14 彼らの誤算

14 彼らの誤算


「『クライン』の別メニューですか?」


亮介が、まだ退院してすぐの頃、自宅にかかってきた電話は、京都支店石原からだった。

社内で話をすると、誰が聞いているかわからないから、石原も自宅からだと笑う。


「あぁ、あの会長はこっちが思っている以上に日本を知っている。
観光地で、観光客が雑誌を片手に、のれんをくぐるような店を選択したら、一発でアウトだ。
現場なんか知らない塚田さんが、いくら必死に仕切ったって、
何年かしか仙台にいない営業部員たちが、すぐにいい店を探してこられるはずがない。
まぁ、どこかの企業の社長が、内緒で使うような店を選択してくるのが関の山だろうな」

「でも、穴場になるような小さな店を探すことは、俺でも辛いと……」

「……それはそうなんだよ、俺もそうだった」

「京都の時もそうだったってことですか?」

「あぁ、とんでもない目にあったよ。出した後、向こうはしっかりチェックを入れてくる。
これはどういうことですか……と突きつけられて、答えを返せなくてもアウトだ。
役に立つかはわからないけれど、京都と高知の時の資料を自宅に送るよ。
店を選ぶときの傾向や、食べ物の好みでも、参考になるところはあるはずだから」

「……はぁ」

「おいおい、確かにため息出るけどさ。でも、信頼してくれたあとの見返りは大きい。
自動車メーカーの社長でありながら、航空業界にもとんでもなく顔が利く人だ。
これを乗り切ることが出来たら、アメリカ行き全てのツアー料金を
工夫することが可能になる。だからこそ、うちの会社も毎年必死なんだ」

「でも、塚田支店長がずいぶん前から、あれこれ考えているようですよ。
書類を見た時、おまえは気にするなと、ハッキリ釘を刺されましたから」


亮介は、自然体験ツアーの前に、塚田と交わした会話を思い出し、強く手を握る。

普通なら相談されてもいい立場なのだが、塚田にとって自分の存在は、

協力者とは思われていないのだと、あの時、亮介は確認したからだ。


「だからだよ、だからこそ意味がある。深見……。お前、現場なんか知らないやつに、
自分の実績が負けると思うか? 思わないだろ。いつ、勝負かけられてもいいように、
動くだけ動いておけ。ただし……向こうに知られるのはまずいぞ」

「……勝負って、塚田支店長が動く以上、僕が動いても……。それは、部下として……」

「部下としては失礼なことに当たる。それはその通りだけれど、
上司としての役割を、向こうが果たしていないことだって事実なんだ。
これはお前だけじゃなくて、これから先の会社の方向性だって決めることになる。
この情報だって、ある人から得たものだしな」

「石原さん……」

「現場をバカにするようなやつに、上に立たれてたまるか! って、思っている人間も、
まだまだ社内には多くいる。いいか、何年か先には、俺たちが会社の中心になる。
そう、北京でも約束しただろう、忘れたとは言わせないぞ」


また一緒に仕事をしたいと、亮介は互いに握手を交わしたことを思いだし、

受話器を握り締めながら、軽く頷く。


「賭けかもしれない。それでも、仙台支店でミスになれば、本社の連中は支店が悪いと
言い出すし、あの男は、またなんだかんだと部下に罪をなすりつけるだけだ。
だとするなら、自分にかかってくる火の粉だけは振り払え」


