26 『環境』を変えよう 【26-5】


【26-5】


涼太郎さんは履歴書を受け取ったのか、視線を紙に向けていて。

私は『お先に失礼します』と頭を下げて、お店を出ようとする。


「店長さん、かっこいいからモテるでしょう」


篠田さんの台詞に、扉を押す手が止まる。


「先週ここに越してきて、このお店に入ったら店長さんがレジにいて。
あ、もう、バイトはこの店って決めました」


おかしいよね、ここで止まっているの。

帰りますと言ったのだから、出て行かないと。


「どこに住んでいるの」

「エ……やだ、知りたいですか? ここから3分くらいです」


私は扉を押して、店内に出た。

珠美さんが商品にラベルを貼っている。


「お疲れ真梨ちゃん」

「あ……お疲れ様です」


明らかに笑っているとわかるくらいの声が、聞こえてきた。


「ねぇ、今の子、どんな感じ?」

「椅子に座って、すぐに涼太郎さんに『かっこいい』とか言っていました」


なんだろう、ちょっと告げ口をする私。


「涼太郎の前でも言っているの? そりゃすごいね。店に入ってきて、
いきなり面接って言った時にも『店長さんが素敵だからバイトしたい』って言ったけど」


珠美さんは、今時の大学生はと笑い出す。


「お先に失礼します」


私は珠美さんに挨拶をすると、お店を出た。

階段を上がっていくと、ラインの届く音がしたので相手を見る。



『涼太郎さん』



あれ? もう面接終わり?



『木曜日、食事に行かない?』



木曜日……

私のお休みの日。

私自身はもちろん、全然、100%、当然OKですけれど。


『涼太郎さん、面接は?』

『今、スコッチーズの心得を読んでもらっている』


心得を読むと言うことは、採用されたということ。


『彼女、『スコッチーズ』の経験者なんだ。だから即戦力だし、
ちょっと変わっているけれど、明るそうだしね』


まぁ、明るい感じはしましたけれど。


『夕方の勤務はどうします?』

『木曜日は大丈夫だと思う。山瀬、沢田、赤橋だし』


そうか、このメンバーなら少しくらい時間をもらっても、大丈夫だろう。

ラインが届いた瞬間には、『嬉しい』の気持ちの中に、『いいのかな』の気持ちが、

数パーセントあった気がするのに、今や『嬉しい』しか心に存在しない。


『楽しみにしてます』


私は携帯電話を抱えるようにしながら、階段を上がり、部屋へ入った。



いいな、ライン。

私と涼太郎さん、二人だけの会話。

何度見ても、そこには文字しかないけれど、確実に勘違いされることなく、

涼太郎さんに言葉が伝わるのかと思うと、ただの場所とは思えなくなる。

篠田さんに『素敵』だと言われていた涼太郎さんと、待ち合わせをして食事。

ちょっといつもより、いい気分。


今日は月曜日。今日を含めて3回夜が来て眠って起きたら、木曜日が来るのだから。

私はキッチンに立ち、夕食を作りながら、今度は何を食べに行こうかと色々考えた。





「柳田夏希です。よろしくお願いします」

「藤田です。よろしくね」

「尾田です、よろしくお願いします」


あらためて互いに名前を名乗り、自己紹介。

涼太郎さんから聞いていた通り、朝の勤務に夏希さんが登場した。

新人バイトを教えるわけではないので、どこに備品が入っているのかだけを話し、

すぐに即戦力となってもらう。


「へぇ……『丘野1丁目店』に?」

「はい。ドラマのロケで来ていたみたいです」


都会の中にある、ちょっとした森のような場所があるためなのか、

ドラマなどのロケが、結構多いのだと夏希さんに聞き、藤田さんは話を合わせている。

品出しの仕方や、レジの操作方法など、さすがに手慣れていて。


「いらっしゃいませ」


レジにお客様が立ったので、夏希さんが入った。

お弁当を温めるのか確認し、レンジに入れる。


「なぁ、弁当、少し高いと思わないか」

「エ……」


その男性は、会社の荷物を運んで都心から車を走らせてきたらしく、

普段はこうしたコンビニ弁当を食べないけれど、今日は店もよくわからないので、

入ってきたと立ち話をする。


「コンビニの弁当は、たいしたおかずもないのに、高いんだよ結構」


夏希さんは『そうですよね、同じ値段でラーメンくらい食べられますし』と、

話を合わせるようにする。レンジの音がしたため、中からお弁当を取り出すと、

袋に入れた。


「あ、そうそう、それにこの何……スコチキだっけ?」

「はい、こちらも買われますか?」

「いや、いいよ。ちょっと味が濃いんだ。客を殺す気かって言うんだよな」


お話が好きな人なのだろう。

夏希さんがお弁当の批判に、少しプラスのような言葉で返事をしたからなのか、

会計が終了しても、会話が止まらない。

私は夏希さんの横を通り、次のお客様の応対をする。


「それじゃ、どうも」

「ありがとうございました」


互いのお客様が、ほぼ同時に店を出て行った。

私は残されたレシートを、ゴミの方へ入れる。


「……ったく、ペラペラうるさいって」


夏希さんはレジのカウンターから出て、また品出しの場所に戻る。

大きな声ではなかったし、

お店の商品に文句をつけられて少しイラッとしたのかもしれないが、

出てきた言葉と、彼女のイメージがあまりにも正反対で戸惑った。


【27-1】



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