13 『価値』を比べよう 【13-1】

13 『価値』を比べよう


【13-1】


『ひよこの絵』

部屋に戻って、あらためてその絵を見る。

傷ついた箇所に、そっと触れた。


真優が言った嘘、そして私が作りだした嘘、

陽太郎さんは、どちらにもだまされなかった。

お酒を飲みに行くと、男性に気に入られるような行動を取れる女性はいて、

同性には呆れられても、意外に異性にはそれが受けてしまう。

計算されていることに、気づけないのだ。

真優はそんな要領を持っているし、どう言葉を出せばいいのか知っている。



『自分に有利なように……』



しかし、陽太郎さんにはそれが通じていなかった。

陽太郎さんに好かれようと思っていたわけではないが、

私が真優に対して、口をきかないなど最低なことをしていないと、

嘘の中に埋もれさせず、わかってくれていたのは、正直、嬉しかった。

真優のように生きられなくても、母のように決断できなくても、

うまくいかない日々に、悪戦苦闘している私でも、不器用でかみあわなくても、

それはそれだとわかってくれる人もいる。

この部屋に引っ越してきてから、何気ない日々の中に、

少しずつ知り合っていく人たちの温かさと、居心地の良さを、

自分自身が感じていて……



2ヶ月。



その心地よい日々が、1日、また1日と過ぎていくことが、

自分自身、本当にさみしく思えてしまう。

それでも、泣いているわけにはいかないから、私はお風呂の蛇口をひねり、

浴槽にお湯がたまるまで、コロコロで絨毯の上を掃除することにした。





「ありがとうございました」


今日も朝から『スコッチーズ』の勤務。

だいたい何時頃にパン、お弁当の納品があるのか、

お客様のピークを迎えるのはいつくらいなのか、だんだんとわかるようになっていく。

ベテランの藤田さんから指示される前に、自分で動くことも出来るようになり、

何度も顔を合わせる男性が、どんな銘柄のタバコを買うのかも覚え、

言われなくても出せるようにもなってきた。

珠美さんが言っていた通り、覚えるのは大変だったけれど、

覚えてしまえば、あとは繰り返すだけで、それほど複雑なこともない。


「どうぞ、こちらに」


札を横に置き、カゴを受け取る。

飲み物にお弁当、いくつかの揚げ物を頼まれたので、

私はトングを持って、袋に入れていく。

温かい物と、冷たい物は別にさせてもらうことを話し、

さて会計と思った時、色々なものが出されていることに気づいた。

『スコッチーズ』と書かれた優待券。



優待券は、確か……



レジの予想できる箇所に触れ、読み取ってみるが、ブザー音が鳴る。


「すみません……」


いや、こっちじゃなくて、こっちだったかな。

違うかもと思った場所にまた触れたが、同じくブザーの音。


「おい、時間ないんだよ、さっさとしてくれよ」


私が戸惑っているということに気づいたお客様。

これからバスに乗るのだと、少しいらつき出す。


「申し訳ありません……」


藤田さんにヘルプを出そうとしたが、向こうは向こうで接客中になっている。

『並んでください』の場所に、1人だったお客様が3人になって……



どうしよう……



「ねぇ、『会計種類』のボタンを押して」

「エ……」


誰だろう、この人。


「庄司ひろみです。前に、ここにいたから、レジはわかるから」



『庄司ひろみ』



あの、電話の人。


「尾田さん、ひろみちゃんの言うことを聞いて」


接客から離れられない藤田さん。


「ボタン、押して」

「はい……」


私はひろみさんの指示する箇所のボタンを押し、

そしてスコッチーズの優待券を利用した会計を無事終了する。

少しだけ不機嫌そうな顔を浮かべたお客様も、爆発するまでにはならないまま、

店を出て行ってくれた。

とりあえず一安心でき、息を大きく吐く。


「優待券は、滅多に来ないからね」


ひろみさんはそういうと、助け船を出してくれたレジの斜め前から、

雑誌のコーナーに向かう。


「ねぇ、ひろみちゃん、ロンドンから戻って痩せてない?」


接客が終了した藤田さんが、カウンターの中から出ると、

親しげにひろみさんと話し出した。

ロンドンではどんなふうに暮らしていたのか、日本に戻ってきたのなら、

もう向こうにはいかないのかと、立て続けに質問を投げかける。


「藤田さん、順番に話すから。もう、頭が混乱しちゃう」

「あはは……ごめん、ごめん。私なんかより涼太郎さんに話さないとね。
待ち合わせしたの?」



待ち合わせ……



「ううん……このくらいの時間なら、ここにいるかなと思って来てみたの。
お店に来るのは、何時頃?」

「中にシフト表があるから、見たらいいのに」

「うーん……それはちょっとね。今はパートではないし」


事務所内に入るのはと、ひろみさんは遠慮する。


「ひろみちゃんなら大丈夫でしょう」


私はそんな会話を聞きながら、レジに並んだお客様の対応をした。


【13-2】



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