もし、塚田の方法がうまくいかなかった時は、本社の長谷部を通して、

企画を上へあげてこいという石原の言葉に、亮介は目を閉じた。

先日のツアー事故の件でも、自分と太田の判断ミスが原因だと、

塚田が本社へ連絡したこと、はすでに耳に入っている。

何もしないまま、塚田の思い通りにされることだけは避けたい。

亮介の気持ちの中に、そんな想いが大きくなる。


「よし、頼むぞ、深見!」

「人のピンチが楽しそうですね、石原さん」

「信頼してるよ、亮介君!」


石原はそう言うと軽く笑い、生まれてくる子が女の子なら、うちの息子に嫁に出せと、

緊迫した話のあとに、どうでもいいことを口にした。





「この資料をもとに、俺なりにも組んでみたんだけど、時間のロスが多い気がするんだ。
軽部の方で、ちょっと当たってみてくれないか?」


この仕事の趣旨を話し、状況を説明された軽部は、書類に目を通した後、

亮介の目を見てしっかりとうなずいた。





それからさらに日付を重ね、亮介は足のリハビリのため病院に通い始めた。

固定された状態は終わったものの、すぐには元のように歩くことが出来ない。

検診が2週間に一度となった咲も、大きなお腹を抱え、そのリハビリの様子を見守る。


「すぐにまた歩けると思っていたのになぁ」

「それは無理だって先生に言われたじゃない。でも、だいぶ違和感ないわよ、見ていても」

「そう?」


二人がベンチに座り話していると、エレベーターが開き、一人の女性が頭を下げた。

それはこのケガの原因を作った戸田親子の母親で、実は病院の事務員として働いていることを、

亮介達は後から聞き、リハビリに通っていることを知った彼女から、あらためて謝罪を受けた。


「おはようございます」

「あ……」


咲はすぐに立ち上がり、母親に頭を下げた。妊婦の咲を心配し、座って欲しいと訴える。


「毎回、挨拶に来ていただいて、申し訳ないです。もう、ほとんどいいですから、
気にしないでください」

「いえ……でも、お仕事にも影響があったでしょうに、本当にこちらこそ、申し訳なくて」


亮介は松葉杖を左側に揃え、少し細くなった右足を軽くさする。


「昇平君はお元気ですか?」

「はい」


亮介はあの後、残りの体験ツアーに参加した男の子のことをずっと気にしていた。

自分の怪我で、後味の悪い旅行にしてしまったと、頭をさげる。


「いえ……昇平も反省したようですし、あれから私に対しての態度も、変わりだしたんです。
学校から戻ると部屋に入りっぱなしだったのに、少しずつ私に友達とのことを、
話してくれるようになりました。深見さんに今日、病院で会ったよって言うと、
嬉しそうに笑います」

「そうですか……」

「一昨日、主人に会って、このことを話しました。あの子が反抗的だった時には、
たまに会っても、昇平のことを話題にすることを避けてました。
私より主人の方がいいのではと思われるのが嫌だったから。でも、今回は話せたんです。
地元のニュースでは流れましたけど、息子の名前は出なかったので、
まさかと思っていたようです。怪我もたいしたことなかったと言ったら、安心してくれました」


