6 『恋愛』しよう 【6-4】


【6-4】


「何その、熱の入り方」


自分でもそう思う。

ここまで、真優に必死に訴えたことなど、今まであっただろうか。


「わかりやすいね、真梨って」


真優はそういうと、クスクス笑い出し、それがだんだんと大きな声になる。


「いやぁ……あはは、そうか、そういうことね。
やだ、真梨は水田涼太郎を好きだってことなんだ」

「真優」

「だってそうじゃない。彼がすばらしい、すばらしいって、
今ここで連呼したんだよ」


そういうことではないと言おうとしたが、

こういう時の真優には何を言っても無駄だと言う思いと、

それはそれで何が悪いのだという思いが、自分の心の中で交差した。

私は私、真優は真優。


「確かに、真梨らしいかもね。平凡で、特にきらめくものもなく、
ただなんとなく日々を暮らしているような男が好きだって……」

「真優……」

「何よ、間違っている? 大学に期待をされたけれど、
収まったのは親の経営するコンビニの店員。なんのための高学歴よ」


真優は文句があるのならどうぞと、私を見る。

こんな時に言い合いをしても、むなしくなるだけだと言うことは、

もう人生で何度も経験してきた。


「別に、真梨の恋路の邪魔をしたりしないわよ。
人の恋愛に首を突っ込むほど暇じゃないし」


真優はそういうと、飲みかけのペットボトルを冷蔵庫に戻す。


「水田涼太郎ねぇ……」


途中で止まる声。

実は後に言いたいことが続くけれど、

ここでそれ以上は言いたくないというような言葉を残し、

真優はまたひとり携帯をいじりだした。





そんな小さな姉妹げんかがあった週末、真優を泊めると約束した最終日。

今日は陽太郎さんが主催する、『細貝コレクションの会』に参加することになっていた。

陽太郎さんと近づくことが目的の真優は、朝から化粧にも力を入れているが、

ただ付き合わされる私としては、座っている姿勢から立ち上がるのさえ、

面倒くさいと感じてしまう。


「今日でおしまいだからね。ここに泊まるの。そう約束したし」

「わかってますよ、1週間でしょう。私も狭くて嫌になっているし……」


居候の身で、よく言える台詞だと思うが、

言い返すのも面倒くさい。


「真梨……。昨日は誰かに聞いたことで、身勝手に判断するなと、
怒りまくっていたけれど、日付が変わったし、
冷静になったでしょうから言わせてもらうわよ」

「何?」

「何じゃないでしょう。水田涼太郎について、熱弁振るっていたくせに。
いい? 人としてかけていると言ったのは、見知らぬ他人じゃないからね、
陽太郎さん……私は陽太郎さんから水田涼太郎のことを聞いたの」

「エ……」


陽太郎さんが、涼太郎さんのことを、そんなふうに言うなんて。


「ウソ……」

「ウソではありません。だったら自分で聞いてみなさいよ。
いや、昨日のように、言い返したらいい」


真優はそういうと、鏡の前で丁寧に口紅を塗りだした。



『かけている』



陽太郎さんが涼太郎さんをどう思っているのか、もちろんその逆も私は知らない。

でも、あの陽太郎さんが、人の悪口を平気で言うなんて、

やっぱり信じられなくて。


「おはようございます」


陽太郎さんが部屋の前に来てくれたのは、それから15分後だった。

今日は山瀬さんだけがそばにいる。


「今日、珠美さんは」

「あいつは、切り株劇団の公演準備」


『一応本業だからね、儲からないけど』と、山瀬さんは笑い出す。


「あ、おはようございます。陽太郎さん、今日はよろしくお願いします。
私、こういう会に参加したことがないので、
きちんとお役に立てるのか心配ですけれど……」


声が聞こえたことがわかり、真優はピカピカの笑顔で私の横に立つ。


「いやいや、心配するほどの作業ではないですよ、とにかく行きましょう」


陽太郎さんは、真優の挨拶をあっさり受け取ると、時間がなくなるのでと、

階段を降り始めた。真優はすぐ後ろに続き、その後を私と山瀬さんが追う。


「どうですか、ここの住み心地は」

「はい、駅に近いというのは、これだけ楽なのかと思って」

「ですよね」


山瀬さんは、私以外の3部屋の住人が、みなさん4年以上住み続けているのだと、

教えてくれる。


「みんな快適だから、なかなか出て行かなくて。
大家にしてみたらもうけが減りますが」


私はそうかもしれないと軽く頷いていく。

敷金とか礼金とか、不動産屋もそうだけれど、入れ替わりがある方が、

色々と入ってくる金額が多い。それが世の中の商売の当たり前。


「あ、でも、気に入ってもらえているのも、嬉しいのではないですか?
入居しても、みんながすぐいなくなったら、環境がよくないのかなと考えますし」

「そうかな……」


階段を降りていくと、『スコッチーズ』の前に先日も見た軽自動車が止まっていた。

陽太郎さんは運転席側に向かい、真優は助手席を狙おうと、動いていく。


「陽ちゃん、お茶くらい持って行こうよ」


山瀬さんはそういうと、お店を指さした。

私は店の中を見る。



涼太郎さん……



「私、買ってきます」

「あ、いいよ、俺が行くから」


山瀬さんと一緒に店内に入り、二人で飲み物の場所に向かう。

自分たちの分と、向こうにいる細貝さんの分として、

5本のペットボトルをカゴに入れた。


【6-5】



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