4 折り紙の鶴 【4-4】

その日の帰り、さっそく『くれよん保育園』に事情を語るため、

心は壮太郎と一緒に、駅の反対側へ向かった。


「すみません、わざわざ……」

「いえ、わざわざではないので平気です」


心は自分のマンションが、こっち側にあるのだと上を示す。


「こっち?」

「はい。ここから歩いて数分です」


心は『近いでしょう』と笑う。


「私もまだ、あのお店で働くようになって半年くらいで。
そもそも、家を見つけるために『有森不動産』に入ったのに、
偶然、事務員を募集していたので、そっちも同時にとお願いしたものですから」

「あ、そうですか」


壮太郎は、『このあたりは環境が良さそうだから住みやすいでしょうね』と、

左右を見る。


「どうしてそう思うのですか?」


心は、壮太郎が普段使っていない場所なのに、

環境がいいと思う理由を聞きたくてそう問い返した。

壮太郎は少し前に通過した駅を示す。


「駅周りの駐輪場とか、こうしたゴミ置き場の状態とかをみると、
だいたい近所で生活している人達の様子が見えます」


壮太郎は、『賃貸物件』を作る場所を選ぶ時に、色々見て回るポイントを説明する。


「へぇ……」


壮太郎は『のどかそうです』と印象を述べる。


「そうですね、でもその分……」


心は壮太郎に知識があると思ったため、駐車場の管理について話し出す。

このあたりに駐車場を持っているのは20人ほどの地主で、

その半分が昔からのように、台帳を見せに行き印鑑を押すスタイルを取っている。


「とにかくたくさんあるので、駐車場管理も、PCメインで行いたいのですが」

「あぁ……未だに通帳と印鑑ですか」

「はい。うちで一番大きな駐車場を持っている寺井さんは、
未だに通帳を持ってチェックする方法なんです。期日が来たら見せて、
また揃ったら見せて……で、全額をまとめてとはいかなくて」


心は、『寺井幸子』名義の通帳を預かり、

毎月、借り主全員の名前が通帳に入ったことを報告に行き、

手数料の印鑑をもらって帰ることを話す。


「確かに昔はそうでしたからね。うちでも御用聞きのように営業マンが出向いて、
そこで顔を見て印鑑を押す仕事も、あるにはありました」

「『宅見建設』でもですか?」

「ありますよ。うちは管理が仕事ですから。自社ビルではないので、
あっちにもこっちにも取引先がある感じです」


壮太郎は『守秘義務があるので、あまり細かく語るのはダメですよね』と、笑い出す。


「それを言うのは、私ですよね。結構話してしまって……」


心は、壮太郎の話に納得出来たこと、

さらに『宅見建設』という別の場所から来た人という気持ちもあり、

相談出来るという気持ちが前に出て、つい語ってしまったことを反省する。


「いえ、桜沢さんは業務改善のために問題点を口にしただけですから。
そうです、これは作戦会議です。効率よく、仕事をするにはどうしたらいいのか。
そう考えましょう。僕がこちらに来たのは、そのためだと思いますし」


壮太郎の返しに、心は『はい』と返事をする。

話しながら歩いてきた二人の足は、すでに『くれよん保育園』の敷地内に入っていた。

壮太郎の顔を知っている親たちは、その隣にいる見慣れない心に対して、

『もしかして』という顔を、一斉に見せ始める。

ある女性は、すれ違いのタイミングで口を開け『あ……』という声を漏らし、

自転車に子供を乗せた母親は、一度ブレーキをかけ振り返った。


「こんばんは……」

「あ……こんばんは」


中には、心に対して堂々と話しかけてくる人もいる。


「視線感じますね」

「エ……」


初めてこの場所に来る心は、もう相当昔に関わりを終えてしまった砂場や、

滑り台を見ながら、子供の遊具もずいぶん変わったものだと考えていたため、

周りの視線をそれほど感じていなかった。

壮太郎の一言に、あらためて顔を上げる。

目があってそらす人、『こんばんは』と言ってくる人など、それぞれだった。

『女性同士』だからこそ、知りたい気持ちが大きくなる。


「うーん……何だと思われているのかな」


心は『わかっている』のに、あえてわからない振りをする。


「どう……思います?」


壮太郎も、あえて聞いてきた心に、また同じようなボールを打ち返す。


「入園希望の園児とは思わないですよね……」

「ないでしょうね」


壮太郎は、そう言いながら笑うと、温の担任『とも先生』を見つけ頭を下げた。


「こんばんは、西森です」

「はい……こちらへどうぞ」


あらかじめ心が行くことを話していたため、とも先生は壮太郎と心を、

職員室の方へ連れて行った。



「『有森不動産』の桜沢心です」


心は、身分を証明するものとして、顔つきの名刺を先生に出す。


「ありがとうございます」


とも先生は名刺を両手で受け取った。


「電話でお話した通り、基本的には僕が迎えに来ます。ただ……職場のみなさんが、
何かがあったときの保険としてと、ありがたいお話をしてくださったので」

「そうですか。今は、色々ありますしね」


担任の女性は、『有森不動産って、駅の向こうの……』と、指で何かを越すような、

仕草をする。


「はい」

「あぁ、そうでしたか。よく子供達とお散歩で前を通ります」

「そうですか」


心は『何かありましたらぜひ』と笑顔を見せる。

保育園では、登録された人しか子供を連れて帰れないため、

心は、とも先生から出された書類に、『有森不動産』の代表として名前を記す。


「よろしくお願いします」

「はい……」


とも先生は、書類を受け取ると、温君を連れてきますと二人の前を離れた。

壮太郎は、あらためて心に頭を下げる。


「面倒なことをすみません」

「いえいえ……でも、そうですよね、登録制……」


心は、自分の名前を書く時に、緊張しましたと笑う。


「今は色々と問題がありますし、保育園側も慎重にならざるを得ないのでしょう。
昔なら、ついでにこの子も連れて帰るよなんてこともあったでしょうけど……」

「確かに……」


心と壮太郎は立ち上がり、廊下に出る。

保育園の職員室前には小さな水槽があって、数匹の熱帯魚がのんびりと泳いでいた。

心は、カラフルな魚を見る。


「ねぇ……温君のお迎え?」


壮太郎と心の前に、一人の女の子が立った。


【4-5】



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