11 『迷い』は捨てよう 【11-4】


【11-4】


文房具店の仕事を、ご両親と感じながら、涼太郎さんは数学が出来るようになった。

涼太郎さん曰く、数字はハッキリしているらしい。


「数学とか、算数とかには必ず答えがあるからね。国語は、主観が入るというか、
その人の思いを見抜けとか、俺が苦手なところだと……」

「うふふ……そう言ってしまうとそうですけれど。
でも、今はお客様にきちんと対応してますよね、涼太郎さん」

「そうかな」


涼太郎さんから子供時代のことを聞けたので、私も自分の父親が料理人であること、

親は数年前に離婚をしたので、今は父が東京に一人で暮らしていることなど、

教えてもらうだけでは悪いと思い、それなりに自分の周りを語った。

涼太郎さんは、時々頷きながら聞いてくれる。


「尾田真梨って名前になったのも、離婚が原因ですし」


『オダマリ!』とからかわれたことで、何度もそれなりに傷ついた。


「そういえば、珠美が言ってたよね」


そう、『尾田』だけではなく、『水田』も……みずたまりだからと……



水田……



当然だけれど、涼太郎さんの名字は『水田』



みずたまり……



やだ、何を考えているのだろう。



「あ……そろそろ出ましょう。すみません、俺、こんな時間まで」


そう言われて携帯を見ると、夜の9時を過ぎていた。

2時間近く、ここで食べて話していたことになる。


「すみません、明日から朝勤務なのに」

「いえ、そんな。これから家に戻って、すぐにお風呂に入れば大丈夫です。
いつもだってまだ寝ていませんから」


朝勤務は8時から。まだまだ全然大丈夫。

長かったなんて、ほんの1ミリも思っていません。


「楽しかったです」

「こちらこそ……」


伝票をつかむタイミングは、一瞬、涼太郎さんの方が早かった。


「今日は、俺が払います」

「いえ、ダメです」

「誘ったのは俺ですから」


いえ、誘われて飛び跳ねるほど嬉しかったのは私ですから。


「でも……」



でも……



「あの、涼太郎さん」

「はい」

「それなら、また次を作ってください。次の食事会。
そのときには、私がお支払いします」



『これで終わらないでほしい』



そんな心の叫びが、言葉となって前に出る。


「……はい」


涼太郎さんの返事が、躊躇無く戻ってくれた。

この人、何を考えているのかと、妙な表情にはならなかった。

よかった……。『次がある』という、不確定な約束が、

私の気持ちをまた上向きにしてくれる。

その日は、お腹も心も満腹になり、『ごちそうさまでした』と素直にお礼を言った。





『次……』



なんていい言葉だろう。

いつだと具体的にはなっていないけれど、どこからでも可能性があると思うのは、

期待が長く続くと言うことで、考えているだけで嬉しくなる。

部屋に戻り、とりあえずテレビをつけてニュースを見る。

日本のここではない場所は、もう梅雨入りらしい。

じめっとして嫌な季節だとは思うけれど、でも、涼太郎さんと一緒なら、

雨の中で傘をさしていても、きっと、楽しく歩けるだろう。



買い物をしようと思って、本当に……



ん?



『3万円』



思い出した。私、買い物をすることよりも、お金をおろすつもりで部屋を出た。

時間を確認すると、あと5分で10時になる。

真優のことだ、用意していなかったなんて言ったら……



こちらの焦りなど無視したまま、鳴ってしまう、インターフォン。

こうなったら理由を聞いて、それから下のATMでお金を下ろそう。


「はい」

「私……」


真優は、ほぼ時間通りに登場した。

玄関を開けると、真優は靴を脱ぎ、中へ入ってくる。


「急なことで悪いけれど、とにかく貸して。3日後くらいには、必ず返すから」

「真優、とりあえず理由を言いなさい。3万円を急にって……」

「3日後には返すって言っているでしょう」


否定されるようなことを言われると、大きな声を出す。

あなたに説明する必要などないという、相変わらずのわがままぶり。


「人にお金を借りるのでしょう。理由も言わないで借りようだなんて。
そんなふうに……」

「ねぇ、何これ」


真優は部屋の中に入ってきて、陽太郎さんが描き、壁にかけてくれたイラストを見た。

私は、陽太郎さんが私を励ますようにくれたものだと説明する。


「励ます?」


その時、真優にはまだ、『ブラインドラベル』を退社したと、

話していなかったことを思い出した。


【11-5】



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