25 『一緒』に帰ろう 【25-1】

25 『一緒』に帰ろう


【25-1】


「あ……あの人、来たんだ」

「はい。一番大きな袋に入れました」

「らしいね。藤田さんから聞いたことがある。俺がいると、そう言わないからさ」


涼太郎さん、それは女として、少し恥ずかしいからだと思います。


「まぁ、ヨーグルトを一つ買って、スプーンはつけますかと聞くと、
箸もつけてくださいって人もいるし、
ジュースを買ってフォークをくださいという人もいるしね」


コンビニでは、箸などがいるのかどうかを聞いてからつけているため、

時々、首を傾げるような組み合わせを要求するお客様もいるにはいる。


「そういう時は素直に渡しておけばいいよ。何も買わないのは問題だけれど、
うちの売り上げに貢献はしてくれているし」

「はい」


お弁当を持ってきたのに、箸だけ忘れてしまうこと、私も学生時代、あったし。

何かを買えば、もらってもいいかなと思うくらいは、まだまだかわいいもの。


「前に、貯金箱をドンとレジにおいて、
中に入っているお金で買うからって言われたことがある。
さすがに1円玉が100枚以上は勘弁して欲しいとお願いして、銀行を勧めたけどね」

「そんな人もいますか」

「いるよ……」


涼太郎さんは、ここで働いているからか、

ちょっとのことくらいでは動じなくなったと笑い出す。

朝や夕方に比べて、午後のこの時間は一番のんびりした時間。

もちろん発注や在庫管理など、仕事はあるけれど……



少しの癒やしタイム。



「いらっしゃ……あれ? 何」

「今、陽太郎が来るから。尾田さんとちょっとだけ話をしたいって」


ユニフォームを着て、お店に現れたのは涼太郎さんのお母さんだった。

その後、すぐに陽太郎さんが入ってくる。


「真梨ちゃん、ちょっと話がある」


話って……


「あの……」

「私がいるからいいわよ。ねぇ、涼太郎」

「ん? あ……うん」


陽太郎さんがアトリエを指さしたので、私はお言葉に甘えてお店を抜けることにする。


「大事な話があるんだ……これからを左右する」


陽太郎さん。また、なんだか意味がありそうな言い方をして……


「すみません、すぐに戻ります」

「いいわよ、ゆっくりで……」


お母さんは涼太郎さんの隣に立ち、『いってらっしゃい』と手を振ってくれる。

私はアトリエで飲めるよう、ペットボトルのお茶を2つ買い、陽太郎さんの後を追った。





これからを左右する話って、なんだろう。

階段を上がりながら、それなりに考えてみるけれど、さっぱり……

まさか、今更あの部屋をアトリエに戻したいとか、そういうことではないよね。

でも、そう言われたら、出て行かないとならないの?


「失礼します」


軽くノックをして中に入ると、陽太郎さんがお弁当を食べていた。

『ハウスフレンド』の。


「陽太郎さん、今お昼ですか」

「うん……朝から出かけていて、さっき帰ってきた。で……」

「どうせなら『スコッチーズ』で買いましょうよ。それと同じようなお弁当。
あるじゃないですか」


コロッケと唐揚げ。それに和風のおかずが入る、定番のお弁当。


「は? 嫌だよ。涼太郎の売り上げがあがるだろ」

「涼太郎さんの売り上げではないですよ。『スコッチーズ』の売り上げです」


私の言い返しに、陽太郎さんが笑い出す。


「そう、ムキになるなって。敵を知るためだろうが」


陽太郎さんは、私の手からペットボトルのお茶を取る。


「いただきます」

「どうぞ……」


私は向かい合うように座り、自分もお茶の蓋を開けた。


「コロッケの味は、うちより上だな」

「そうですか?」

「うん。食べ比べてみたらわかる。ここが業界1と2の差か?」


陽太郎さんは『肉の味が……』とさらにお弁当の話を続けようとする。


「話はなんですか」


なんとなく話を切ってしまう私。


「……なんだよ、そんなに涼太郎のところに戻りたい?」



はい、戻りたいです。



「仕事中ですから」

「……とかなんとか言って。涼太郎と一緒に仕事がしたいって、顔に書いてあるし」


陽太郎さんは、『わかりましたよ』と言いながら、何やら紙を取りだした。

そこに書かれてあったのは、誰かの文字。


「これ、駒井の字。あいつに調べてもらっただろ、末次のこと」


末次……


「あ……真優の」

「そう、業界人だと言って、若い女性達を色々惑わしている男」

「正体、わかりましたか」

「わかった。で、また一つ、面倒なことが起きた」


陽太郎さんは、確かに『末次直樹』は芸能プロダクションの社長をしているが、

その事務所は現在、『開店休業中』だと言う。


「一応、稼ぎ頭だったレースクイーンあがりのモデルが、色々とあったんだろ。
週刊誌に契約のおかしさを話したんだ」


末次の事務所では、モデルに対し、

『それなりの仕事と収入』を保証するような話をしておいて、

実際にはレッスン料金を取り、仕事といっても小さなものしか入らず、

オーディションの情報すら、まともにもらえていなかったという。


研修、化粧品、キャットボンなどをちらつかせ、給料は約束以下という、

どこかの企業を思い出す……私。


「数年前までは、そこまでおかしくなかったみたいだけれど、
まぁ、常識が常識にならない業界だからね。つまずきを取り戻すのに、
余計なことをしてしまったというところだろう」


仕事の報酬がもらえていないという記事内容と、おかしな経営部分が明るみに出て、

『詐欺事件』として立証されるかもしれないという情報まで飛び出してくる。


「詐欺……ですか」

「うん……まぁ、そこまではいいんだ。ただ、問題はここから」

「はい」


陽太郎さんは、窓から外を見た。


【25-2】



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