18 『自分』を見よう 【18-5】


【16-5】


「いいよ、座っていて」

「いえ、私はこっちで」

「休憩じゃないの?」

「はい」


時計を見ると、あと5分。


「あ……」

「ん?」


忘れていた。私、料理のアイデアのことばかり考えていて。

この時間に、お昼、食べないと。

慌てて自分のバッグから、おにぎりを出す。

本当ならおかずを買ってと思っていたけれど、そんなことをしていたら、

休憩時間、終わっちゃう。


「忙しかったんだ」

「いえ、違います。ちょっと別のことを考えていて。忘れていただけで……」


何していたんだろう。考えることなら、おにぎりを食べながらでも、十分出来たのに。

とにかく時間がない、押し込んでいかないと。


「いいよ、ゆっくり食べな。俺、店に出るから」

「いえ、涼太郎さんは午後からですよね。私の番ですから……」


と言っている時、おにぎりが詰まりそうになる。


「ん……」

「ん?」


大丈夫、落ち着いて、胸を叩いて……

いや、ダメ、飲み物……息……苦しい。


「尾田さん、これ」

「あ……」


涼太郎さんが持っていたペットボトルを渡してくれたので、

追い込まれていた私はそれを受け取り、思わず飲んでしまう。

数口飲んで息を吸う。よかった、直った。


「あ……」

「ごめん、それ……俺、今店で買って……少し口つけた」


これ、『飲みかけ』のペットボトル。


「すみません……逆に、私。買い直します」

「あ、いいよ、いいんだ。慌てていたからさ、途中のものを渡したのが、
尾田さんに悪いと思っただけで……」


私が慌ててしまったので、とっさに出してくれたんだ。

飲みかけだからって、涼太郎さんに悪気なんてないし、むしろ助かったし。



いや、『飲みかけ』でも、涼太郎さんのだもの……



「すみません……」


私が謝ると、涼太郎さんの押さえた笑い声が聞こえてくる。


「ごめん、笑ったりして。でもさ、陽太郎に言われていたよね、尾田さん」

「エ……」

「すみませんって言って、謝罪の安売りをしないって。今、思い出した」


涼太郎さんは、そう言ってまた笑い出す。

私も思わず笑ってしまった。

そう、『すみません』は私の口癖のようになっている。


「いつも失敗ばかりするので、自然に、身についているというか、
口から出てしまうと言うか……」


出来ないと言われ続けてきた私の、最低限の防御策。

とにかく謝っておいた方がいいだろうという、逃げの台詞。


「すみません……って言われて、まぁ、嫌な思いはしないけれど。
でも、あんまりそう言っていると、自分に自信がなくなっちゃうよ」


涼太郎さんは私が戻したペットボトルのお茶を、一口飲む。


「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。失敗なんてしていないし。
尾田さんの雰囲気に、みんな癒やされていると思うから……」

「エ……」

「俺も含めて……」


涼太郎さんはそういうと、すぐに上着を羽織り、店内に出てくれる。

私は、途中になっていたおにぎりを、その後は詰まらないように気をつけながら食べ、

予定より少し休憩が過ぎてしまったことを、あらためて反省した。





藤田さんが1時で仕事を終えたので、午後は私と涼太郎さん。

雨がひどくなってきたからなのか、あまりお客さんの数は増えない。

流れてくる店内放送。今日はしっかり聞き取れる。

売り上げが落ちるから、本来なら喜ばしくはないけれど、

こののんびりした雰囲気、今日は、嬉しさの方が勝るかもしれない。


「どう? STEP2の試験、行けそう?」

「説明された通りならいいかなと。『ピヨピヨブック』は暗記しましたし。
発注も……」

「そうだね、尾田さんが発注をやってくれるようになったから、
俺に余裕が出来て助かってる。典之や珠美も出来るけれど、毎日いないと、
やっぱり見きれないところも多いし」


涼太郎さんの言っている意味は、よくわかった。

月曜日から金曜日まで、平日ならほぼ変わらないだろうと思うと、

実はそうではない。コンビニの新商品が並ぶのは火曜日。

そのため、月曜日には新商品が入るための余裕を、店内に作らないとならない。

そのためには、仕入れを辞めるものもあるし、逆に取ろうとしても終了という時もある。

並んでいる商品を、売れ具合によって変えていくこともあった。

だいたいどれくらいの時間があれば、入ってくる商品がさばけるのか、

常に考えながら仕入れをしなければならないし、さらに、この店の場合、

木曜日には近所の病院が休みになるため、年配のお客様の数が落ちる。

そうなると、甘いものも、あんこのものは落ちるし、

逆にサッカー教室があるため、夕方のコロッケ売り上げは、倍くらいになる。

商品は、毎日仕入れられるものと、一度逃すと3、4日入らないものもあるので、

そのあたりは、経験と勘。両方が必要だ。


「そういえば、さっき何をやっていたの」

「さっき……」

「お昼を食べることも忘れていただろ」

「あ……」


私は、以前、涼太郎さんのお母さんが提案されたような、

うちの惣菜や、揚げ物を利用して作るワンプレートレシピの紹介を、

店内に出来たらいいのではと話した。


【19-1】



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