2 チョコミントアイス 【2-1】

「じゃ、お先に」

「お疲れ様です」


壮太郎は定時になると、すぐに飛び出した。

エレベーターの表示は上向きだったため、待っている時間を考え、

階段を選択し降りていく。



温のお迎えリミットは、基本午後7時。



普通に行けば、当然到着できる時間だが、

少しでも早く迎えてやりたいという気持ちが、早足となって出てしまう。


「あれ? 西森さんもう帰ったの?」


鈴木は、そう言いながら視線を左右に動かす。


「西森さんは今日、お迎えの日です」


富田は鈴木に向かってそう言うと、PC画面のボタンを押した。


「お迎え……あぁ、そうか、今日金曜か」

「そうそう、2週間ぶりに、かわいい息子さんと会う日です。
『失敗しないでくれよな』の目、俺、一日中浴びせ続けられたし……」


富田はそういうと笑い出す。

鈴木は『お前は言われるよ』と、それは当然だというような声をかけた。



「はぁ……」


壮太郎は、改札を抜け、入ってきた電車に飛び乗った。


「すみません」


入り口近くから中に入り、つり革にしっかりとつかまる。

自分の家に帰るのなら、急行に乗り8つ目の駅で降りればいいのだが、

今日は6つめの駅で降り、さらに乗り換えて2つ目の駅を目指す。

そこに『くれよん保育園』があった。

元妻のさやかと、温が暮らしている団地は、

保育園の駅から、さらに先へ2つ進む場所にある。

何かトラブルはないかと携帯を出し、さかやのところを見ると、

ラインの到着印が、光っていて、温が熱でも出して、

今日のお迎えは中止なのかと思いながら、文面を見た。



『話があります。温を送ってきた時、
少し時間が欲しいので、昼過ぎには戻ってもらえますか』



金曜日の夜、壮太郎が温を迎え、1日過ごして土曜の夜に帰すか、

2日過ごした後の日曜の夜に帰すか、どちらにするのかは壮太郎に任されていた。

そのため、ほとんどが2日経ってからの日曜パターンになっている。

保育園のイベント情報も、さやかはラインで報告してくれるので、

堂々と前に出ることはしないが、壮太郎はよく見に行っていた。

『もちつき』や『カレー作り』など、参加してあげたい気持ちももちろんあったが、

出過ぎてしまうのは、温にもかわいそうな気がして、あくまでも影に徹してきた。

壮太郎はつり革につかまりながら、話というのはなんだろうと考え始める。

そんな時間を過ごしていると、駅に着くのは、あっという間だった。


「すみません、西森です」

「はい.温君、お父さんだよ」


先生の声に、部屋の奥で積み木をしていた温が気付き、すぐに片付けをし始めた。

保育園には事情を語ってあり、たまにくる壮太郎のことも、

しっかり認識してもらっている。


「温君、前には食べられなかったにんじんも、残さないようになりました」

「そうですか」

「おうちではまだ残していることもあるようですが。こうした場所だと、
周りを見ながら影響されるみたいです」

「はい……」


友達が頑張ると、自分もと思うのは子供の正直な気持ちだろう。

壮太郎は、また少し背が伸びた温を見ながら、荷物を先に受け取った。


「パパ!」


温は小さなリュックを背負うと、

お世話になっている先生達に『さようなら』と挨拶を済ませ、

下駄箱から靴を出すと履きながら、今日の出来事を話し出した。


「今日ね、砂場の中にお山を作ったの」

「うん……」

「もっと大きくしようって、たっちゃんとやったら、バチャン……って、なってさ」


温は両手を大きく広げ、楽しかったことを思い出すのか、笑顔のままでアピールする。


「うん」

「でね……」


温は話したいことがたくさんあるようで、歩きながらもどんどん保育園のことを語った。

大好きな友達のこと、先生のこと、新しい歌を覚えたこと。

2週間ぶりに会う壮太郎にとっても新しい話ばかりで、出てくる人間関係など、

整理していくのが大変になる。


「パパ……お子様ランチ、食べようよ」

「わかった、わかった。話があっちにこっちに飛ぶから、頭がこんがらがるぞ」


自分と会うときには、外食が出来ることを楽しみにしている温の期待に応えようと、

壮太郎は最寄り駅にある『ファミレス』での食事を約束する。


「げんまんだ」

「おぉ……」


駅まで進んだ時、今朝、梅本が話した『有森不動産』のことを思い出した。

このまま改札に入ればいいことはわかっていたが、壮太郎は温に声をかける。


「温……」

「何?」

「パパ、ちょっとだけ見たいところがあるからさ、一緒に来てくれる?」

「どこ?」

「すぐそこ」


壮太郎は温の手を引き、改札ではなく、駅の反対側に出た。

左右を見ると、すぐに看板に気づく。



『TAKUMI 有森不動産』



梅本が話してくれたお店は、確かにそこにあった。

外にあるガラス張りの掲示コーナーには、賃貸の情報がいくつも貼り出されていて、

部屋の中がわかる写真が、添えられている。

壮太郎は物件の内容をひとつずつ見た。新築から、年数が経ったものまで、

色々な人の要望に応えられるよう、バリエーションがある。

さらに、用紙の貼り方、記載情報の細かさからして、

情報もしっかり管理されているように見えた。


「パパ……ここ、何? お店?」

「ここは……」


壮太郎が温に話しかけようとした時、カランカランと扉が音を立てて開いた。

外に出てきた心は、壮太郎を見る。


「よろしかったら、中にどうぞ」


掲示を見ていたので、当然客かと思い声をかけたが、

壮太郎は『いえ……』と頭を下げ、すぐに温と駅に動き始めた。

温は、壮太郎が急に方向転換をしたため、状況が理解出来ずに首を右左に動かす。

店の前に立つ心と目があったと思い、小さな手を振った。

心もそれに気付き、軽く振り返す。

心は、自分が声をかけたことで、2人が急に動いたような気がしたため、

声をかけるタイミングが悪かったかなと思ったが、

閉店作業をするために出てきたので、これから案内になるのも面倒だと考える。

立て看板をそばに置き、一度扉を開け、それを中に入れた。


【2-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント