23 『逆襲』しよう 【23-4】


【23-4】


『自分の考えに、賛同してくれる人……』



仕事を終えて部屋に戻ってからも、ずっとこの言葉が頭の中を動いていた。

目が合ったのだから、私が感じたことを、涼太郎さんも感じてくれたはずで。

『同じ目標』を持つもの同士。

それとも……もう少し……


「新商品イベント……か」


パンフレットを見ながら、ゴロリと横になる。

仕事で行くことはわかっているのに、デートを待っている気分。

『ブラインドラベル』に勤めていた頃は、朝起きることも家を出ることも、

すごく勇気のいることだったのに、『スコッチーズ』に勤めてからは、

次の日が来ることが、とても嬉しくて。



涼太郎さんに会えることが、一緒に仕事が出来ることが……



幸せだなと、思えてしまう。



「早く、木曜日になれ!」


私はそう願いながら、にやけたまま目を閉じた。





楽しい、楽しい木曜日の前に、陽太郎さんの助手をする水曜日がやってきた。

今日は朝からやるべき仕事がわかっているので、封筒とお礼の手紙を横に置き、

手際よく中に入れていく。


「へぇ……涼太郎が」

「はい。伊集院さん、逆襲されるとは思っていなかったみたいです、
半分泣きべそでしたから」


昨日の出来事を、北海道のイベント終了後も、都内で動いていた陽太郎さんに話す。


「言い返されるなんて思っていなかっただろうから、
ボディーブローどころじゃないだろうな」


陽太郎さんは、今頃寝込んでいるかもしれないと、頼まれたサインを書きながら笑う。


「これで少しおとなしくなりますよね」

「なるわけないだろうが。伊集院だぞ」


陽太郎さんは、一生、くだらないことを言いに来るよと、

隣に聞こえるように大きな声を出す。


「そうですかね」

「そうだよ。普通の感覚じゃない男だぞ」

「まぁ、そうですけれど」


涼太郎さんはどう思っているのかわからないけれど、

私はそれならそれでもいいかなと、思えてしまう。

あまりにも『普通』からかけ離れていて、楽しささえ見えてくるから。


「北海道も都内も、展示会が好評でよかったですね」

「ん?」

「今朝、駒井さんが言っていたので」


そう、今朝、駒井さんがここへ来てくれた。

北海道と都内の展示会は、両方とても好評で、仕事がさらに増えたこと……


「あぁ、展示の仕方も結構工夫してもらって。思っていたよりも人も来たし、
取材も受けた」

「そうですか」


実力があるのだから、これからますます……


「年末くらいから、イギリスに行こうかなと思ってね」

「エ……」


私は紙を折る手を止める。


「イギリスに……ですか?」

「うん……俺のイラストを、仕事に使ってくれるという話が出て。
そういった海外経験もいいかなと」


北海道の展示会に関わる仕事をした『絵本作家』さんが、

付き合いのあるデザイナーさんと、陽太郎さんを合わせてくれる手はずを整え、

食事をしたのだと言う。


「うわぁ……いいですね。それなら、今度はイギリスのお土産を……」

「旅行気分ではいかないよ」


陽太郎さんは、『仕事だからね』と真面目な表情を見せる。


「俺がイラストのプロとして、一生食えるようになるのか、勝負をしに行くわけだ。
もし成功して、それが形になれば、こっちに戻ってきたときにもっと大きな武器になる。
しかし、失敗したら、日本での活動をストップして行くだけに、
取り戻すのはそうたやすいことじゃないだろう。
成果を出さなければ、帰ってこないくらいの気持ちがないと、飛び立てない」


帰ってこない……


その瞬間、今まで感じたことの無いような、寂しさが押し寄せてきた。


部屋にあるひよこのイラストと、水田兄弟のイラスト。

あのイラストたちがそばにあるように、


陽太郎さんは、気づけばいつでもそこにいてくれるような……

そんな気持ちがあったのに。


「手が止まってますよ、尾田さん」

「あ……すみません」


仕事を評価されて、さらに前へ進むため、陽太郎さんは考えている。

だから、笑って『頑張ってください』と言えばいいのに。


「まぁ、というくらい重要なことだから、もう少し考えないとね」

「……はい」


私が返事をする瞬間ではないはずなのに、『そうですよね』という意味の言葉を、

返してしまった。

その日は午前中、ずっとお礼の手紙作りをし、

午後は展示会で戻ってきたイラストたちを、丁寧に梱包し直す仕事をし続けた。





陽太郎さんがイギリスに行く。

観光ではなく仕事。すでにその相手もいるし、実力も認められている。



この部屋は、元々陽太郎さんのアトリエだった。

私が、就職を決めたのに、住む場所がないことでドタバタし、

結局、陽太郎さんに開けてもらった。

引っ越した日、カーテンを取り付けてもらって、

『ブラインドラベル』で『キャットボン』を押しつけられた後も、

それをネットでさばくため、アイデアを出してもらった。

社会人生活に戸惑い、自信をなくした私にプレゼントしてくれた大きな絵。

ひよこの私の周りには、助けてくれる仲間がたくさんいることを教えてくれた。

わがままな妹、真優に振り回され、泣きそうな私に、手を差し伸べてくれたのも、

陽太郎さんだった。

一見、マイペースに見えるけれど、本当はすごく人に気をつかえて、

誰からも愛されるキャラクターを持つ人。



それが……陽太郎さんで。



その日は、心が寂しくて、しばらくイラストばかりを見つめていた。


【23-5】



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