6 『恋愛』しよう 【6-2】


【6-2】


今の騒動は、どれくらいの長さだったのか。

私はずっとパン売り場に立ち、涼太郎さんの対応を見続けた。


あくまでもコンビニは、仲介役としてプリペイドを購入させているだけで、

実際の問い合わせについては、全てカードの会社へと、

立てかけられた器具にも大きく書いてある。

『どうしてトラブったのか』原因をわかっているお客様が、

会社と直接連絡をして欲しいということも、何一つ間違っていないのに、

関係なく怒りをぶつけられ、その後、問題を解決してくれた涼太郎さんに対して、

年配客は、謝罪をすることも、お礼を言うこともなかった。

自分でやり方がわからないのなら、正直にお願いするのが筋だろう。

もう、人生もそうとう生きてきたはずの、ご年配のお客様なのに。

思うままに怒鳴って、自分だけ解決して出て行って。

『感情をぶつけられた方』の気持ちなんて、全然考えていなくて……



それでも、涼太郎さんは、何事もなかったかのように、

いつもと同じ接客を続けていく。



『こんなふうにされました』

『これはおかしいと思います』



鈴木さんに、仕事の愚痴をあれこれ言った私とは違う。

今日も、いや、この前もその前もずっとそうだった。

タバコを購入するといきがった未成年、新人をからかう悪質な客、

理不尽な客に立たれても、それを顔に出すことなく仕事を続けて……



どうしたらあんなふうに出来るのだろう。



私は、品物をカゴに入れて、レジの前に立つ。


「いらっしゃいませ」

「こんばんは……」


挨拶の言葉だけは返せたが、

数日のトラブルに、気持ちがごちゃごちゃしている自分が未熟者に思えて、

涼太郎さんの顔がしっかりと見られなかった。


「何かあったのですか」


その言葉に私は首を振る。


「いえ、すみません。何でもないです」


財布を取り出し、『スコッチカード』を出す。


「それならいいですけど」


涼太郎さんはレジで計算をし、カードを受け取ると、ビニール袋に品物を入れてくれる。

私はそれを受け取ると、そのまま店を出た。


「尾田さん」


階段に向かおうとすると、追いかけてきたのは涼太郎さんだった。


「はい」


何か入れ忘れでもあったのかな。


「すみません、来週ですが、うちに介護のベッドが入る予定で、
ガタガタとうるさいかもしれません。1時間くらいで済むので、
ちょっと我慢してもらえるかなと」


涼太郎さんは、業者が出入りするのでと頭を下げてくれる。


「あの……」

「はい」

「涼太郎さんは、どうしてそんなに、自分がコントロール出来るのですか」


聞く予定もなかったのに、言う予定もなかったのに、

私の心は、堰き止めていた板を外し、思い切りそう聞いてしまった。





「すみません、急がしいのにまた事務所まで」

「いえ、この時間はバイトもいますし。基本的には裏仕事ですから」


涼太郎さんにコーヒーを出してもらうのは、2度目。


「仕事で失敗しましたか」


私は首を振り、自分が未熟なのだとそう答えた。

そして、どうして理不尽なお客様にも、あれだけ冷静でいられるのかと、

そう聞いていく。


「さっきの男性も、どう考えたってわがままですよね。
自分で削ったプリペイドの数字が見えないとか、そっちが売ったから悪いとか、
好き放題に怒鳴って」


この間のタバコのことも、そして新人バイトに、イライラをぶつけた客のことも、

話に加えていく。


「涼太郎さんはいつも冷静に対応していて、すごいなと思いますが、なんだか……」

「いやいや、俺だってメチャクチャ腹立ててますよ」

「エ……」

「当たり前じゃないですか。今の客だって、そう……自分のミスなわけですよ。
カードの裏にはここへ連絡をくださいと書いてあるのに、『失敗した』ことで、
もうパニックになっていて。で、本来、そのクレームを受ける義務のないこっちに、
自分がすべきことを押しつけて」


涼太郎さん……


「それなのに解決してあげたこちら側には、ありがとうも言えない。
この前の、未成年のくせにいきがってタバコを売れと言ってきた客も、
それが見抜かれたから腹を立てて。
トラブルになると、客は二度と来ないぞと言いますが、家から近かったら来るんですよ。
自分の言ったことをすっかり忘れて」


涼太郎さんは椅子の方向をPC画面から、私の方に変えてくれる。


「イヤホン両耳にしたままで、買い物をしようとして、
こっちがカードはありますかと聞いても、しらんふり。
それで会計が終わる頃になって、カードを出してきて、
『どうしてあるのかを聞かないんだ』って逆切れとかね」


涼太郎さんは、そこで一度大きく息を吐くと、

本当に身勝手な人間ばかりですと、笑ってくれる。


「でも、そこで気持ちのままに言い返して、自分が得をすることは一つも無いでしょう。
どんなに嫌みなやつだとしても、さらにいらつかれて、
店のものでも傷つけられたら大変だし、バイトを守る役目も、俺にはありますから。
ガタガタ言ったって、売り上げに貢献するわけだから。
かぼちゃか、しなびたじゃがいもだと思えば……」

「しなびた……」


少し前に帰って行った年配のお客様。確かにそんな感じだった。

思い出してしまって、少し笑ってしまう。


「すみません、笑ってしまって……」

「いえ」


涼太郎さんは、人は案外弱いものだと言い始める。


「弱い?」

「そうです。おそらく、今の年配客も、自分が悪かったなと、
落ち着いたときに思うわけで。そうすると、申し訳ないから、
またあの店で買い物をしておこうと考えるんです」


なんとなくわかる気がした。

お手洗いを貸してもらうと、何かを買わないといけないかなと思う感覚、

それと似ているのだろうか。


「あとはきっと、自分も要領が悪くて、世の中からしたら、
外れているかもしれないなと、思うからかもしれません」

「涼太郎さんが外れている? いえいえ……」


物事をハッキリ示せない私には珍しく、両手を振って、素早く否定した。


【6-3】



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