17 『荷物』を運ぼう 【17-1】

17 『荷物』を運ぼう


【17-1】


結局、私は涼太郎さんの横に座る。

まずはしばらく、食事をするのかと思ったが……

無言の時間は5分程度しかなく。


「真梨ちゃん」

「はい」

「聞かせてもらいましょう、君の考え」


陽太郎さんは、そのためにここへ来たのだからと、涼太郎さんを見た。

私は持った箸を置く。


「そうですね」


そう、ここへはあの日のバトルを収めるために来た。

大きく一度、深呼吸をしてあらためて前を向く。

今までの就職活動面接より、数倍緊張する気がして……


「私……本当に今まで、かみ合わない生活をしてきました。不真面目ではないし、
それなりに真面目に取り組んでいましたが、勉強も得意とはとても言えませんし、
だからといって、運動もヒーローになれるような実力は何もなく。
さらに、容姿で目立つような、そんなものもありません。
一生懸命にやろうとして、ずれてしまうような、そんな時間ばかり送ってきた気がして」


時間を守るために家を早く出たのに、電車が止まるとか、

やっと自分の番だと思っていたら、その前でレジが壊れてしまうとか。

どうしようもないことに巻き込まれ、結局、かみ合わない時間を過ごしてきた。


「大学に入るのも、まぁ、入れるところがあるのなら、行くべきだと思っていたし、
就職するのなら、『東京』で探す方が、当然選ぶ企業も多いだろうと、
頭の中で、『外れないように』を常に考え、どこかビクビクしながら、
生きてきた気がします」


強い思いとか、やり遂げたいこととか、そんなことは一度も考えたことがなく、

いつも周りを気にして生きてきた。


「母には、幼い頃から褒められたという記憶がありません。
まぁ、こんなものだよねとか、どこか冷めて見られていて。
それはそれで楽と言えば楽なのですが……」

「その延長戦で、まぁ、コンビニでいいかと……」

「いえ、そんな」


陽太郎さんに、人は疲れるとそうなるんだと言われてしまう。


「つまり、真梨ちゃんは色々とうまく行かないことが多くて、疲れてしまった。
そこに涼太郎がコンビニの話をして、『あ、そうか、ここなら楽』と思い、
もう、面倒なこととか嫌だと気持ちが逃げてしまったんだ」


陽太郎さんはそういうと、涼太郎さんを指さしていく。


「涼太郎、お前にはわかるだろう。お前だってそうなんだから」

「陽太郎……」

「『緑山』のプリンスと呼ばれて、教授たちが泣いて喜ぶような成果を上げた男が、
何を血迷ったのか就職活動の試験では、とにかく落ちまくった。
いや、落ちたわけじゃない、お前はわざとそうしたんだ。
色々と期待されて、それを背負うことが面倒で、親父が倒れたことを利用して、
それで……」

「利用したって、お前……」

「違うとは言わせない。誰がお前にあの店をやれって、そう指示したんだ。
親父だって、そう思っていたわけじゃない。実際俺は見舞いに行ったときに言われた。
『涼太郎には自由にしろと言ってくれ』って。それなのに……。
『あぁ、やっぱり涼太郎君は親孝行なのね』って、周りに言われて。
そうそう、お前は小さい頃から偽善者なんだよ」

「陽太郎さん、ちょっと待ってください」


以前、真優から聞いたきつい台詞。

それが本当に陽太郎さんからのものだったと、思い知らされる。


「そんな言い方……」

「いいんだよ、尾田さん。言いたいことがあるのなら、言えばいい。
俺は、それで考えを変えたりはしないから」


涼太郎さんはそういうと、陽太郎さんを見る。


「世の中に飛び込んで、生きていくって、結構大変なことなんだよ。
それを、楽に出来る場所でぬくぬくしているくせに、たいそうなことをしているような、
全てを我慢して暮らしているような、そういう態度はやめてくれってことだ」

