16 『意見』は聞こう 【16-2】


【16-2】


「あれ、今日は鶴田さんいないの?」

「鶴田さんはお休みです」

「そうか……となると藤田さんだけになるな」


陽太郎さんは藤田さんを見つけると、混んで来たら呼んでくださいと話している。


「真梨ちゃん、ちょっと」

「はい」


私は陽太郎さんに言われるまま、事務所の中に入った。


「はぁ……」


大きなため息。なんだろう、何か問題があったのか。


「あのさ、今朝、涼太郎から聞いて驚いた。いや、何を考えているのかと、
朝から喧嘩だよ」


陽太郎さんは、今朝、涼太郎さんから私の社員昇格について話を聞いたと言い始めた。

私は続きがわからないまま、とりあえず『はい』と答える。


「まだ尾田さんから返事は聞いていないけれど、受けてくれるのではって、
あいつ……いや、それを受けるのだとしたら、君もおかしいぞ」

「陽太郎さん」

「あのさ、ここはコンビニだ。家族くらいの人数で、やりくりしている小さな店だ。
どうしてそこに尾田さんが入るんだよ。君は、きちんと就職活動をして、
自分が納得する仕事を探すべきだろう。お金に困るかもしれないから、
手っ取り早く何でもいいやって……」

「何でもいいやだなんて、私」

「そうだろう。じゃ、何? 君も涼太郎のように、
この店に自分の『夢』があるとでも言うのか」



『夢』



「あぁ、そうか。それとも何? あいつにプロポーズでもされた?
尾田さん、明日から夫婦になって、家を盛り上げましょうとか」

「そんなこと、言われていません」


言われていない。

私は……


マシンガンのように飛んでくる陽太郎さんの言葉。

喧嘩だの手っ取り早くだの、何か聞きたくても言葉が挟めない。


「だったらさ、それなら迷惑ですときちんと言わないと。
あいつは真優ちゃんとは違った意味で、まっすぐしかものを見ない。
人の迷惑とか、人の思いとか、わからないことばかりだ」


陽太郎さんは両手を腰に当てる。

涼太郎さんの行動が、言葉に、問題があると……


「俺の仕事が順調になってきたから、店に立たせるのも悪いしだと。
いやいや、やるから、立ちますから。
だから、君は……尾田さんは、この店を出て行かないとダメだ。
俺は……認めないからね」


陽太郎さんは私の顔を見て、もう一度念を押すように『認めない』と繰り返す。

すると、事務所の扉が開き、今度は涼太郎さんが入ってきた。


「陽太郎、お前、人が電話をしている時に……」

「お前を待ってから出るなんて、俺は一言も言っていない」

「あのなぁ……」


涼太郎さんが、一歩前に出る。

なんだかこのまま殴りかかるような気がして……


「ちょっと、待ってください。少し落ち着きましょう。
お店の中ですし、きっと、声も外に聞こえます」


私は、一触即発状態の二人の間に入り、とにかく落ち着いてくださいと言い、

陽太郎さんと涼太郎さんの顔を交互に見る。

そのタイミングで、藤田さんからの応援要請ブザーが入り、すぐに店に出た。


「何、どうしたの二人……」


藤田さんの言葉に、私は『苦笑い』という表情で返事をする。

私の『就職』が問題なのだと言うことはわかるが、笑うしかなくて。



それから5分程度、お客様が途切れず、気づくと事務所の中は静かになっていた。

私は、あらためて事務所の扉をゆっくりと開く。

いつも、涼太郎さんが座っている事務の椅子に、今は陽太郎さんが座っていて、

日用品が入っていた空ケースが数箱畳んである場所に、涼太郎さんが座っている。

声はしていないが、雰囲気は明らかによくない。


「あの……私の就職について、お二人のご意見はわかりました。
私がここに縁を持ったことで、ご迷惑をおかけしているのなら謝ります。
昔からこう、タイミングとか……」

「迷惑だなんて、そんなことはないから。社員になってほしいと頼んだのは俺だし」


涼太郎さんの目。


「だから、お前のそういうところがさ……」


陽太郎さんの声。

収まって見えたものが、またくすぶり出す。


「あの!」


私の声に、二人の言葉が止まる。


「とにかくここで言い争うのは辞めてください。少し時間をください。
お願いします。仕事、しますから」


私はそういうと店に戻り、藤田さんと一緒に品出しや接客を続けることにした。





休憩時間、今日は2人なので、呼び出されたらすぐにレジへ出ないといけないけれど、

それでもおにぎりを食べながら、少し考える時間はあった。

陽太郎さんも涼太郎さんも、とりあえずお店から出て行ったけれど、

話を整理整頓すると、陽太郎さんは私がここに残ることを反対しているということ。

せっかく東京に出てきて、一人暮らしをし、今度こそ、自分にあった会社を探そうと、

就職活動をすると決めていたのに、ピンチヒッターとして店に入ったために、

結局、流されているように思えたのだろう。

それはきっと、部分的に見ているからで。

私がこの店で仕事をしながら、小さな喜びとか、新しい出来事とかに、

心を動かされていることをきちんと説明できたら、きっと……



きっと、理解してもらえる気がする。



私は椅子を反対側に向け、シフト表を見る。

山瀬さんや珠美さんたちに比べて、涼太郎さんの回数が多いのは当たり前。

この日は、人数が少ないから無理かもしれないけれど、

この日なら……



私は携帯電話を取り出し、父のアドレスを呼び出した。


【16-3】



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