4 折り紙の鶴 【4-2】

「今日は助かったよ。ありがとう」


その頃、話題にあがっていた『シングルファーザー』の壮太郎は、

部屋に戻り、先に寝てしまった温の寝顔を見ていた。

まだ本社勤めだった壮太郎の代わりに、今日は藍子が温の送り迎えを担当する。


「いいえ、どういたしまして」


藍子は『かわいい孫のためだもの』と笑う。

壮太郎は、静かに温の部屋のふすまを閉める。

壮太郎と暮らす最初の日こそ、温はパパと一緒に寝ると頷いたが、

その次の日からは、ここに来ていた時のように、一人で眠るようになった。

和室のテーブルには、湯飲みが2つ置かれ、そこに藍子が座る。


「今日ね、温の先生……とも先生だっけ? 聞いてみたの」

「うん」

「環境の変化があったけれど、温の様子はどうですかって」


『くれよん保育園』には、温の保護者が変わる事情を話していたため、

藍子は担任の保育士に様子を尋ねた。

壮太郎は『どうだって?』と藍子の顔を見る。


「前と変わりませんって、そう言われた」

「そうか……」


壮太郎はそれならよかったと、息を吐く。


「何、安心しているのよ、壮太郎」

「ん?」

「変わらないわけないでしょう。頑張ろう、頑張ろうって温なりに戦っているのよ。
先生もそう言っていた。きっと温君は、小さな心を奮い立たせていますって」


藍子は『パパもママも大好きだから、哀しい顔をさせたくないのでしょうね』と、

言われたことも話す。壮太郎は、自分の湯飲みを見ながら、

今朝、自分で流しに食器を運んだ温のことを思い出す。


「ねぇ、さやかさんは温にどう説明したの?」


藍子は、急な環境の変化を、母親はどう説明したのだろうかと興味を持った。

さやかが『新しい生活の形』をどう説明したのか、

壮太郎は『詳しくは聞いていないけれど』と前置きする。


「温を引き取りに行った時には、パパが寂しくなったから、
今度はパパのところにいるよ……って、そう言っていた」

「エ……何それ」

「まぁ、正確にはわからないけれど、おそらく、
パパが温と暮らしたいって言っているとか……そんなふうに話したのかなと」


壮太郎は確信はないため、少し声のトーンが落ちる。


「何よ……それ。好きな男が出来て、新しい生活に温が邪魔になりましたって、
言えるはずはないでしょうけれど、壮太郎の方に何でも押しつけなのね」


藍子は、『だったら最初から寄こせばよかったのよ』と、不満そうな顔をする。


「もういいよ、ウソじゃないし」


壮太郎は、温と一緒にいられるのは嬉しいと、笑顔を想像し、優しく微笑んでみせる。


「でも、とも先生の言うとおりだな。温には相当、ストレスがかかっているはず」


『いい子』に見えていることが、逆に苦しさを隠している気がして、

壮太郎は、藍子が栃木に帰ってからのことを考える。


「ねぇ、お父さんと言っていたのよ、あんたたちを栃木に戻して、
で、こっちで仕事探してさ。再婚のお相手くらい、誰か紹介してくれないかなんて」

「再婚? あぁ、いい、いい、そういうのはいいです」


壮太郎は、顔の前に両手でバツを作る。


「今はそんな気持ちになれないよ。まずは温……」


壮太郎はそういうと、『風呂に入るよ』と立ち上がる。


「今はって、これからなるわけ?」

「そんなもの、わからないだろうが……」

「ねぇ、壮太郎」

「ん?」

「結婚のことはまぁ、あれだけど。温のことは……」


藍子は心配そうな顔をする。


「あの子なりに、温なりに、健気に頑張ろうとしているのよ。
最初の日、そう思ったでしょう。いい……平気だ、大丈夫だ、もう慣れたなんて、
思ったら絶対にダメだからね」

「わかってるよ」

「いつでも飛んできてあげるから、あんたも無理しないように」


壮太郎は『うん』と言いながら頷く。


「留美にも連絡しておいたから」

「留美? なんであいつに」


留美とは壮太郎の妹で、『山形留美』といい、年齢は5つ年下の33歳になる。


「なんでって、妹だもの。同じ東京にいるし役に立つこともあるわよ。
留美のところの章斗はもう2年生だし、何か頼めることもあるかもしれないでしょう」

「あいつに言うとな……数倍にして返せと言いそうだから」


壮太郎はそういうと、『まぁ、うん』と発言を止める。

藍子は、『明日、あんたたちと一緒にここを出るよ』と言うと、お茶を一口飲んだ。





「それじゃあね、温」

「うん。おばあちゃんまた来てね」


次の日の朝、壮太郎は初めて『有森不動産』へ出社することになった。

その前に『くれよん保育園』へ行き、温を預ける。


「よろしくお願いします」

「はい」


保育士は温を連れ、教室に入っていく。

藍子は立っている壮太郎のお尻を、一度叩いた。


「なんだよ」

「しっかりしなさいよ。温は壮太郎を見ているからね」

「最後に妙なプレッシャーかけるなよ」


壮太郎は『来てくれて助かった』と藍子に頭を下げる。

藍子は『うん』と頷くと、栃木に帰るため、そのまま駅へ向かった。





『TAKUMI 有森不動産』



壮太郎は店の前に立つと、先日も見た掲示を確認する。

温と一度この場に立った時、そのタイミングで女性の社員が出てきた。

その人もおそらく中にいるだろうが、あまりにも瞬間的な出来事だったので、

その日のことは覚えていないだろうなと思いつつ、扉を開ける。


「いらっしゃいませ」


壮太郎が入ったタイミングで、元気な声を出したのは、千紘だった。

壮太郎はすぐに名刺を出す。


「『宅見建設』から来ました、西森です。有森社長はいらっしゃいますか」

「あ……はい」


名刺を受け取った千紘は、カウンターの奥にいる父親に声をかけた。


【4-3】



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