16 『意見』は聞こう 【16-3】


【16-3】


「来週の木曜日?」

「はい。すみません、勝手に決めていますが、
きちんと話をさせていただきたいなとそう思いまして」


次の日、私は仕事で一緒になった涼太郎さんに、この日だけ時間を空けてくれないかと、

そうお願いした。一緒に入るのは山瀬さんと珠美さん。

この二人なら、なんとかしてくれるのではと思えたから。


「私にとっては、涼太郎さんから提案された正社員のお話は、ありがたいことです。
それでも、陽太郎さんに納得していただけないのは、やはり気になりますし。
だからといって、この間のようにここで言い合うのは、お店も困りますから」


私は以前、二人に食事をおごってもらったお返しもあるしと、

父の店へ3人で向かうことを提案する。


「陽太郎と3人で? あいつには言ったの?」

「まだこれからです。打ち合わせなどが入っていたら、無理でしょうけれど、
このお店、私の父が板前をしている店なので、ぜひと前から思っていて」

「お父さんが」

「はい。父は仕事のあった東京に出ているものですから」


涼太郎さんは少し考えるような顔をしたが、『わかった』と頷いてくれる。

私は今日の夕方、仕事に来てくれたとき、陽太郎さんに話をしますと言い、

納品されたタバコを、ケースに入れ始めた。





「嫌だね、あいつと食事だなんて」

「涼太郎さんとではないです。私と3人です」

「同じだろう」


夕方、仕事に来た陽太郎さんを捕まえて、3人で食事をしましょうと提案したが、

すぐに跳ね返される。


「陽ちゃん、真梨ちゃんの気持ちも理解してあげなよ。大人げないな」

「大人げなんて無くて結構」


一緒に夕方勤務をする珠美さんのフォローも、陽太郎さんには響かないらしい。


「あぁ、もう、ほらほら、放っておきなよ真梨ちゃん。こんなやつ」


珠美さんは、私が納得しているのなら、正社員になればいいと、

陽太郎さんに向かって舌を出す。


「お願いします、陽太郎さん。話を聞いてください」


話を聞いて欲しい。流されるように結果が出てしまい、

流されるように生きるのは、もうたくさん。


「話を……真梨ちゃんがするわけ?」

「そうです。お一人ずつに自分の気持ちを話して、
理解していただく方が楽かもしれませんが、誤解を生んだりして欲しくないなと、
そう思って」


涼太郎さんと陽太郎さん。

私には、二人とも素敵なところがあるのだから。

互いに認めてもらえたら、もっと……


「真梨ちゃんの気持ちねぇ……」

「はい」

「そうか、それならそこで意見をぶつけ合おうと」

「ん? いや、あの……まぁ」


別に、喧嘩の場所を与えようとしているわけではないが。


「私の父が板前をしているので、料理を食べていただきたいなというのもありますし」

「うん」

「何? 真梨ちゃんのお父さんは、板前さんなの?」

「はい。あ、今度珠美さんも……『華帆』というお店です」

「エ! あの?」

「あの……かどうかわかりませんが、そうです」


珠美さんは、父のいるお店を知っていたようで、それはすごいねと驚いてくれる。


「すごいね、あの店の板前さんだなんて」

「すごいですかね」


私はそのレベルがよくわからず、結構気楽に顔を出している気がするけれど。


「『華帆』か……」


陽太郎さんはテーブルの上にあった本部からの通達書類を1枚手に取り、

紙飛行機を作り出す。


「よし、わかった。涼太郎と外で会うなんて、本当は嫌で嫌で仕方が無いけれど、
今回は真梨ちゃんの顔を立てて、参加しましょう」

「本当ですか」

「あぁ……『TARO』の従業員として、言いたいことは言わせてもらう」


そう言って笑った陽太郎さんの顔が、何やら企んでいるように思えてきて、

思わず、『お手柔らかに』とつぶやいてしまう。


「来週の木曜日ね」

「はい」


とりあえず3人で話をしながら、食事をするというそういう段取りは成功した……



……と思う。





『木曜日』を待ちつつ、今日も朝からお店に入り、仕事をした。

向かいのビルの全てを覆っていたものが取れ、いよいよ姿を現した。

やはり1階には『ハウスフレンド』が入るのだろう。

イメージカラーのグリーン2色で、入り口の扉から奥へと、流れがわかる。

3階建てのビルなのだから、いくつかテナントが入るのだろうけれど。


「いらっしゃいませ……」

「こんにちは、尾田さん」

「あ……」


入ってきたのは君野さんだった。

何やら手に持っているのは、菓子折に見えるけれど。


「どうも、今日はご挨拶に来ました。これを社長から預かっていて、
きちんと渡してくるようにと、言われておりますので」

「社長?」


藤田さんは、どんな人だっけ? と私を見る。


「伊集院さんです。ここに何度かいらした」

「あぁ……あの人? エ……あの人、社長なんだ」

「そうです。『SHY』の社長です」


君野さんは、お店の中をキョロキョロと見る。


「水田涼太郎さんは」

「涼太郎さんは午後からなの。午前中は女性陣で回しているから」

「そうなんだ」


君野さんは、それならいいかなと言いながら、私の前に菓子折を置く。


「尾田さんから渡してもらってもいい? 内装工事もあれこれ進んでいて、
順調ですと伝えて欲しいの」

「うん、わかった」


菓子折についたのし紙。

挨拶なのだろうけれど……


「ねぇ、君野さん。このくしゃくしゃっとしたサインみたいなものは何?」

「どれ? あぁ、これは社長のサイン」

「サイン?」


エ……本当にサインなんだ。


「そう。戦国武将には『花押』というものがあるのでしょう。
社長、織田信長に憧れているのよ、それで、こういったものを……」


君野さんは、こういったものを書くときには、必ず筆を使うのだと、

いらない伊集院さん情報を入れてくれた。


【16-4】



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