17 『荷物』を運ぼう 【17-4】


【17-4】


「突然で失礼なのは、重々承知しております。それでも、伊集院さんならと……」

「私……なら?」


伊集院さんの目、何度か見ているうちに、要求していることがわかるようになった。

あの目は『褒めてくれ、もっと』と、アピールする目。


「ブログ、拝見しております。困っている人たち、
そのピンチを救うというコンセプトは、とても魅力的だと……」



ブログ

そういえば、そんなものがあった。

『SATORUブレンド』

困っている人たちを、自分の実力でどうのこうのって……


「そうですか」


伊集院さん、嬉しそう、明らかに口元が緩んでいる。


「お名前は……庄司さん、いや、ひろみさんですね」

「あ、はい」


伊集院さんの左手、人差し指が、ある1点を指した。

そこは、目の前にあるビル。


「あのビルではどうでしょうか」

「エ……」

「は?」


後ろから見ていた涼太郎さんが、思わず声を出した。

伊集院さんの目が一瞬、こっちを見たが、すぐに戻る。


「やめてくれ……」


私の横で、涼太郎さんの声だけが……


「あの……あのビルも、伊集院さんの」

「はい。実は、あそこには、自力では輝けない美容室が入っていました。
なので、全体がジラッとしていて、色も悪く、まるで病人のようでした」


建物が病人? それにジラッとって……どういう『オノマトペ』なの。

伊集院さんの説明に、納得させられたことは一度もないけれど。


「ですので、この私が、その病のビルを引き取り、
今、新しく生命を吹き込んでいる途中です。
あのビルの2階、そう、2階です。もしかしたらあなたのために、
今日が来たのかもしれない……」

「はい、798円でございます。お箸は2膳でよろしいでしょうか」


藤田さんの接客。

伊集院さんとひろみさんの妙な会話の横で、普通にお買い物をしているお客様がいる。

それがコンビニエンス。


「よろしければ、内装の途中ですが、お見せしますよ」

「本当ですか、ぜひ」

「わかりました。少しだけお待ちいただけますか。
私なりに、済ませなければならないことがありますので」


伊集院さんはそういうと、あらためてサングラスをかけ、

私と涼太郎さんの前にやってくる。

涼太郎さんを指し示す、伊集院さんの指。

形が必ず親指と人差し指で『L』を作っている。


「いいか水田、お前には散々、チャンスを与えてきた。
しかし、お前が無謀にも選択したのは、勝負だった。
これからは正々堂々と戦うべき相手だが、その挨拶代わりに、
今日は注文をしていってやる。『敵に塩を贈る』。
店に並ぶ商品で、一番魅力のある弁当を10……1週間後、買う」


伊集院さんの余計な台詞をのぞいていくと、

ただ、お弁当を注文に来たらしいことがわかる。

妙な言い方をすると、伝わりにくい。

私はレジの前に立ち、弁当のちらしを出す。


「こちらのような注文のお弁当もありますし、店頭に並んでいるものでも……」

「ふっ……」


伊集院さんから、笑いが漏れた。


「君……人の話を聞いていたのかい? そんなそこらへんのものではなく、
私は、魅力的なものとそう話したが……」


そこらへんって……コンビニは便利なことが売りなんです。


「尾田さん、『花もめん』でいいよ」

「あ……はい」


『花もめん』の値段を見て、私はすぐに涼太郎さんを見る。

伊集院さんは、すでに気持ちをひろみさんの方に向けてしまったのか、

ビルを指さし、エスコートを開始してしまう。


「涼太郎さん、『花もめん』でいいのですか。あれ、ひとつ2000円しますよ。
うちに常に並べているものではないですし……」

「いいよ、あいつだから。どうせ最終的な領収書しか見ないだろう。
それに、塩をくれると言うのだから、高いものをもらっておこう」


涼太郎さんはそういうと、

そのまま、伊集院さんに着いていったひろみさんの後ろ姿を見る。


「あのビル、埋まったんじゃなかったのか」


その涼太郎さんの顔を見ながら、私は色々と面倒なことになりそうだなと感じ、

その場で大きく息を吐いた。





朝、お店に入ってからの仕事。

店内清掃は、パートの2人に任せることになり、私はPC画面を見て、

締め切りまでに発注するべきものが、きちんと入力されているかのチェックをする。

コンビニの発注、つまり商品の仕入れは、ものによって色々と日にちが決まっている。

パンとかおにぎり、お弁当などは毎日頼むことが出来るのだけれど、

その商品によっては、A便のみ可能であったり、夜中のC便のみ可能というものもあり、

『忘れた』ということになると、1日、仕入れのない状態になることもある。

コンビニにとって、そのあたりの商品選択は重要。

今は主に涼太郎さんが仕入れをしていて、

山瀬さんや珠美さんがフォローという体制になっている。

その全てが入力されているのかチェックして、送信ボタンを押し直す。


『数が正しいのかどうか、私が判断するのですか』

『いや、入力されていればそれでいいよ。あまりにもおかしな数字だったら、
『スコッチーズ』側からチェックが入ってくる』


という涼太郎さんのお話。

つまり、毎日2つしか入れないお店が、急に桁を間違えて20となっていたら、



『どうしました』



と、本部社員から電話が入るというもの。

私は社員1日目の仕事を終えて、家に戻ると、本部社員の人からもらったマニュアルと、

涼太郎さんの言葉をまとめたメモを出し、書き切れなかったことを書き足していく。


「特におにぎり要注意……と」


書いた文字にピンクのラインを引き、忘れないようにもう一度『復唱』した。


【17-5】



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