14 『失敗』を越えよう 【14-4】


【14-4】


社長さんはメモのようなものを出し、涼太郎さんと一緒に売り場を歩く。

お弁当売り場の前に立ち、何やら話していた。

山瀬さんが、お菓子の在庫を取りに来る。


「山瀬さん」

「ん?」

「社長さん、怒っています?」


自分では悪いことをしたと思っていないけれど……


「いや、なんだか弁当を注文してくれるみたいだよ」

「お弁当?」

「うん」


パタンと音がして、涼太郎さんが事務所に戻ってきた。


「尾田さん、ちょっと」

「エ……」

「社長さんがお礼を言いたいって」


涼太郎さんに手招きされ、私はそのまま事務所を出た。

松本社長が、嬉しそうに近づいてくる。


「いやぁ、そうそう、君だ、君。この間はありがとう」

「いえ……」

「すぐにお礼を言いに来たかったけれど、あの日の次の日から、九州に行ってね。
戻ってきたんだ」


社長さんは、あの日、おかげさまで交渉もうまくいったと、嬉しそうに話してくれる。


「届けてもらった小さな袋には、鍵が入っていたんだ。展示用の倉庫を開けるための。
いやぁ……あれを持って行かなかったら、出直しだろう。時間は間に合わなくなるし、
おそらく交渉はバツだった。家内に話をしたらさ、それはお店に迷惑をかけただろうって。
そうだよな、駅まで全速力で来てくれて。すぐにとんぼ帰りして」


私が息を切らしていたと、社長さんは涼太郎さんに説明を加えていく。


「で、まぁ、せめてものお礼にと思って、今、涼太郎君に、弁当を25、頼んだんだ。
色々あるけれど、5種類を5つずつ」


今度、新しい工事の職人さんや、不動産関連の人たちと打ち合わせがあるため、

そこでお弁当が必要なのだと教えてもらう。


「現場にも持って行けるし、ちょうどいいからさ」


悪いけれど、店まで届けてくれと、社長さんは涼太郎さんの肩を叩く。


「はい、もちろん」


さらに人数分のお茶まで予約してもらい、社長はお店を出て行った。

バイトの角倉さんは、25ってすごいですねと、声に出す。


「うん……」


涼太郎さんが事務所に戻ったので、私もその後に続く。


「尾田さん」

「はい」

「確かに、お店を抜け出したことは、仕事の基本から外れていると思います。
お客様を待たせたことも、あるでしょうし」

「はい」


あの日の光景が、鮮明によみがえってくる。


「でも……今の松本社長の笑顔も、僕は仕事の結果だと思いますよ」


涼太郎さんは、以前も見せてくれた家族4人の写真を出してくれる。


「この店を開くとき、いや、文房具店の頃から、父はずっと同じことを言っていました。
『お店を近所の人に愛してもらうこと』。失敗を恐れずに、自分で、
どうしたらみなさんの気持ちに応えられるのかを考えていたら、
それが新しいものを生み出すって……」


失敗を恐れずに……

そういえば、私にも涼太郎さんのお父さんは、そう言ってくれた。

『失敗することを恐れずに、楽しく仕事をして欲しい』と。


「前向きな気持ちで取り組んだことの結果なら、
たとえ失敗でも、それはフォロー出来ますよ。お客様に対して、消極的なまま、
逃げようとすると、さらに悪循環を生み出すと思うので」


涼太郎さんは、ひろみさんが言ったことも正論。

私が駅に走ったのも、間違っていないと言ってくれる。


「正解がこれだというのがないから、みんな考えるのでしょう。
それで僕はいいと思います。尾田さんがこの仕事に向いていないなんて、
そんなことはないですから……」


私のしたこと……


「マニュアルにない、小さなサービスこそが、この店に必要なことです」


涼太郎さんの言葉、

私は『ありがとうございます』と頭を下げる。

失敗もたくさんあるけれど、それも必要なことだと言われて、

沈み込んだ思いが、またふわりと浮き上がってくる。



もう少し……ここで働いていたい。



「人件費は確かにかかります。でも、それは必要なことだと判断し、提案しました。
尾田さんには、就職を探す活動もあるでしょうし、
鶴田さんも復帰出来ると自分で考えても、すぐに体が反応するとは限らないでしょう。
少しだけ余裕を持たせたことで、互いに無理をしなくて済みます。
結果的に、もっと細かい仕事がしてもらえるし、僕も助かりますから」


涼太郎さんに、あらためて『もう少し』と提案してもらう。


「……ありがとうございます」


涼太郎さんの言葉を聞いた私は、

これからも最後まで精一杯頑張ろうと思い、頭を下げた。





『マニュアルにはない、小さなサービス』



失敗の中にも、得るものがある。

それまでもやもやとしていた心の中が、少しだけ晴れた気がした。

私は今まで、『失敗』がとにかく怖かったのだ。

優秀ではないことを知っているから、せめて人並みにと思ってしまい、

それが妙な出来事や時間を生み出してしまう。

『失敗してもいい』という温かい言葉が、チクチクと痛み出した場所に、

パテのような補強工事をしてくれる。



頑張れる、いや頑張ろう……

そう思える日だった。





そして腰を痛めた鶴田さんが復活し、涼太郎さんが話していたとおり、

朝は3人の勤務態勢になった。人が増えた分、やることが素早く出来るようになり、

今までは出来なかった仕事も、プラスされていく。


「あら、かわいらしい」

「こんな感じでいいでしょうか」

「いいわよ、いいわよ、ねぇ」

「そうそう、おばさんたちにはない発想」


私は仕事をしている中で、思ったことを少しずつ涼太郎さんに提案した。

そう、昔、涼太郎さんが幼い頃、文房具店の中を、自分の視線で改革しようとしたように、

そして、『キャットボン』をネットで売るとき、

陽太郎さんが写真うつりを気にしたように、

私も、気づいた場所に、ちょっとだけアイデアを加えてみる。

今は100円ショップで色々なものが買える。

冷たいゼリーの場所に、ガラスのかけらのようなプラスチックを並べ、

その横にはビーチにありそうな貝殻をオブジェとして加えてみた。


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