12 新年のドライブ 【12-1】

12 新年のドライブ


【12-1】


『箱根駅伝』

今更言うまでもない、正月の大イベント。


「なんかね、テレビで去年見ていたでしょう。
今まではあまり集中して見ていなかったけど、去年はタイミングかしらね。
あの、『一生懸命』に走る姿を見ていたら、応援したくなったの。
頑張れ、頑張れって。声をかけたくなったのよ」

「ふーん……」

「『一生懸命』にやることなんて、私たちくらいになるとなかなかないものね」

「まぁ、そうだな」


『一生懸命』か……

俺には、すぐに浮かぶ人がいるけれど。


「そうしたらね、毎年ここを予約しているゴルフ場のオーナーさんが、
昨年末にぎっくり腰になってしまったって言って。キャンセルも出来るけれど、
急遽、代わりに行かないかって、お父さんに電話をかけてきたらしいの。
『箱根』だもの。これは願ったりでしょう」

「ほぉ……」


マフラーを巻き、体中にはカイロを貼り付けた親父は、

知らない人ばかりが走るのに、何を大きく見たいのか、双眼鏡まで準備する。


「そういうことか」

「そうよ、知らない人を応援するなんて、
湊にしてみたら面倒だって言うかもしれないけど」


確かに最初に聞いた瞬間はそう思った。

でも、『一生懸命な人』を見たら、応援したくなるのは、俺にもわかる。

去年の春から、今の今まで、俺の人生にはなかった『一生懸命』が、

尾崎さんの登場によって、書き加えられているから。


「いや、いいと思うよ。声が枯れるくらい応援してくれば」


昔から、『流れのままに生きてきた』村井家の人間は、

ないものを求めて、そういう気持ちになるのだろうか。

こういうのも『遺伝』。


「行くぞ、留美子」

「はい」


元気な二人を送り出し、ただ広い部屋の真ん中で、うたた寝をし、

目覚めた時に、旅館に頼んで準備してもらった、おせち料理をつまむ。

元々、それほど好きでもないし、さらに頭も身体も動いていないから、

腹も減ってないんだよな。



今、何時だ。



そういえば、尾崎さんと年明けにでも、会いましょうと話したこと、

覚えているだろうか。

さすがに元旦は気が引けたけれど。



ライン……送ってみようか。



彼女のマークは、あの『マルプー』。

百花にはバカにされたけれど、彼女が似ていることを喜んだのなら、それでいい。



『あけましておめでとう』



まずは、そう打つよな。

で、それから……



ん?



『あけましておめでとうございます……』



尾崎さんからのラインが来た。慌てて開いてみる。



『あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
このお休み中に食事でもと誘っていただきましたが、実は、明日とあさって、
花角の家の手伝いをすることになりました。
5日の午前中に赤坂井に戻りますので、空いている日が無くなってしまって、
ごめんなさい』



明日とあさってが手伝いで、5日はもう赤坂井。

だからって……いやいや、あるでしょう。



『おめでとうございます。それならば、今日はどうですか』



そう、今日は2日。

『応援団』をする両親のおかげで、俺もすっかり目が覚めている。

あの二人はこうなった以上、行ったりきたりで、明日も応援をするつもりだろう。

車を借りて、『七王子』に戻れたら……



『そんなに急な約束で、平気ですか?』



平気も平気。

なんなら、このまま迎えに行きましょう。



『大丈夫です』


今からすぐにここを出たら、おやつの時間くらいには『七王子』につけるはず。

身支度を整えて、すぐ車に乗り込んだ。





待ち合わせの場所は、とあるファミレスの駐車場。

渋滞に巻き込まれた時を考え、尾崎さんとの待ち合わせは夕方の5時とした。

しばらく店の中でコーヒーを注文し、PCで仕事をしていると携帯電話が鳴り出す。

尾崎さんに何かがあったのかと思い相手を見たら、お袋になっていた。



現在、午後3時少し前、息子の勘。



ここはあえて知らない振りをしたまま、携帯を鳴かせっぱなしにする。

しばらくすると諦めたお袋が、メッセージを吹き込んできた。



『湊、車どうして使っているのよ。お父さんと観光に行こうと思ったのに』



そんなもの知らん。

そもそも、箱根に予約したことだって知らなかったんだ。

今頃、細かい予定を明らかにされても、もう戻れやしない。

タクシーでもなんでも使えと思いながら、またPCに目を戻した。



「さてと……」


待ち合わせの15分くらい前になり、店から出ると大きく背伸びをした。

車に戻り、椅子に座っていると、

すぐにこちらに向かって軽く手を振る尾崎さんが見えた。

俺は車から降りて、『あけましておめでとう』とあらためて挨拶をする。


「おめでとうございます。すみません、急な約束になってしまって」

「いえ、実際、特にやることなんてないですから」


そう、休みと言われても、時間があればすぐPCを開いて、

管理している企業のページをチェックしたりしてしまう。


「車に……乗りませんか」


すぐに食事をして、終わったらさようならでは味気ない。


「はい」


彼女の心地よい『はい』の返事。

『助手席』の扉を開けると、素直に従ってくれた。


【12-2】



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