10 見えない敵 【10-5】


【10-5】


「いらっしゃいませ……」



『ヴォルクスタワー』のまわりには、自由に商売をする人が結構いる。

外国人の観光客も、新旧交わる町並みなどが珍しいのだろう、

数人が、カメラ片手に歩いていた。



「あの……何になさいますか」



こんなふうに、普段は喫茶店なのに、ランチタイムだけ弁当を売り出す人もいる。

何時間も煮込んだカレーとか、コロッケやナポリタンを組み合わせたもの。

同じように手書きのメニュー。



「あの……お客様」



こういった連中もみんな、『なちゅあ』をライバル視しているのだろうか。

なくなってくれたらとでも……



「お客様……ご注文は……」




お客様?




あ、そうか、俺のことだ。




「コーンスープ」

「あ……はい」



自分が『お客様』になっていたことを、すっかり忘れていた。



『なちゅあ』への妨害。

ライバルと考えてコンビニ……いや、まて、

コンビニの店員はほとんどがバイトやパートだと、以前大吾から聞いている。

『なちゅあ』に嫌がらせをする理由はない。

となるとやはり……



『べにのや』



こういった地元に力を持った連中が、嫌がらせをしていると考えるのが、

一番無理のない考え方だ。

横断歩道で立ち止まり、『べにのや』の様子を見ながら、買った『コーンスープ』を飲む。


「伝票はこれだけですか」

「おぉ、時間が決まっているから頼むよ。病院と建設事務所」

「了解です」


ワゴン車が、たくさんの弁当を乗せ、エンジンをかけて走り出していく。

伝票の厚みから考えても、『なちゅあ』とは、売り上げなんて比べものにならない。

元々、このあたりのOLたちに売る量など、考えていないはずだ。

それなら……なぜ……



なぜだろう……





クリスマスまであと数日。

目の前では百花が鼻歌を歌いながら、小さなツリーに飾り付けをしている。

うちではそんな行事、何も関係なかったのだが、去年からなぜかこうなった。

そんなふうに飾っても、サンタはこの場所にやってくるはずもなく……


「百花、年末の支払いは全て終わっているんだろ」

「はい、終了しています」


大吾に言われて、百花は書類をファイルから取り出した。

今年、一番の売り上げは、やはり『三島建設』関連。

それから『サルビアコーヒー』も大きかった。


「よし、完成」


百花は『午前中のやるべきこと』が出来たと満足そうにツリーを見た後、

コンビニに向かうと、鼻歌を歌いながら出ていった。

しかし、数分後……


「今度は、こんなビラが企業ポストに!」



『『なちゅあ』の添加物だらけの弁当。女一人で営業しているため、
きちんとした衛生管理にも疑問符』



以前と同じような、手書きのビラだった。





世の中が『サンタ』だ『プレゼント』だと浮かれている時だが、

とてもそんな気分にはなれない。

俺は瑛士を自分の部屋に呼ぶ。


「ビルにビラを?」

「あぁ……こんなもの我慢の限界だ。しかも全てがウソしか書かれていない。
普通にものを考える人間なら、これが実際に行われていないことくらいわかるけれど、
くだらないことに反応して、騒ぎたくなるやつも多いからな」


もうすぐ年末になる。

企業の仕事も終了し、来年になるまでこの状態が続いているというのでは、

新年早々、気持ちが重くなるだろう。


「で、何を俺に」

「田中先生に会う時間を作ってもらえないか」

「弁護士のか」

「あぁ……お前の家の顧問弁護士をしている田中先生なら、
こういったことを調べてくれる人間も、知っているのではないかと思って」


田中先生は、瑛士の父親が経営する会社の顧問弁護士の一人だ。

年齢は俺たちに近いくらいなので、何かがあると雑談程度にいつも聞いてもらっている。

田中先生に、俺は『なちゅあ』を脅している犯人が誰なのかを調べたいと相談し、

そういったことが出来る人間を、紹介して欲しいと頼むつもりだ。


「『アチーブ』にだって、それなりに関連するような人と縁があるだろう」

「仕事上の付き合いがある人間に、借り貸しを作るようなことはしないと決めている。
あのときにこうだったからと、別のところで使われるのは嫌なんだ」


瑛士は『お前らしいな』と苦笑する。


「田中先生に相談って言ったって、それなりの業者を頼んだら、当然仕事になるぞ」

「そんなことはわかっているし、もちろん支払いもする」

「彼女は……納得しているのか、ほら、お弁当屋の」

「相談はしていない。すれば我慢しようとするに決まっている」


そう、尾崎さんに言えば、我慢しようとするはずだ。

最初に貼られたビラ。あれに対して、警察に向かうことをしなかったため、

相手がこれならまだやれると、さらに挑発をしてきた。


「向こうは足下を見ているんだ。女一人の弁当屋なんて、何もしてこないと。
だから俺が探す」

「湊……」

「こういうやり方は許せない。堂々と味で勝負するのならわかるが、
ウソをビラでまくなんて……」


同じように味で勝負をするのなら、俺は見守るしかない。

しかし、小さな身体で正々堂々と頑張っている人に対して、これはない。


「誰がなんの目的でしていることなのか、それを知りたい。
知ることさえ出来たら、次、どう手を打つのか、考える時間も取れる」

「まずは、相手の正体をということか」

「そうだ」


瑛士は『田中先生は忙しいぞ』と言いながらも、すぐに連絡を取ってくれた。

飲みながら話そうよと言うことで、打ち合わせ場所が、『ダイヤモンド』に指定される。


「はい、どうぞ」

「まりか、今日はちょっと話があるから……」

「わかっています。女の子達はその後でしょ」

「そうそう、よろしくな」


『ダイヤモンド』の一番奥にある席に座り、田中先生にビラを見せた。


【11-1】




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