4 折り紙の鶴 【4-1】

『有森不動産への出向』


提案したときには否定的だった梅本も、

何度も頼んだ壮太郎の熱意に負け、その異動を受け入れた。

『1年いなくなる』と話した時には、仲間は一瞬静かになったが、

若手は変化をすぐに受け入れたようで、『それはそれ』と動き出す。


「西森さん、本当はウソですよね」

「どうしてわざわざ仕事中にウソをつく必要がある」


抱えていた仕事を割り振り、データを処理していく壮太郎を見ながら、

隣にいる富田は首を傾げる。


「なら、冗談でしょ」

「富田、ウソと冗談の違いはなんだ、説明してくれ」

「いやいや、西森さん」


富田は、『俺は納得出来ませんよ』と椅子をそばに寄せる。


「納得?」

「そうですよ、「『リンゼルタウン』のキーマンになるのではないかと、
俺たち若手の間では噂でしたから。それが……いや、出向って……
西森さんが行く必要、あります?」

「出向に関しては、俺が頼んだ」

「ん?」


富田は周りを軽く見ると、さらに壮太郎に近づく。


「何か、やらかしましたか……」


富田の表情を見た壮太郎は、『お前じゃないので』と軽く返した。

富田は『いやいや、ならやっぱり納得出来ませんって』と言い返す。


「あのなぁ、富田が納得しようがしまいが決定事項。
出向してもあくまでも所属は『宅見建設』だから、水曜日はここに来る。
仕事のことも何かあったら、そのときに言ってくれ」

「エ……それじゃ、西森さん休みなしですか」


富田は『すごいな』と真顔で、壮太郎を見る。


「お前なぁ……。そんなロボットみたいに仕事が出来るわけないだろう。
向こうの社長がいい人で、日曜は出なくていいとしてくれた。
俺が子供を引き取るために、出向を受け入れたとわかってくれてさ」

「ほぉ……」


富田は、『ブラックではなさそうですね』と、笑う。

壮太郎は、独特な話の展開を見せる富田とのやりとりも、

これから無くなるのかと思いながら、『お前もしっかりやれよ』と背中を叩き、

念押しした。





「西森壮太郎」

「あぁ……年齢は38歳だと言っていたな。
『宅見建設』で、賃貸の建設企画と管理をしている社員さんだそうだ」


出て行く壮太郎の職場でも話題になることは、

受け入れる側の『有森不動産』でも、当然話題にあがる。


「38歳か、何か失敗でもしたのかな、ここに出向するなんて」


千紘は、両腕を組む。


「失礼だなお前は」


社長の有森は、そばにあった新聞で千紘の頭を軽く叩いた。

パコンという乾いた音がする。


「いや、だって、普通この年齢の人寄こすか? バリバリやれる年齢じゃないか」


千紘は立ち上がり、冷蔵庫からお気に入りの栄養ドリンクを出す。

その蓋をひねりながら、自分の首もひねった。


「バリバリを寄こせと言ったから、その通りを寄こした。ただそれだけだろう」


有森の返しに、千紘は『は?』と疑問符一つを返した。

有森は『は?……とはなんだ』と言い返す。


「は……そのまま『は』だよ。バリバリを寄こせって、よくいうよな、親父も」

「冗談はともかく。西森さんは離婚してお子さんがいるそうだ。
そのお子さんが『くれよん保育園』に通っているから、自ら名乗り出てくれたと、
聞いたぞ」

「あら、シングルファーザー?」


節子はずれたメガネを定位置に戻し、

水をやった小さな植木を日当たりのいい場所に移動する。


「まぁ、そういうことだろうな。男性が引き取るのは珍しいけれど……」


有森は『まごの手』を取ると、軽く背中をかき始める。

心は、有森親子の会話を聞きながら、情報誌に挟まれた物件を、

地域と地域外に分け始めた。





「お! 38歳、男……いいじゃないのよそれ」

「何もよくないですよ、直美さん」


心は仕事を終えた後、直美と待ち合わせをした店でメニューを見る。


「ん? どうしてよ。11歳年下と55歳独身という2択から3択になったのでしょう」


直美は『決めた』と一言言うと、メニューを横に置く。


「ねぇ、どんな男?」

「人の話聞いてましたか? これから来ますって言いましたよ私」


心は同じようにメニューを横に置くと、ウエイトレスを呼ぶためのブザーを押す。


「あれ、言ったっけ」

「言いました。『宅見建設』から1年間の出向だそうです。うちは管理物件が多くて、
地元とのつながりも深いから、まだ開発仕切れていない土地もあるし、
そういうメリットがあるのだろうと、社長が」

「そういうメリット?」

「賃貸マンションを建てたいそうです。『宅見建設』は賃貸の物件を扱うところなので」

「ふーん。そうか。これから来るというのなら、まだわからないわけか、どんな人か」

「そうですね。『シングルファーザー』だと言うことだけは、聞きましたけど」


心はメニューを広げて、自分の注文したいものを告げる。

直美も同じようにメニューを示し、ウエイトレスは『かしこまりました』と、

二人の前を離れていく。


「シングルファーザーか」

「そうです。珍しいよねとみんな……」

「いや、珍しくもないよ今は。あいつのバンドにも一人いるし、
この前、テレビで特集もしていた。お弁当とか一生懸命作るお父さんもいるって話。
映画になったりね」

「へぇ……」


心は、お冷やに口をつける。


「そうか、シングルファーザーか、でもそれなら選択肢としては難しいね」

「だから、選択肢は最初からないです」


心は直美の言葉に、すぐ反応する。


「あ……そうだ、あれからどうした? 『すやき屋』の店長」


直美は、杏が持ってきた話の続きを聞こうとした。

心は『何もありません』と言い返す。


「あら……こっちも無いのか」


直美はそう言って笑うと、『お腹空いた』と自分のお腹部分に両手を当てた。


【4-2】



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