15 『就職』を探そう 【15-3】


【15-3】


「あ……涼太郎」

「あ……うん。ん?」


涼太郎さんはひろみさんを見た後、私を見る。


「藤田さんは……」

「あ、来た、来た」


藤田さんは嬉しそうに両手をパタパタさせ、こちらに向かってくる。


「早い、早い」

「早いじゃないですよ。藤田さんが緊急だって言うから」

「そうですよ、ひろみちゃんがねぇ……なんだか辛そうなんだもの」


藤田さんは涼太郎さんに、電話で現状をどうも相当オーバーに話したようだった。


「藤田さん、なんて言ってくれたの?」

「エ……ひろみちゃんがお店に入ってきて、ずっと泣いているって」


ひろみさんは涼太郎さんの顔を見た後、

『それは……』と少しだけバツの悪そうな顔をする。

藤田さんは、そんな様子を気にしていないのか、

ウソも方便と言いながら、二人の肩をポンポンと叩いた。


「やだな、もう……」


それでもひろみさんは、そんなおせっかいがなんだか嬉しそうで。


「とにかく入れよ」

「うん」


私は『ポテト』をあげながら、油が飛んで汚れた台を拭く。

あと5分で、いつもの休憩時間になるけれど、今日は少しずらして取ろうと決め、

次の仕事に取りかかった。





本来なら昼休憩を取る時間。

でも、涼太郎さんとひろみさんが中にいるのもわかっているし、

聞くつもりがなくたって、自然と言葉が入ってくるだろうし。


「尾田さん、いいわよ、休憩取って」

「あ……はい」


鶴田さんは、午後勤務もあるのだから、遠慮無く取りなさいよと、そう言ってくれる。

気持ちがありがたいのだけれど、今は……

すると、事務所の扉が開き、涼太郎さんとひろみさんが揃って出てきた。


「藤田さん、電話、ありがとう」

「あら、帰るの? ひろみちゃん」

「ちょっと、外で」


ひろみさんは、涼太郎さんと外で話をしてくるとそう言った。

藤田さんは、また顔を出してねと笑っている。


「尾田さん」

「はい」

「昼勤務までには戻ります」

「あ……はい」


今日の昼勤務は、私と涼太郎さん。

よかった……覚えていてくれたのなら大丈夫。

二人が揃って店を出て歩いて行く。

どこに行くのかわからないけれど、ひろみさんはお店に入ってきたときよりも、

表情が明るかった。


「すみません、休憩取ります」


二人から『はい』の声が聞こえてきたので、私は中に入る。

今日はとりそぼろのお弁当を作ってきたので、それをレンジで温めた。



『尾田さん……』



いつも涼太郎さんが座っている椅子。

きっと、今も座っていただろう。

私はお弁当を机の上にのせて、静かに座る。

私がここにいる理由。最初は珠美さんのSOSからだった。

鶴田さんの手術、お母さんの離脱。

そのために頼みますと涼太郎さんから言われた約束は、2ヶ月。

でも、鶴田さんは思っていたよりも早く復活してくれた。

それに、やりたいことは見つかったのかと聞いてきた涼太郎さん。

そろそろ、こんなふうにしようと思いますと、告げなければならないのに。


近頃、ふと気づくと、『スコッチーズ』のことばかり考えている。

季節感を出す小道具の設置が、思ったよりもうまくいったからなのか、

お客様の様子も少しずつわかり、失敗が減ったからだろうか、

珠美さんが以前言っていた、『満足』というキーワード。

その言葉が、近頃……



みんなここにつながってしまう。



目の前にある電話が鳴り出した。

店内にいる二人は接客中のため、私が受話器をあげる。


「はい、スコッチーズ柚原駅前店、尾田でございます」


電話の相手は、『スコッチーズ本社』の方だった。

何やら、発注の連絡が届いていないものがあるということで、

そのままアドバイス通り、ボタンを押して欲しいと頼まれる。


「はい……」


私は、言われたとおり、パソコン画面を見ながら、ボタンを押していく。

最後に、『黄色いライン』の入った紙がそこにないかと言われ、

申し訳ないが、事務机の書類を少しずらしてみる。



『庄司ひろみ』



ひろみさん……

小さなジッパー付きのビニールに入っていたのは、

ひろみさんの名前と、住所の書かれた紙と……







『もしもし、聞こえてますか』

「あ……はい、すみません」


いけない。電話中だった。

私は、あらためて本部の方の指示を受け、パソコン画面を見る。


「はい、今、確かに送信されました」

『……あ、来た来た、OK。すみません、ありがとうございます』

「はい」


電話をしていたのは、ほんの数分だった。

やったこともそんなにたいしたことではない。

でも、頭の中はものすごく疲労感がある。

100%の確率ではない、でも100なのか0なのかとは聞けない。

ここにある鍵は、ひろみさんのものなのか、持つのは誰なのか。



もやもやしても、聞くことなど私には出来ない。



聞いて『その通り』だとしたら、生意気にもショックを受けそうだし。



その後も黙々と食事を済ませ、また3人で仕事をし始める。

今日は少し先にある接骨院に通うおばあさんが、

『スコッチカード』の入会を決めてくれたのと、パチンコが当たったのか、

500円玉を、募金の入れ物に入れた男性がいたこと、

それが大きな出来事だった。


【15-4】



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