14 『失敗』を越えよう 【14-2】


【14-2】


『なかなか難しいですよね、見つけるの』



こんな言い方をしたら、このお店を手伝ったせいで、時期が外れてしまったと、

言っているようになるだろうか。



『このままスコッチーズで働きたいなと……』



いや、これはあまりにも図々しい。

失敗だらけで、もしかしたら尾田さんが仕事を決めてくれたら、

ひろみさんをと……



『見つけられた?』



そうか、そうなのかも。

もしかしたら、『就職、決めた方がいい』と、思われているのかな。

涼太郎さんは優しいから、『もういいですよ』とは言えなくて。





仕事を終えて、部屋に戻り冷蔵庫を開けると、見事なくらいに何もない。

時間は6時過ぎ。石田さんに聞いた『安売りタイム』には少し早いけれど、

ブラブラしながら選ぶのも、気分転換できるかもしれない。

私は財布を持ち、『スコッチーズ』の前を通り過ぎると、スーパーに入った。

仕事を終えて、慌ただしく買い物をして飛び出ていく仕事を持った主婦に、

ゆっくりと店内を歩き、お酒のパックを一つだけつかみ、レジに並ぶ年配客。

小銭を握りしめ、アイスコーナーに走り、会計を済ませるとすぐに食べ始める、

塾帰りの子供。

そして、夕飯の献立も決めずに、ただ店内を歩く私。

レジの応援頼む『ブザー』が鳴り、一人の女性がすぐにレジを開ける。

並んでいたお客様が、その列にも動いたため、すぐにさばけだした。



『コンビニってすぐに買えないと意味がないのよ』



思い出す、ひろみさんの声。

あまりにも正論だったため、どうすることも出来なくて。



『就職』



結局、値引きシールを待つことは出来ずに、買い物を済ませて外に出る。

横断歩道の前で立っていたら、隣に並んだ人が派手なくしゃみをしたので、

何気なく顔を見た。


「あ……」

「あ……こんばんは」


石田さんだった。手にはいつものスーパーではないビニール袋。


「すみません、くしゃみ……」

「いえ」


石田さんはマスクをしてくれているので、それはいいのだけれど、

また大きく二回連続のくしゃみをする。


「仕事がトリマーのくせに、レトリーバーのトリミングをすると、
なぜだかこうなるんですよ、昔から」


犬にも色々と種類があるのだが、なぜかレトリーバーのトリミング後だけ、

毎回こんなくしゃみが続くのだと教えてもらう。


「あ、尾田さん、スーパーの帰りですか」

「はい」


私は、今日は少し早すぎで値引きは無理でしたと笑って見せる。


「そうですね、時間が早いですよ」


石田さんはそういうと、またくしゃみをする。


「大変ですね、お仕事とはいえ」

「いえいえ、しばらくすれば治りますし、これくらいのことどうってことないですよ。
あいつらの気持ちはストレートにわかりますからね。シャンプーしてやると、
本当に嬉しそうだし。僕も、それに応えてやろうと思えるんですよ」


石田さんは、犬は嬉しいとか嫌だとか、感情を素直に出してくれるので、

何でもしてやりたくなると、楽しそうに話してくれる。


「時々、うちの犬はこういうお洋服が好きなんですって、
自己満足な飼い主がいるんですけどね。あぁ、この人、犬の気持ちがわかってないなと、
思えてくるんです」


かわいいからといって、体には不釣り合いなくらい

大きなリボンなどを頭につけてくる犬がいると、

石田さんは、それを取って、つけていた部分をあえて念入りに洗ってやるのだと言う。


「気持ちいいわけないでしょう。犬、本来の姿を考えたら、わかるはずなのに」


横断歩道が青に変わり、一気に人が歩き出す。


「でも、それをわかっていても、仕事ですからね、リボンをつけて返すわけですよ。
飼い主の感情を忖度して」


『好き』や『嫌い』など、ハッキリ出来ない人の気持ちは、

押したり引いたりが難しいと、石田さんはくしゃみを挟みながら言ってくる。


「人も、いいか悪いか、ハッキリ口に出せれば楽なのでしょうけど……」


石田さんの言葉を聞きながら、素直に頷いてしまった。

確かに、顔が笑っているからと言って、その人が幸せでいるのかどうかはわからない。

人は、心を隠すことが出来るし。

人は……遠慮して、我慢することも、出来るから。


「はい、尾田さん。これ、お裾分けです」

「エ?」


階段を登り終えた時、石田さんがそういうと1枚の板チョコを出してくれた。

『ミルクチョコレート』。

値引きのシールはついていない。


「いえ、あの」

「散々隣でくしゃみをしてしまったので、こんなものですみませんが」


石田さんはそういうと、202号室の扉を鍵で開け始める。


「石田さん、そんな、いいですよ」

「嫌いですか? チョコ」

「いえ、好きですけれど」

「だったらどうぞ」


話の流の中で、私は『すみません』とチョコを受け取り、

そのまま204の部屋へ戻った。


【14-3】



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