17 『荷物』を運ぼう 【17-3】


【17-3】


『スコッチーズ 柚原駅前店 社員 尾田真梨』



陽太郎さんの変則的な許しを得て、私は正式にお店の社員となった。

そのため、仕事も今までのように表面的なものだけではなく、プラスされていく。

今日は、私が『TARO』社員になったことを聞いた『スコッチーズ』の社員さんが、

基本的な仕組みを伝えてくれるために、お店へやってきた。


「すみません、鶴田さん、藤田さん」

「いいの、いいの。以前は2人で回していたのだから、気にしないで」


社員の話を聞く間、お店は二人に任せることになる。

少し厚めのマニュアルを開き話を聞いていると、事務所の扉が開き、

涼太郎さんが入ってきた。


「すみません、遅れて」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


私はあくまでも『TARO』の社員になるのだが、お客様にしてみたら、

『スコッチーズ』の看板を背負っているように思えるのが当然で、

本社のスタッフさんは、全国どこの人たちも、

同じことが出来るような状態を作って欲しいと、常に店舗には要求しているという。


「尾田さんにはこれから少しずつ勉強していただいて、
ぜひ、水田さんと同じ、『STEP4』まで目指していただきたいですね」


社員の言葉に、私はとりあえず『はい』と答えていく。

そう、『スコッチーズ』にはスタッフの仕事の慣れと知識を見て、

『STEP』というポイントが決まっている。

アルバイトをしますと決めて、挨拶からレジの対応など、一通りのことを覚えると、

『STEP1』となり、名札にひよこのマークがつけられる。

その後、発注や在庫の管理など、少し経営に関わる仕事をするようになると『2』となり、

名札のマークも若々しい鶏に変わる。

そして『3』になると、入ってきたスタッフに指導出来る立場となって、

にわとりマークの横に、小さなひよこがつく。

そして、涼太郎さんが持つ『4』までくると、

お店を経営し、実際に店長となることが出来るのだ。


「あぁ、そういうことですか」

「そうです。店長や副店長さんには、
数羽のにわとりとひよこのイラストがつくでしょう。
これはみんなをまとめる役という意味で、つけています」


私は納得できたので、大きく頷いた。

今の私のマークは、もちろん『ひよこ』が1羽だけ。


「わかりました、勉強します」

「はい、よろしくお願いします」


社員の男性は、涼太郎さんと売り場を周りながら、何やら指示をしている。

それから外に出ると、やはり気になるのだろう。

伊集院さんのビルを見ながら、またさらに話し続ける。


「『ハウスフレンド』だものね、来るのが」

「10月かと思ったのに、9月にはオープンらしいわよ」


藤田さんの情報に、驚く鶴田さん。


「ここの売り上げがいいのを知っていたらしいの。でも、出す場所がなくて、
『ハウスフレンド』もじりじりしていたみたいだから。
相当入れ込んでくるとは思うけれど……」


業界最大手のコンビニチェーンと、

そして、個人的な恨みをぶつけようとする伊集院さん。

そこがタッグを組むということ。

私は自分のひよこマークを見る。

少しでも早く勉強して、涼太郎さんの役に立てるように頑張らないと。

外で話し続ける涼太郎さんを見ながら、そう考えた。





……と、気持ちを前向きにしたはずなのに、

またどんよりとした時間が来る。


今日は昼前にひろみさんが訪ねてきて、事務所内であれこれ涼太郎さんと話していた。

おそらく、前にトラブルになったという事務所開きのことだろうが、

それが会いに来る口実のような気がしてしまう。

いや、そんなことを言ったら失礼だと思うけれど。



でもな……



「いらっしゃいませ」

「水田は……」


ひろみさんの後は、伊集院智。

今日は濃紺のスーツに、真っ赤なネクタイ。

そして、何やら深めにかぶった帽子。


「少々お待ちください」


どんな用事があるのかわからないけれど、とりあえず事務所の扉を叩く。


「すみません、涼太郎さん。お店に伊集院さんが」

「は? 何しに来た」


私はわかりませんという意味を込めて、首を振る。

涼太郎さんはモニターを見た後、大きくため息をつき立ち上がった。


「何、誰?」

「『慶西大学』の伊集院。『ロギック』の息子」

「『ロギック』? え、あの……建築の?」

「あぁ……」


涼太郎さんが立ち上がり、出て行こうとする。


「ちょっと待って涼太郎。私が先に行く」

「ん?」


ひろみさんがそれを抜き去り、私の横を通る。


「あの……」


事務所から出てきたひろみさんは、伊集院さんに声をかけた。

伊集院さんは、『何か』と一言発した後、サングラスを取る。

すっかり見慣れた、かわいい目だけれど、

毎回話をする時にはどうせ取るのだから、最初から外してくればいいのに。


「突然で申し訳ありません。私、庄司ひろみと申します。今、水田君の方から、
『ロギック』の伊集院さんだと伺って、失礼を承知で声をかけさせていただきました」

「あぁ……はい」


伊集院さん、なんだか嬉しそう。


「私、こういう仕事を始めようとしていまして……」


ひろみさんは名刺を出すと、今自分たちが事務所の場所を探していて、

ちょうどいい物件が見つかっていないのだと、話し始めた。

伊集院さんは名刺を見ながら、話を聞いているように見える。


「ふんふん……翻訳の会社ね」


伊集院さんは、名刺の文字をじっくり見ながら、

空いている手でなぜか自分のこめかみに触れる。


「はぁ……言っちゃったよ。あいつどこでもいいのか」

「エ……」


涼太郎さんの嘆きに、私はなんとも言うことが出来ず、状況を見守るしかないのだが。


「庄司さんと言われましたよね」

「はい」

「今の訴え……それはつまり、事務所になるような場所を、
私に紹介していただけないかと、そういうことでしょうか」

「はい、そう取っていただけたら嬉しいです」


ひろみさんの言葉に、伊集院さんは悩むようなポーズを取った。


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