15 『就職』を探そう 【15-4】


【15-4】


12時50分。

藤田さんと鶴田さんの勤務が、そろそろ終わる。

私は夕方までなので、残るのだけれど……


「おそいね、涼太郎さん」

「そうね……」


藤田さんは、いざとなったら私が少し残るわよと、そう言ってくれる。

朝や夕方に比べて、お昼勤務はお客様の数が少ないとはいえ、

一人ではまだまだ自信も無いし、『配送便』や『税金関連』などがあると、

対応仕切れない可能性もある。


「久しぶりだものね、二人で話が盛り上がっているのかも」

「ねぇ……」


私はレジのお金を数え始め、二人がいつでも帰れるように準備をする。

すると、1時になる数分前、涼太郎さんがお店に飛び込んできた。


「あ……ごめん、間に合った」


出て行った姿のまま、店の中に戻ってくる。


「申し訳ない、鶴田さんも藤田さんも時間であがって」

「今、話していたのよ、盛り上がっているのかなって」

「違いますよ」


涼太郎さんは、そんな時間ではありませんからと言いながら、事務所の中に入る。

それにしても、あの格好だと……


「お疲れ様」


自動扉が開き、涼太郎さんのズボンを持ったお母さんが入ってきた。





午後1時15分。

慌ただしかった時間も過ぎ、藤田さんと鶴田さんが店を出た。

涼太郎さんは、発注の機械を持ち、ペンであれこれ入力する。

私は、午前中に売れてしまった揚げ物関係を、補充。


「涼太郎さん、お店、混雑したら呼びますから、お昼、食べてください」


あの時間に飛び込んできたのだから、きっと……


「あ……大丈夫、コレックで済ませてきたから」


涼太郎さんはそういうと、また機械を見る。

『コレック』って、あの……

そうか、私、何言っているんだろう。ひろみさんが来ていたのだから、

二人で食べてくるのが当たり前。


「すみません、そうですよね、私……」


私、本当に気付きがないというか……

無神経というか……


「なんだかさ、先輩と借りた事務所、全然条件が違っていて、
色々と不具合があったようなんだ」


涼太郎さんは、ひろみさんが事務所開きをするつもりで契約した場所に、

色々と問題があり、それを不動産屋が隠していたと、

相談しにきたことを話し始める。


「お湯が出ると言っていたのに出ないとか、鍵は全て交換しますと言っていたのに、
実際には前の契約者が3ヶ月しかいないから、そのままではダメかとか、
ギリギリになって言いはじめたらしくて」


会社として初めて借りるものだったため、相手になめられたのではないかと、

涼太郎さんは思い、同級生である『並木不動産』へひろみさんを連れて行ったという。


「並木不動産って、あの、私がお世話になった……」

「そうそう、あいつ、同級生だからさ、俺の中学時代」


そういえば、親しそうだった。

あの日、メモのようなものを見つけ、ここを教えてもらったから今がある。

私はお客様に気付きレジをこなす。


「あら、それ美味しそうね」

「はい、『スコッチコロッケ』です。ゆで卵を崩してコロッケの中に入れています。
ソースでもタルタルでも美味しいですよ」

「へぇ……それなら2ついただいてみるわ」

「ありがとうございます」


私はお客様に2つが一緒に入るケースを見せて、そこに『スコッチコロッケ』を入れる。


「そこのね、麦わら帽子がかわいくて、ふらっと立ち寄ってしまったわ」

「あ……そうだったのですか、ありがとうございます。
もし、お帰りの時間とかわかるようでしたら、先にご注文いただくと、
揚げたてもご用意できますから」

「あら、そう?」


年配の女性は、ご夫婦だけで、家では揚げ物などしないとそう話す。


「そうですよね、私も一人暮らしなので、家ではしません。
こちらで買って帰った方が、合理的ですし」

「そうよね……コンビニはいつでも開いているものね」

「はい」


お客様はビニール袋を持つと、笑顔で店を出て行ってくれる。

私は揚げ物を出した場所に落ちた、油かすを丁寧に拭き取った。


「やっぱり、こういった時間帯は女性の方がいいよね」

「エ……」

「お袋もよく、お客様と話していた。うちの商品に、ちょっとだけ野菜を加えて、
どんぶりに出来ますよとか……」

「どんぶり? あ、もしかして」

「そう……」


私は確かにその通りだと思いながら、一番上の段に売られている鳥の揚げ物。

『スコチキ』を見る。


「あ、そうですね、私もやってみます」


言われてみたら、食べ方なんてもっと色々工夫できる。

昨日買ってきたもやしもあるし、それに……


「尾田さん」

「はい」

「就職、決まりそう?」



『就職』



私の浮かれた気分が、そこで沈む。


「いえ……まだ……」

「そっか……」


どう言えばいいだろう。『時間がなかなかなくて』と言えば、

こうしてお店のシフトに入っていることで、

出来ないのだと言っているように聞こえるかもしれないし、

『提示してもらう職場に納得が出来ない』なんて、贅沢だろうか。


「なんだか楽しくなってしまって。小さなことで、お客様がどう反応するのかとか、
何か商品の並べ方に工夫が出来ないかとか、家に戻って食事をしていても、すぐ、
コンビニのことを考えていて」


ウソではなく、本当のこと。

医者とか弁護士とか、真優が目指したいようなマスコミとか、

そんな大きな世界ではないけれど、今日も必ず誰かに必要とされていて、

なかったら困ったなと悩む人がいて。

そんな人が『この場所にあってよかった』と思ってもらえるような……


「尾田さん」

「はい」

「よかったら、うちで社員になりませんか」

「エ……」



『社員』



「あの……」


それは、『スコッチーズ』のということだろうか。


「仕事が終わったら、事務所で話をします。もちろん、強制ではないですし、
条件だけお話するだけですから」


涼太郎さんはそういうと、一度奥に入りますと事務所の中に行ってしまう。

私は店内に立ちながら、この後、どんなふうに話を聞けるのだろうと気になり出す。

その日、近所の幼稚園は保護者会でもあったのか、

子連れのお客様が多く入り、小さなお菓子がたくさん売れた。


【15-5】



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