25 『一緒』に帰ろう 【25-2】


【25-2】


「来ないな、真優ちゃん」

「エ……真優が?」

「うん……この話を今朝、してきたばかりなんだ。真優ちゃんの家の近くでね。
駒井の予定もあったし、警察が動くかもしれないと、
彼女も巻き込まれる可能性がないとは言えないし……」

「真優が……何か悪いことを……」

「あぁ、違うって。そうではないけれど、ただ、末次に関わっている人を調べていけば、
仕事の手伝いをしていた真優ちゃんも、事情を聞かれるくらいはあるかもしれないだろ。
それこそ、きちんとしておかないと、妙な噂だけが入ってしまって、
実際の会社の試験で、マイナスになるかもしれない」


アナウンサーになりたいと、他の人より有利になるため、動いた結果。

その動きが逆に、首を絞める可能性があるだなんて。


「そこまで考えていなかったって、真優ちゃん、困った顔をしていたよ。
自分では、有利にしようと頑張っただけだろうからね」


陽太郎さんは外を見ながら、両手を組む。


「学生時代くらいまでは、要領のいいヤツが結構得をするんだよ。
周りの人間を動かすすべを知っているし、簡単に従うレベルの人間もいるから。
でも、世の中は大学生が有利に動かせるような、甘いものじゃない。
一番遠いようなこと……つまり、一歩ずつ前に進むことが、実際、一番近道だったりする」


確実に前に進むこと。

今までの真優なら、確かに『そんなことは馬鹿馬鹿しい』と言い切り、

自分の取り巻きをうまく使いながら、面倒なことは流してきただろう。

お金持ちの男の子と付き合い、生活を楽しみ、

強く言えば言い返せない姉にも、あれこれわがままをぶつけてきた。


「真梨ちゃんが心配していることを話してきた。真優ちゃん、黙ったままだったけれど。
俺が、こうして真優ちゃんにアドバイスをするのは……あなたのお姉さん、
つまり真梨ちゃんが、価値のある人だからだよ……と、そう話して……」



価値のある人。



「陽太郎さん……」

「ちょっと言い方はきついかもしれないけれど、でも、俺は必要だと思ったから、
そう言ってきた」


私と陽太郎さん。

いや、涼太郎さんや『スコッチーズ』のみなさんも含めての関わりがあるから、

妹の真優にも、気持ちが向くと言うこと。


「大学がどこだから、就職がどうだから、自分の方が上だとか狭い考えは、
いい加減に捨てた方がいいと、そう言っておいた。色々な人から話を聞いて、
視野を広くしておかないと、簡単に騙されるぞ……と」


陽太郎さんは『念押しだよ』と笑う。


「一緒にここへ来て、真梨ちゃんに会おうと話したけれど、
一つだけ寄りたいところがあるって言われて、俺が先に戻ってきたんだ。
時間は2時と約束したのにな」


携帯を確認すると、すでに30分以上過ぎている。

私も立ち上がり、陽太郎さんの隣に立つ。


「ありがとうございます」

「ん?」

「私がもっと、真優と話をしなければいけないのに。
ガン……と言われると、なかなか言い返すことが出来なくて」


学歴とか、生き方とか、要領のいい妹に、今まで一度も勝てたことがない。

いや、そもそも勝ち負けではないけれど、

でも、どこかに自分も自分に満足できていなくて、言い返せなかった。


「母にも同じです。真優と似ていて、自分の価値観で決めつけて話すタイプの人だから、
いつも頭から否定されることが多くて。面倒だなと思ってしまうし、また、
自分にも私は自信が全くなかったから……」


自分の選んでいる道が、正しいと言い切れる強さがなかったから。


「でも、この間はきちんと言ってきました。私は自分の居場所を、見つけたって」

「うん」

「誰に何を言われても、私は私だと、言える自信があります」


コンビニの店員さん。

そう言い切ってしまえばそれまでだけれど、でも、やりがいを感じている。


「……頼むね、真梨ちゃん」


陽太郎さんの優しい視線。


「涼太郎のこと」


陽太郎さんは『イギリスでチャレンジしてくるから』とガッツポーズをしてくれる。


「決めたのですか」

「あぁ……決めたよ」


陽太郎さんが、イギリスに行く。


「俺が自由な分、あいつが我慢しているのが嫌だと、ずっと思っていたけれど、
そうじゃないことがハッキリわかって、気持ちが決まった。親父とお袋も、
涼太郎と店をやれることが幸せだろうし……」


陽太郎さん……


「真梨ちゃんのような人が、あいつのそばにいてくれるから」


私……


「だから、俺は自由に飛び立てます」


今日の話は、『かもしれない』ではない。陽太郎さんが考えて決断したこと。


「陽太郎さん。精一杯応援してますから、イギリスで頑張ってください。
お店は……いや……あの……」


陽太郎さんの手が、私を引っ張って……


「エ……」


もたもたしていたら、私が陽太郎さんの腕の中に、入ってしまった。


「真梨ちゃん、下……下見て、下」

「エ……」


バスロータリーの向こう側、お店の前に立っているのは涼太郎さん。


「あ……あの……」


いや、これは違います。

私たちはこういう関係ではなくて。


「いいから、いいから。ほら、あいつ、驚いているって……」

「いや、陽太郎さん、ふざけている場合じゃないですって」


涼太郎さんが、店の前に出てきたことがわかった陽太郎さんが、

わざと私のこと、腕の中に入れている。


「あはは……さっきから、チョコチョコ店の前に出てきていたんだよ。
自転車直してみたり。気になっているんだろ、
真梨ちゃんと俺がここにいること、あいつなりに……ったく、ざまぁみろ」

「陽太郎さん!」


子供のようにはしゃぐ陽太郎さんと、真面目で正直な涼太郎さん。

私にとってはどちらも大切な人だけれど……


「……イテッ!」

「もう!」


ここは頑張って足を踏む。


「真梨ちゃん……」


陽太郎さんのわざとらしく落ち込む顔がおかしくて、なんだか笑いたくなって。


「こういういたずらをするからです」


私も笑いながら、言い返してみる。

窓から見える景色は、今日も快晴。

私は晴れて自由の身になり、視線が合いそうな涼太郎さんに向かって、

両手を大きく振った。


【25-3】



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