12 『仕事』を頑張ろう 【12-1】

12 『仕事』を頑張ろう


【12-1】


『初めての朝勤務』

事務所に入れば、昨日、楽しく食事をしてもらった涼太郎さんが、

仕事をしていて……


「あ、納品車、来た来た」

「はい」


あっという間に『大家さんと借主』とか『店員と客』に戻るのだけれど。

それでも、役に立てることは、とにかく嬉しくて。

商品を運んできたトラックがお店の前に止まり、それからはレジと品物を出すことで、

慌ただしい時間を送る。


「おい! レジいないのか」

「すぐに行きます」


コンビニに来るお客様は、圧倒的に男性が多い。

値段を考えたらスーパーの方が安くても、

レジに並んで待たされることが嫌いで、コンビニに来る。


「ウロウロしないで、ここに張り付いておけばいいだろう」

「申し訳ありません」


待たせたと言っても、ほんの数秒。

それでも、機嫌が悪いのか、会計中もずっとブツブツぼやいている。


「ありがとうございました」


私はお客様がいないことを確認し、また品物出し作業に戻る。

事務所にいた涼太郎さんも、仕事に参加してくれていた。


「ねぇ、今、尾田さん。お客様に怒られたでしょう」

「怒られたというか……まぁ」


私はレジに張り付いていればいいと言われたことを、藤田さんに話す。


「そんなこと出来るわけがないってことくらい、わからないのかしらね。
こうして品物が来ているのだもの。早く並べなければ並べないで、
勝手に持って行く人もいるし」


気にすることはないわよと、藤田さんは私に言ってくれる。


「はい」


そのとき、顔をあげた涼太郎さんと、目があった。

何も声は出していないけれど、『その通り』と、視線で教えてくれる。


「涼太郎さん、入らない物は奥でいい?」

「はい。取りやすいところにお願いします」

「任せなさいよ、この藤田さんよ」


藤田さんはそういって胸を張り、また楽しそうに笑い出した。





自分の母親くらいの女性と、一緒に仕事をしたのは初めてだったけれど、

藤田さんは本当に楽しい人で、あっという間に時間が過ぎた。

30分の休憩をもらい、事務所の隅で昼食を済ませる。

全て『スコッチーズ』で買えば売り上げに貢献できるのはわかっているけれど、

経済的にそれではつらくなるので、おにぎりだけは持参。

具がたっぷり入ったお味噌汁を買って、お湯をもらう。

店内には、藤田さんと涼太郎さん。

モニターに映る二人を……



いや、涼太郎さんを見ながらの、楽しい昼食タイム。



お客様がレジの前に立つ。品物を読み込む、カードを通す、渡す。

おつりを渡す、袋に入れる。送り出す。

慣れているからと言えばそれまでだけれど、リズムがしっかり出来ている。

私もあんなふうに、一連の流れをきれいに出来るようになるだろうか。



『就職活動……』



そうだった。私はこれから仕事を探すのだった。

また、現実を思い出して、少しのため息。

すると、お店の電話が鳴り出した。二人ともレジ対応をしているので、

ここは私がと思い、受話器をあげる。


「お待たせいたしました。『スコッチーズ』袖原駅前店、尾田でございます」


落ちついて取れた。


『忙しい時間にごめんなさい。涼太郎……あ、水田涼太郎さん、います?』


涼太郎さん……


「はい」


誰だろう。『涼太郎さん』と呼ぶこと自体、業者の人らしくない。

ここはどちら様ですかと、聞いていい場面だよね。


「失礼ですが、お名前をうかがってもよろしいですか」

『はい、庄司ひろみです』


『庄司ひろみ』


当然だけれど、私は知らない。

電話を保留にして、お店の方に顔を出す。


「涼太郎さん」

「何?」

「お電話です。『庄司ひろみ』さんという方で……」

「あら、ひろみちゃん、懐かしい」


藤田さんも知っている人なのだろうか。


「戻ってきたのかしらね、ロンドンから。ねぇ、聞いてみて」


藤田さんの言葉に、涼太郎さんは軽く頷き、事務所の中に入ってくる。

私は休憩中だから、ここにいていいのだろうけれど、電話をしている横にいるのは、

話しづらいかもしれないと思い、昼食を途中にして、レジの前に立つ。


「尾田さん、早くない?」

「電話をしている横にいるのは、なんとなく……」

「あ、そうよね。もしかしたら涼太郎さんも、聞かれたくないかもしれないし」



『聞かれたくない……』



「戻ってくるのかな、ひろみちゃん」

「お店にいた方なのですか」


思わず聞いてしまった。いいよね、だって、気になるし。


「そうなの。『緑山』を出ている涼太郎さんの同級生。翻訳の仕事をするっていって、
最初は稼げなかったから、ここでバイトもしていたのよ。
2年くらいロンドンに行くことになって。で、バイバイ……って」

「バイバイ……」

「ひろみちゃんのチャレンジを理解して、二人、別れちゃったみたいなものかな」



『別れた』



「もしかしたら結婚するかしら、このまま行ったらと、
パートおばちゃんの間では話題になったのよ。ひろみちゃん戻ってくるのかな」


選択を間違えた。

事務所におとなしく座って、耳でも閉じていたらよかった。

藤田さんは明るくて楽しい人だけれど、急にその軽快なおしゃべりがつらくなる。

庄司さんは、涼太郎さんの元彼女。

しかも、喧嘩して別れたわけではなく、夢のために送り出した関係。

電話をわざわざくれるのだから、きっと……



色々な意味で、戻る気持ちがあるのかもしれない。



「尾田さん、ごめん、休憩して」

「はい」

「涼太郎さん、ひろみちゃん来る?」

「藤田さん、お菓子出しましょう」


私はあらためて休憩を取ることにする。

おにぎりもお味噌汁もおいしかったのに、急に食欲が落ちた。


【12-2】



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