18 『自分』を見よう 【18-2】


【16-2】


いや、感覚でそんな気がして、思わず手が止まる。


「ボードは、このあたりでいいかな」


硬い小さな輪……

袋のひもを引いてしまう。



指輪……



シルバーの指輪。

これ……



『RYOTARO & HIROMI』



エ……


「なぁ、どうだろう、曲がってない?」

「あ……えっと」


これは陽太郎さんが入れたものではない。

これは、涼太郎さんのものだ。

慌てて戻そうとしたけれど、ひも、どうなっていたっけ。


「曲がっていないと思います」


あ……


リボン部分が、へんに力が入ってしまって、取れてしまった。

どうしよう。


「よし、あとは……」


どうしよう。

私、余計なことをしてしまった。

触れた時、うっすらと予感があった。硬さといい形といい、もしかしたらそうかもと。

陽太郎さんのものにしたって、身勝手に広げて見る必要などなかった。

妙な好奇心が沸いてしまって、最低なことをした。

人のものなのに、勝手に取り出して。名前まで見てしまって。



最低なことをした私に、当然の罰。



『RYOTARO & HIROMI』



二人にお付き合いがあったと、それは藤田さんからも聞いていた。

涼太郎さんは忙しい仕事の中でも、ひろみさんのことをいつも気にかけていて。

それは今も変わっていない。『ひろみ』と呼ぶことも、全然おかしくなくて。

嫌いになって別れたわけではないのだから、こうしてまたそばに戻ってきたのなら、

当たり前のように、気持ちは近づくわけで……


「真梨ちゃん……」


ほら、また慌てて、余計なことをして、自分で傷ついて。


「どうした」

「いえ、すみません」


取り乱したらおかしい。

陽太郎さんには気づかれたくない。

誰よりも鋭いし、私が涼太郎さんのことを好きなことも、知っているのだから。

とりあえず袋をポケットに戻す。


「お腹、空きましたね」

「うん……」

「何か買ってきましょうか。君野さんも隣で一人みたいだし」

「あ、そうか、一人なら外に行けないだろうしな」

「はい、そうします」


私は涼太郎さんのバッグを、いや、見てしまった指輪をできる限り自分から遠ざけ、

隣の部屋にいる君野さんに、買い出しの誘いをかけた。



『RYOTARO & HIROMI』



指輪に刻まれた文字。

見なければよかったのに、見てしまったせいで、

大好きな『スコッチカルボ』を買っても、なんだか美味しくない。

カフェオレの味は、逆にやたらに甘い気がして。

スケッチ用に陽太郎さんが持ち込んだ鏡が前にあり、

そこに私の顔が映っている。

何を不満そうな顔、しているんだか。


涼太郎さんに憧れて、その生き方を素敵だと思っても、

向こうが誰を好きになるのかまではわからないし、気持ちの中には入り込めない。

『どうしたいのか』と、鏡の自分に聞いてやりたいが、

わかりきっていることだから、言葉にもならなくて。

顔を横に向けると、陽太郎さんが何やら紙を広げて、描き始めていた。

まだラフスケッチ段階なのだろうか、線も大胆だし、色もなくて。

それでも、描いている姿を見るのは……あ、そうだ、君野さんに渡した、

あのうさぎ以来。


「何を描いているのですか」

「ん? これ? うちの大学には付属の幼稚園があって、
そのパンフレットに入れる挿し絵の原案」

「あぁ……緑山の」

「そう」


あの大きくモコモコしているのはきっと、山と緑だろう。

『緑山大学』の名前は、確かその自然の中に作られたイメージを残したいと言うことで、

決定していると、以前、何かで聞いたことがある。


「陽太郎さんは、小さい頃から絵を描くのが好きでしたか」

「うん……保育園でも、絵を描く時間が一番燃えた。あ、あと、
先生と入るプールかな」

「……またそういう余計な情報を」

「あはは……」


陽太郎さんの手の動きを見ながら、食事を続けていたら、

午前中に大きく乱れた気持ちも、少しずつ整いだした。

今は、ただ、出来ることを広げていくこと。

私も、陽太郎さんや涼太郎さんのように、『自分の生き方』にしっかり自信を持たないと。


「午後からは、何しましょうか」

「あ、そうだ、それならさ、
駅から10分ほど行った場所にある『Vホームセンター』ってわかる?」

「わかります。自転車で行ったことありますし」

「そこで、これを買ってきてくれないかな」

「これ……」


陽太郎さんから渡されたのは、色々な数字が書いてある紙だった。


「探すのは大変だから、店員に見せると、すぐ理解してくれると思う。
ネジとか、短いパイプとかだから」

「わかりました。自転車で行ってきます」

「よろしく」


作業中の陽太郎さんを見ながら、昼食を終えて、私は下に降りていく。

下には1台のトラックが止まっていた。


「ここの2階です、お願いします」


2階には、結局、ひろみさんと先輩が始める翻訳の事務所と、

子供達の音楽教室が入ることになっているはず。


「こんにちは」

「あ……こんにちは」


先に挨拶をされてしまった。


「都並です。よろしくお願いします」

「尾田です。3階の……えっと、水田陽太郎さんのアトリエ、
あ、いや、『TARO』の事務所にいます」

「あぁ……涼太郎さんのお兄さん……だっけ?」

「はい」


都並さんはひろみさんの仕事仲間になる人だった。

メガネをかけていて、髪はショート。

背は私と同じくらいに見える。


「少し、荷物とか運ぶので、バタバタしますが」

「いえ、大丈夫です」


私はあらためて頭を下げると、そのまま前を見る。

すると、マンションの階段を降りてくる涼太郎さんとひろみさんに会った。


【18-3】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント