11 サンタの贈り物 【11-4】


【11-4】


「ご両親には、あれからお店の状況、話せましたか」

「一応、売り上げがどれくらいでというのは、話しました。
まだとてもお店を持つような売り上げはないですが、だんだん常連さんも増えていますし、
昔を懐かしいと思い来てくださる方もいると話したら、
父は少し前向きになってくれて……」

「そうですか、それはよかった」

「でも、母は……」


反対している『花角家』のことがあるため、話をしようとすると席を外してしまうと、

尾崎さんはまた寂しそうな顔をする。


「あ、でも、焦ってはいませんから。まだ始めたばかりです。
自分一人でもいいと思って、スタートしましたし」


一番背中を押して欲しい家族から、まだ何もプラスをもらえないことは、

言葉以上に辛いことだろう。


「そういえば、嫌がらせのビラについて、何かわかることがありましたか?」


このまま素敵な『クリスマス』を、流すように送れば良かったのかもしれない。

でも……



こんな人に降りかかった災難だからこそ、絶対に許せない。

その思いが前に出た結果、また彼女の表情を曇らせてしまった。



「あれから、シャッターに貼り出されることはなくなりました。
オフィスビルに、ビラを入れられることはまだあるみたいですが、それもきっと……」

「このまま、警察には言わないつもりですか」


被害を受けていることだけでも、話すべきではないだろうか。


「終わるのを待つ必要も無いし、そもそも……」

「年が明けたら、ビデオを撮ろうと思っています」

「ビデオ?」

「はい」


嫌がらせについて聞いてみると、尾崎さんは、自分の持っているビデオカメラを使い、

料理をしているところを映像に撮って、お弁当を売る横で流すつもりだと話す。


「こうして作っていますと見てもらえば、誤解もされなくなると思いますし……」

「あの場所で流すのは、意味が無い」



あ……まずい、言い切ってしまった。

うちの社員に言うように、つい『無駄だ』というくらい強気に。



「意味……ないですか」

「いや、あの、言い方がキツイですが、そもそも買いに来てくれる客は、
そういった誤解のない人です。そこで流しても……」

「でも……他に……」


『他に方法がない』

そんなことはわかっている。だから、彼女は我慢してしまう。


「わかりました。それなら映像が撮れたら、俺にください。
ホームページの中で、それが流せるようにします」


そう、『なちゅあ』のホームページに映像を流せばいい。

こういった中傷のビラが出ているけれど、それは違うのだと、ハッキリ示せばいい。


「それは……」

「その方が、数倍意味があります」


何か行動を起こすのなら、それがきちんと効果を生まなければ意味が無い。

向こうはビラの作り方といい、やり方といい、ずいぶんアナログだ。

これから探ってもらうことになるが、うちのようなSNSなどに知識があるような、

関連業者が絡んでいるとは、到底思えない。


「その顔は……また、お世話になるのが負担だと……」


そう、尾崎さんの心の中はすぐに読める。

俺に何かをさせたら、『貸し』が増えてしまうと、そう思っているはず。


「いつも、お願いするばかりなので」

「そんなことは気にしてしませんが、まぁ、そう言っても、尾崎さんが気にするでしょう。
こんなやりとりを何度かしてきましたから、俺も少しは学んだつもりです」


『仕事ではない』と割り切っても、とにかく、してもらったら何かを返す。

彼女の論理。


「1つ、尾崎さんに叶えて欲しいことがあります」

「はい」



心のままに、今、俺は彼女にぶつかろうとしている。



少しずつ積み上げた砂の山。

崩れては困ると思い、慎重にしてきたけれど……

こうして向かい合っていると、『その先』を作りたいと思えるのは、

自然の感情だと思うから。



いつまでも立ち止まってはいない。



「仕事を抜きにして、一緒に食事に行ってください」



こんな時間が、また取れるのだと思えば、睡眠時間を削ることくらい、

どうってことはない。


「そんなことでいいのですか」

「いいですよ」


尾崎さんは『ありがとうございます』と少しほっとした表情になる。

俺は気づかれないくらいの大きさで、息を吐いた。

信じられないが、久しぶりの緊張感。

『女性を誘う』なんてこと、そういえば初めてかもしれない。


「そうだ、年末年始、俺も『七王子』に帰ります。
特にやることはないので、もし、尾崎さんの時間があれば……」


『七王子』での時間。


「……はい。私も特には、予定も掃除くらいですし」

「それならラインで」


そう、ラインで連絡し合えばいい。


「わかりました」


思いがけない『クリスマス』の時間は、さらに次の時間を導いてくれる。





『クリスマス』には、やはりサンタがいるのだと、俺は人生で初めて思った。





そして、『アチーブ』にも、仕事納めの日がやってきた。

百花にお願いして買ってきてもらったお弁当には、おまけがついている。



『お世話になりました。来年もよろしくお願いします』



尾崎さんの手書きメッセージ。

今日は彼女も仕事納め。

他の人に渡すとややこしくなるので、うちにだけ手作りクッキーの箱を寄こしたという。


「今日も賑わってました。OLさんとか数名、ファンがいるみたいで。
若菜さんも笑顔で頑張っていましたし……」

「そうか」


よかった。

それならとりあえず年末は問題なく終了しそうだ。

ビニールに入ったクッキーを持ってみる。



携帯が揺れ出したので相手を確認すると、瑛士からだった。


【11-5】



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