9 『権利』を取ろう 【9-2】


【9-2】


「なんだ、これは」


車から降りてきた男性は、サングラスをかけていて、

両手をその場で組むと、並んでいる人たちを前からじっくりと見始めた。


真夏でもないし、海辺でもないのに、サングラスをかけている人のイメージ。


私の中にある、そう、身勝手なイメージだけれども、昔不良だったとか、

ちょっと性格が荒いとか……

今時、時代遅れのようなことを言ってと言われそうだけれど、

おそらく、私とは、性格があわない人だと思う。


そんなことを瞬間的に考えてしまう私は、『おそらく合わないだろう』という人と、

視線を合わせてはいけないと思い、文庫本を見続ける。

それでも視界の隅に、その『合わない人』が立っているのがわかるため、

『早くどこかに行って』と、何度も念じてみた。


「なぁ……」


あのサングラス、誰かに話しかけたのだろうか。


「なぁ、おい、そこの読書ガール」



読書ガール……



『ガール』の部分、舌をクルクル回したような、癖のある言い方、

思わず顔をあげてしまった。

男性は、サングラスを外し、しっかりと目で私を見た。



あれ? 鋭くなく、案外かわいらしい目。



「なぁ、この行列はなんだ。私は忙しい、無駄な時間はない。
だから簡潔に説明してくれ」

「えっと……」


どうして私にと思い前の4人を見ると、全てが男性だった。

女性だから聞きやすいと思われたのだろうか。

無駄な時間がないのなら、興味なんが持たずに、さっさといなくなればいいのに。


「わからないのか、なんだと聞いている」

「限定のシューズを買うために必要な、引換券を待っています」


私が珠美さんから得ているのは、これくらいの情報。

どんな素敵なシューズなのかまでは、細かく聞いていない。


「シューズ? ほぉ……たかが靴。そんなもののためにこれか」


さっきから、この人、口調とか言い方とか、結構失礼気味なんですけど。


「ふぅ……。統一感がない、かといってデザイン性もない。
こういうズガッとした列の作られ方は、私の美的感覚からすると、
ちょっと受け入れがたいな」


『ズガッとした列』

エ……何? どういう意味だろう、初めて聞いた。


「ふぅ……」


サングラスを外した男性は、数歩下がると、手で何やら囲いを作る。

その中にビル全体を収めたつもりなのか、

とにかく何かを見ているというようなそぶりをした。

それにしても、あの人、自分がどこに立っているのかわかっているのだろうか。

思い切り体が道路に出ているから、普通に走る車が、ウインカーを出して、

わざわざ避けている。

彼を乗せてきた運転手さん、あの人、道路に立っているけれど、

危ないですよとか注意しないのだろうか。


「まぁ、いいか」


その男性は満足したのか、道路から私たちの横を歩き、扉から堂々と入っていく。

もしかしたらお店の人なのかと、私は背伸びをして見た。


「見ちゃったね……本物」

「そうそう」


『本物』と言われ、私は今の人はタレント活動でもしているのかと思い、

数人後ろにいた女性に尋ねる。


「今の方って有名人ですか?」

「有名……といえばそうかな」


女性は、友達と顔を見合わせる。


「今の人は、このビルのオーナー『ロギック』の社長の長男で、
建築デザイナーの伊集院智さんですよ」



『伊集院智』



その人、有名なのだろうか、全く聞いたこともない私。


「あ、そうですか」


二人のはしゃぎっぷりを見ていたら、『知らないです』とは言えなくなる。

私は文庫本を閉じ、自分の携帯を取り出した。



『ロギック』はもちろん有名な企業だから、私でも知っている。

つまり、このちょっとおしゃれなビルは、『ロギック』が手がけたということだろうか。

美的感覚なんて言っていたけれど、彼が設計でもしたということ?

そこから『ロギック』を探し、色々と探ってみる。



『SATORUブレンド』



こんなブログを見つけた。

今、ここに現れた伊集院さんが、忙しい仕事の傍ら、

ちょっと『ズレている』場所を自分で見つけ、

センスバッチリになるような、フォローをし続けるという応援もの。

そういえば、商売がうまくいかなくなっているお店にプロが出向き、

うまく行くこつを教えるという番組があった。

そんなことだろうか。



『コーヒーは、私の中に隠されている可能性を、この世に引き出してくれる、
魔法の飲み物だ』



『隠されている可能性』に『魔法』。

ようするに、コーヒーが好きだと言いたいのかな。

それにしても、ブログの大きな写真が自分のコーヒーを飲む姿とは……。

どうもあの人は、どこまでも自分が好きなタイプのように思えてくる。

そんなブログをひまつぶしに何気なく見続けていると、目を引いた場所があった。

それは私が使う駅前の道。

そう、『スコッチーズ』があって、その反対側に……



『今度、手に入れた小さなビルです』



一番下が確か美容室だったけれど、数ヶ月前に店を閉じてしまって。

2階には、子供が通うような音楽教室があるはず。



『ここからこの場所が、私の才能でどう成長していくのか、随時更新していきます。
私の力を、信じてくれたら……so happy』



『so happy』って……。あの場所、あの人が何かするのだろうか。



サングラスをかけた伊集院さんのおかげで、疑問符がたくさん湧き上がり、

8時からの2時間は、あっという間に過ぎた。


【9-3】



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