「何度も言っただろう。俺は我慢しているわけじゃない」


涼太郎さん……


「お前が自分のやりたいものを見つけて、戦っている姿は本当にすごいと思う。
だからといって、俺は親の犠牲になって、店をやっているわけではない。
『マスコン』だってそうだ、別にあの場所で優勝して、
いいところに就職するポイントを取ろうなんて、思っていなかった。
ただ、好きなことで何か出来るのならと思って、挑戦しただけだ」


陽太郎さんが何かを言おうとした時、ふすまが開き、料理がさらに届く。

ヒートアップした空気が、かき混ぜられて、少し落ち着きを取り戻した。

一度温度が落ちてしまうと、その次の火をおこすには多少、

何かきっかけが必要なのだろうけれど、

今ここで、そのきっかけの火を自分が出してしまうのはと、遠慮してしまう。


このまま、箸を動かしていよう

私は……


「近頃、お店のことばかり考えます」


結局、自分で話し出してしまった。

思いをきちんと伝えたくて、『逃げ』でも『諦め』でもないことを、

陽太郎さんに知って欲しくて。

だから、私も涼太郎さんもここにいる。


「どんなふうにお店を作ったら、もっとみなさんに来てもらえるのかとか、
みなさんにとって、魅力のある商品は、どういうものなのかとか、
仕事が終わると、いつも階段を上りながら考えていて。
以前、珠美さんに言われたんです。仕事を探すのなら、
自分が満足感を得られるものにしないとダメだって」


珠美さんは、たとえ売れていなくても、自分の満足感だけは、

劇団に感じることが出来ると、そう言っていて。


「それが、私には今、お店がピッタリ来ていて。
お客様に、何気なく作った飾りを褒めてもらったり、
そんな小さな出来事が、本当に嬉しくて……」


ウソでも、お世辞でもなく、私は『スコッチーズ』にその思いを与えてもらっている。


「5年、10年と、気持ちが続くのかどうかはわかりません。
でも、今まで、一度も感じたことがなかった思いを、確かに感じられています」


『求めてもらっている』

『認めてもらっている』


この思い。

どこでそう感じるのか思うのかまで、人に意見を言われることはないはず。


「俺は、体が弱かった小さい頃から、親父の仕事を見てきて、
将来は一緒に仕事をしたいと本当にそう思っていた。
文房具店から、今の店になった時には、まだ親父たちも若いし、
コンビニの経営もどうなるのかわからなかったから、
とりあえず自分は就職すべきなのかと思っていたけれど。
どこを受けに行っても、面接しても、『やろう』という気持ちにはならなかった。
店をやることにしたのは、親父が倒れたから犠牲になったとか、
そういうことではないんだ、本当に」


涼太郎さんは、今の自分の生き方に、納得しているとそう話す。


「『夢』は……必ずしも大きくなければならないと、俺は思わない。
周りから見たらちっぽけに見えるものでも、俺には大事なものだ」


涼太郎さんの言葉は、陽太郎さんにどう聞こえているのか、

それは本人でないからわからない。

でも、今まで不器用にしか生きてこられなかった私には、本当に響くものがあった。

『夢』を見るのは、その形を決めるのは本人の自由。

涼太郎さんの夢、お父さんが頑張ろうと決めた店を守り、

お父さんが思っていたように、ご近所で愛される存在にすること。

それは決して、笑われるものでもなければ、責められるものでもない。

別に、タッグを組もうとしていたわけではないが、

なんとなく陽太郎さんを2人で責めているような構図が出来ていて……


「ふぅ……そうですか」


陽太郎さんは、そこまでただ話を聞いていたのに、箸を持って食べ始める。


「真梨ちゃんの気持ちも、涼太郎の気持ちも、とりあえず聞きました。
納得したのかと言われたら、出来ないけれど……」

「陽太郎……」

「まぁ、出来ないけれど、そうだと言うのだから、これ以上はもういいよ。
ただ、一つだけ条件がある」


陽太郎さんは食べ終えた茶碗を置き、お茶を飲んだ。


【17-2】



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