日の午後。

今日で3度目となる日。



ホームページ管理のこともあり、尾崎さんは毎週1回、ここに顔を出してくれる。

金曜日は週末でもあり、来週の準備もあるため、その前の木曜日に自然と決まった。

弁当が売れてなくなる午後2時過ぎ、

そんな時間が来るのを、俺自身が一番待っていて。


「こんにちは……」


尾崎さんは、手に持っていた紙袋を百花に渡す。


「美味しそう」

「野菜が少し残るでしょう、そういうものを生かしてみた」

「売ればいいのに」

「ううん……お菓子を売るにはね、また別の免許が必要なの。
『ゆきこ』にはないものだから、色々と面倒だし」

「あ……そういうものなの?」


百花の前を通り、彼女が近づいてくる。


「お仕事中、すみません」

「いえ、どうぞ」


今日は新しいメニューを載せるために、写真を持ってきたらしい。

すぐにスキャンして、読み込んでいく。


「今日はカップケーキを持ってきたので、3時にでもみなさんで」

「すみません」

「いえ、それを言うのなら私の方です。そんなものでごまかしてしまって、
本当に申し訳ないのですが……」

「言いましたよね、前にも。互いに出来ることをしているだけです。
申し訳ないとか、そういうことを言うのは辞めましょう」

「……はい」



心地よい、彼女の『はい』の返事。


「ホームページの掲載は、あと2週間は確実に伸びます。
それ以降は難しいかもしれませんが、認知度は上がっていますから、
ストレートにホームページを認識して来る人もいるでしょう」

「はい。メニューをそこで確認してから、来ると言う方も多くて」

「そうですか」

「今日はこれです……と、表示をさせておけるので、本当に助かっています。
注文してくれる方も、わかりやすいと褒めてくれて……あ、そうです。
この間、仁坂さんが来てくれました。『七王子』の方へ戻る前だったようで、
わざわざ車から降りて、お弁当を買ってくれて」

「そうですか」

「はい。『七王子バンク』のパンフレットを……」


尾崎さんは、小さく折りたたんだパンフレットを出す。


「以前も園田さんからお聞きして、素敵な試みだと思いましたが、
条件に、『七王子』で行われるイベントへの参加という項目があるみたいで、
未だに叔母が反対しているのに、わざわざ『七王子』のイベントでアピールするのも、
火に油を注ぐようなものですから」


叔母さんか……

確かに、この間も尾崎さんのことをこき使っていたな。


「少しずつ売り上げも伸びているので、今度実家に帰ったら、
あらためて両親には話すつもりですけれど。
資金を借りてまで、今は大きくするようなものではないと思っています」


尾崎さんは俺が呼び出した写真を指で差し、思っていたよりも綺麗に入りますねと、

嬉しそうに笑ってくれた。


「何か困ったことがあったら、相談してください」

「エ……」

「あ……いや、そんなふうに構えずに」


立場を飛び越えたような、コメントだっただろうか。

『相談して欲しい』というのは、俺の正直な気持ちだけれど。


「ありがとうございます」


少し驚いたような顔をした尾崎さんだったが、

ありがとうと言うのだから、そこまで嫌な気持ちは持っていないはず。


それにしても、いや……なんだ、ちょっと声を出しただけなのに、

驚くような顔をされたからなのか、どうしてこれだけ、鼓動が速くなるのだろう。

相手の気持ちがどうなのかなんて、手探りのような状態だ。

一言のたびに、『いいのか、悪いのか』と、彼女の顔を見てしまう。


自分なりに少しずつ大きくしている山は、

乾いた砂で出来ているくらいまだ頼りなくて。

傾け方や、積み上げ方を間違えたら、あっという間に崩れ去りそうだ。

物足りなくて、じれったくて、辛いところもあるにはあるが、

だからこそ……



少しの上昇が、とてつもなく嬉しくて、

でも、また次の一歩が、怖くなる。



「順調に商売を進めていけば、きっと、賛成してもらえる時が来ますよ」

「……はい」


そんな当たり障りのない言葉だけしか、渡せなかったが、

それでも、そう思っていることは変わりなく。

その日もあっという間に30分が過ぎていった。


【10-4】



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