夫婦としては壊れてしまった関係も、昇平君を挟んで両親として繋がっているのだと、

咲は亮介のタオルをたたみながら、二人の話を黙って聞いた。





亮介が到着していない仙台支店では、塚田が書類を見ながらため息をつく。

『クライン』の社長宛に送った企画書は、いくつかチェックが入り、採用にならなかった。

地元の企業主達が、出入りするような店を探し、それなりの流れを作ったのに、

突き返された理由がわからない。店を探させた営業部員に問いただしても、

頭をひねるばかりで、解決にはつながらなかった。


病院に寄ってから出社すると言った亮介の机を見た後、塚田はその書類を封筒にしまい、

一番上の引き出しをあけ、見えない場所へとしまい込んだ。


「あの……深見部長はまだでしょうか」

「あ、今日は病院から来るはずだけど」


受付を担当する女子社員の問いかけに、太田はすぐそう答えた。


「じゃぁ、太田さん出てください。あの、岩手の事故のことを聞きたいってお客様が
いらっしゃってるんです」

「エ……」


塚田はすぐに反応し、太田の方を向いた。その視線に気付いた太田も、塚田の表情を確認する。


「新聞記者や雑誌の取材なら断りなさい。これ以上、騒ぎを大きくする必要はない」

「いえ……あの、深見部長が助けた戸田昇平君のお父さんだそうです」


太田は困ったことになったと思い、下を向き目を閉じた。

あの男の子の家庭の事情は知っていたが、まさか別れた父親が、

文句を言いにくるとは思わなかったのだ。


「……なんなんだ、これ以上責任をどう取れと……」


塚田も同じことを考えたのか、余計なことをしてくれたものだと、太田の方を睨む。


「太田、お前が出ろ。こちらとしては、きちんと対応させてもらったんだ。
わざわざ、私が会うことはない」

「あ……はい……」


太田は仕方なく重い腰をあげ、受付に座っている父親の元へ向かう。

責められるのはお前だけで十分だと、塚田に言われた気分で階段を下りてきた太田を、

その父親は立ち上がって迎え、丁寧に頭を下げた。


「あなたが深見さんですか」

「あ、いえ……深見は少し遅れて出社するんです。今はまだ……」

「そうですか。昇平の母親からリハビリをされていると聞きました。では、今日も……」

「はい……」


文句を言われると思いながら出てきた太田は、父親の丁寧な態度に、逆に戸惑った。

あの日、一緒にいた添乗員なのだと、挨拶する。


「そうですか、お世話になりました。それでも……息子のことをうかがいたいのと、
お礼を言いたいので、深見さんをここで待たせていただきます」


太田はわかりましたと頭を下げ、亮介が来るはずの駅方面へ視線を向けた。





「亮介さんを送ったら、文楽堂のプリンを買って帰るわ」

「あんまり食べ過ぎるなよ。急な体重増加は負担がかかる」

「エ? そんなに食べないです。ゾウやカバじゃないんだから」


仙台駅を通りすぎ、会社の前にタクシーをつけた。

亮介は松葉杖を出し外へ体を向けると、ゆっくりと足を出す。


「深見さん!」


その声に亮介が顔をあげると、そこに立っていたのは芽衣だった。


「あ……」

「ねぇ、亮介さん。書類……」


反対側の扉から出た咲の視線に、自分を見て驚く芽衣が飛び込んだ。




                                 深見家、新メンバー加入まで……あと40日






15 お礼の言葉 へ……




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コメント

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No title

イベントの為に、もう寝なくちゃいけないんだけど、UP見つけちゃったから思い切り読んじゃいました。

むふむふ~地下深きところで戦いの炎がめらめらと、揺らぎ始めたのね。・・・いずれv-42
打倒塚田ののろしが上がった・・・・・v-56

咲ちゃんそろそろ臨月、しんどい頃だね。何かとご苦労様でした。

戸田親子の溝が縮まってよかったね。
亮介の怪我が報われましたね。

さてさて、芽衣登場・・・・・でもきっと何か良い方向の為に、
神様が??つかわしたのでしょう・・・・・・・ココはそう信じる・・・・きっぱり

しかし、またまた問題のお土産つきの登場なら、ココ怒るぜ・v-217・・・p(`ε´q)ブーブーと

ももんたさんを脅すココ~(* ̄ー ̄)ニヤリ(* ̄ ̄ー ̄ ̄)ニヤリ(* ̄ ̄ ̄ー ̄ ̄ ̄)ジト~~~

穏やかな気持ちで、v-73出産させなきゃ・・・・そうそう・・・・♥♥ぉねがぃ~( ̄ー ̄)ニヤリ♥

戸田父親もきっと見方になってくれる人だと思う  イベント前だから心が広いココ~なんちゃって

こんちは!!e-320

フフフ、塚田の野郎をノックアウトさせるチャンスが大きくなってきたと思ったら
あの親子やら芽衣やらが登場してきて何やら怪しい雰囲気に・・・。

あの父ちゃんは問題なさそうだけど芽衣の方はなんか心配です。
咲ちゃんにも会社(亮介さんの立場)にも影響ないといいけど・・・?

なんで今更出てくる、芽・衣・さ・ん。v-217

亮介さん、咲ちゃんに良い結果になることを祈りつつ、次回を待つ!!


      へば、まだ・・・。e-463
     (では、また)

ココさんも、気持ちは飛んでる?

