18 『自分』を見よう 【18-3】


【16-3】


「鍵は受け取ったの」

「うん……」



『RYOTARO & HIROMI』



二人揃ったシーンを見てしまったせいで、また、頭の中に戻ってくる。


「あ……尾田さん。陽太郎は荷物入れ終わった?」

「はい。とりあえず終わりました。今、掃除をしていて、
置き場所をハッキリ決めるのは、これからみたいです」

「そっか、それなら、階段でぶつかることもないな」


涼太郎さんはそういうと、ひろみさんに30分待っていてと話し、

小走りで『スコッチーズ』に消えた。

ひろみさんは、少し遅れて私の方を見る。


「これからよろしくね、尾田さん」

「いえ、こちらこそ」

「どうなることかと思ったけれど、逆に涼太郎の近くに物件を借りることが出来て、
私にとってはラッキーだった。何かあればすぐに見てもらえるし」


私は、マンションの駐輪場にある自転車の方に向かおうとする。


「ねぇ……」

「はい」

「尾田さん、東京に一人暮らしなのでしょう。それでコンビニの店員になって、
本当に満足なの?」


ひろみさんはそういうと、私を見た。

どう答えるべきかと考えていると、先にまた向こうが口を開く。


「コンビニの仕事をどうのこうの言いたいわけじゃないの。でも、
東京にいるのには、それなりの意味を持ちたいでしょう、普通。資格が取りたいとか、
ここでないと出来ない仕事がしたいとか……」


東京にいる意味。


「自分の人生だから、流されないでしっかり見た方がいいわよ。
尾田さん、まだ若いのだから」


ひろみさんはそういうと、スコッチーズの自動扉から中に入っていった。

私はポケットから自転車の鍵を出し、駐輪場から引き出す。

確かに、日本全国、コンビニならどこにでもあるだろう。

東京に一人暮らしをして、わざわざ就職するというこの現状が、

おかしなものに見えるのかもしれない。



それでも……



私は初めて、この場所で自分に自信が持てた。

失敗しても、また次の日も頑張れると、そう思うことが出来た。

だから今は、この場所で自分の生きていく力を、さらに磨きたい。

そう思いながらペダルに足を乗せ、一歩を踏み込んだ。





「はぁ……もう、予想外」


陽太郎さんの話だと、紙に書かれたものはネジとか、小さなパイプだからと、

それほど重くないようなことを言われたのに、店員さんに出されたものは、

それプラス、両手サイズのボードだった。


『よろしかったら、店の車をお貸ししますよ』


自転車で来たことを知った店員さんには、そう言ってもらえたけれど、

私は免許を持っていない。何度も落ちているうちに、やる気がなくなってしまって……


「もう少し……」


私は手でボードを押さえながら、ビルまでの道を進む。


「はぁ……疲れた」


自転車を駐輪場に置き、荷物を持つ。

右手に細々したものが入ったビニール袋を通して、両手でボードを持った。

階段、転んだりしないように上がっていかないと。


「あはは……もう、やだ、涼太郎」


2階に差しかかる時、引っ越し作業中で扉を開けているひろみさんの声がした。


「さすが男性に頼むと、どんどん進む」


ひろみさんと都並さんは女性、重いものを運んだり、設置するのに、

涼太郎さんが手伝っているのだろう。

えっと、あと階段、1段だっけ? いや、2段……


「ねぇ、涼太郎……」

「尾田さん」


あれ? 私の名前だ。


「はい」


両手でボードを持っていることもあるし、狭い階段なので、方向を変えることも出来ず、

私は相手が見えない状態のまま、『はい』と返事をする。


「ボードから手を離していいですよ、俺が運びます。上でしょう」

「あ……あの……」


さっきまで厄介者だったボードが、私の前から消えた。

視界が広くなると、色々なものが見えた。

前を行く涼太郎さん、2階にある、様々なダンボール。


「これを尾田さんが運ぶって、どういうことだ。陽太郎が運べばいいだろうが」


涼太郎さんは私の前を歩き、3階に向かってくれる。


「すみません」


上にいる涼太郎さんと、すぐ横を見ると存在に気づいたひろみさんに頭を下げる。

ひろみさんの顔は、少し前まで笑っていた人とは思えないくらい、

明らかに不満そうに見えて。


「すみません……」


邪魔をして申し訳ないという思いから、また、そう言ってしまった。





「戻りました」

「どうしてお前が運ばないんだよ」


私が戻るまで数秒遅れたために、始まっていた兄弟バトル。


「ボードが書いてあること忘れてた。ごめん、真梨ちゃん」

「いえ、大丈夫です」

「尾田さんも、別に君はお手伝いじゃないんだから、無理なものは無理だと、
言えばいいんだよ」


涼太郎さんはそう言った後、数歩前に出る。


「あれ? これ、俺のだろうが」


涼太郎さんが取ったのは、指輪が入っていたバッグ。


「荷物を入れるものが見つからなかったから、借りました」

「……ったく、勝手に……」


パチンという、陽太郎さんがペンを少し強めにテーブルに置く音がした。


【18-4】



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