ナタデココさん、こんばんは!
……って、今頃、イベントの余韻に浸っているところですか?
なんだか気球で飛んでましたね(笑)


さて、気持ちを創作へ戻します。


>むふむふ~地下深きところで戦いの炎がめらめらと、
 揺らぎ始めたのね。

はい、亮介がこのまま終わることはないですよ。
どんなふうになるのかは、ここからです。


>さてさて、芽衣登場・・・・・
 でもきっと何か良い方向の為に、神様が??
 つかわしたのでしょう・・・・・・・
 ココはそう信じる・・・・きっぱり

きっぱり……と言いながら、『……』がやたら多いんですけど(笑)
なんのために来たのかも、次回へ続きます。

そうそう、出産前にこれ以上の刺激はよくないですよね。
うん……

芽衣の意味は

mamanさん、こんばんは!


>あの父ちゃんは問題なさそうだけど芽衣の方はなんか心配です。
 咲ちゃんにも会社(亮介さんの立場)にも影響ないといいけど・・・?

いいけど……ねぇ

亮介と咲に、いい方向へ話が向くのか、またトラブルのかは、
次回へ続きます。

へば……って、どこの言葉だったっけ?

嫌われ者

yokanさん、こんばんは!


>塚田は何を小細工しているんでしょう、
 嫌なやつだな~( 一一)

嫌われ光線を、一気に受けている塚田です。
嫌なヤツだからこそ、倒しがいもあるはず。


>昇平君のお父さんが何か良い方向へ
 持っていってくれそうな予感がします^^
 この予感が当たればいいな~

いいなぁ……
次回をお待ち下さいませ。

ゾクゾクしたわ~^^

ももちゃん こんばんは^^

「彼らの誤算」って、いいタイトルだ~!
亮介と石原さんの会話、ゾクゾクするね。
手持ちのコマを動かしていく、仕事ができる男が二人、画策して物事を動かす様子がたまりません。

昇平くんパパの来社が、今後、良い方向に影響する?
といいな~♪

そこで芽衣の登場!
「なんでよ!」といいたいけど、作者さんとしては、”ここが出番”だと思うから出してきたのでしょう。
さて、その真意は・・・

今回は、色々楽しみな事柄があったね。
すべては今後に繋がる繋ぎの回だと踏んで・・・
次回を待ちます!

北京での約束

昇平君パパの来社に、又部下に責任を押し付ける塚田

クラインの企画書が突き返された理由もぜ~んぜんわかってないし・・・本当に最悪!

>何年か先には、俺たちが会社の中心になる。

北京での石原さんとの約束を守るためにも
亮介さん、遠慮しないで塚田をバッサリやっちゃってね!

それにしても、今更芽衣は何をしに来たんだろう?

出産間近の咲ちゃんに、あんまり心配させないであげて欲しいなぁ~~

へば・・・ってサ



こんにちは!!v-378

へば・・・は、青森県の津軽弁です。 それでは・・とか、それじゃ・・という意味です・・・多分。(小さい時からそう思って使ってましたから)

へばだば…っていうのが正しいのかな?これも言ってます。

自分とこの言葉なのによく分かんないなんて・・・トホホな奴です。

     へばだば、まだ・・・。e-463
    

わぁ~い、ほめられた

なでしこちゃん、こんばんは!
忙しいのに、来てくれてありがとう。


>「彼らの誤算」って、いいタイトルだ~!
 亮介と石原さんの会話、ゾクゾクするね。

ありがとう。
ビジネスシーンを書くには、リアル感が出ないと
伝わらないんじゃないかと思って。
ゾクゾクしてくれたのなら、嬉しいです。

芽衣の登場、みんな『?』のようですね。
おそらく亮介も『?』なはず(笑)
その真意は、次回までお待ちを。

いやなやつは、どこから見てもいやなやつ

バウワウさん、こんばんは!


>昇平君パパの来社に、又部下に責任を押し付ける塚田

いるんですよ。自分の身を守ることだけには、
ものすごく反応がいい人って(笑)

まぁ、このまま大きな顔をしては、いられない……はず。

出産間近の咲の前に来た芽衣、
うん、なんだろう(笑)

おぉ! そうだ!

mamanさん、こんばんは!

あ、そうか、青森だ。
どこかで聞いたことがあると思いました。

ということはmamanさんはそちらから、来てくれてるのね!
遠くの方とお話出来るのは、とても嬉しいです。

へばだば、またv-422